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「AIが進化してもインタビューは人間にしかできない」は本当なのか

日々思っていたことを、勢いで書いた記事『生成AI・ChatGPTを使いこなすのがライターの当たり前になる世界』は思いがけずたくさんスキのリアクションが届いた。ライティングをしている人の中では、まだ言語生成AIを使っていない人も多いんじゃないかな。現段階で結構使っている側の書く人として、感じている今とこれからを知って、ポジティブに受け止めてもらえたのならうれしい限り。


せっかくだから、ライティングだけじゃなくてインタビューについてもAIとの付き合い方の話をしたい。わたしの耳には「ChatGPTが出て、ライターの仕事はAIの奪われつつあるけれど、インタビューライティングは人間にしかできない」という声が多く届く。メンターをしているクラウドワークス主催の取材ライティング講座でも、最近は「取材ライターは人にしかできないから」という理由で取材のスキルを学ぶべく受講する方も多い印象。現状、わたしも「インタビュアーの仕事もAIの方が人間より上手です」という話は聞いていない。

それでも、言語生成AIが広まり始めたころから私はずっと疑っている。本当に、インタビューは人間にしかできないことなのか。


AIにもできるインタビューをしている人は多いと思う。AIにもできるインタビューというのは、決まった質問を、質問案の上から順にしていくようなもの。「最初に、事業紹介をお願いします」「続けて、サービスの強みも紹介してください」「それでは次に、今のサービスを始めようと思ったのか、きっかけを教えてください」……と、台本どおりに質問を読み上げるだけでいいような、面白みのないインタビュー。
インタビュアーといってもそれ専業の人は多くなくて、会社だったら広報担当の人が業務のひとつとして行う場合も少なくないから、仕方ないことなのかもしれない。でもそれなら、AIだって間に気の利いた言葉を加えながらスムーズに、要約しながら聞き進められるインタビュアーを今だって十分に務められる。


話は変わるけれど、最近私、国語の勉強をしているんですね。『大人のための国語ゼミ』。著者の野矢茂樹先生の教えを少しずつ受けながら、普段使いの日本語を学びなおしている。文学作品を題材にするのも素敵だけど、普段使いの、というところがいいよね。野矢先生自身が作成したという例文を題材に、普段着の文章を、理解して、話せて、書けるようになる。そんな国語ゼミ。

ゼミの中に、「的確な質問をする」という章がある。国語的に、よい質問って何なんだろう。果たして自分はそれができているのか。目次を見てインタビュアーとして一番気になるこの章を真っ先に開いた。

的確な質問ができるようになるには
1 質問を考える
2 目的に合わせて、的確な質問を選ぶ
3 対話の流れの中で、必要なタイミングで選んだ質問をする
ことが必要。

国語ゼミでは、質問の形は次の3つに分類される。
・情報の問い(もっと知りたい)
・意味の問い(もっと分かりたい)
・論証の問い(きちんと納得したい)

私自身はこれまで、こういう分類をしながらインタビューの仕事をしてきたわけではない。それでもそれぞれの解説を読めば、あ、そうあの時の質問は、そういう意図で尋ねたなと心当たりがあった。大納得。

インタビューというのは、きっと初めどこての方に行う場合が多い。事前準備をするとはいえ、相手の情報が少ない状態で、台本もない対話を一緒に0から作り上げていく。内容を理解しつつ、リラックスして心地よくいろんな話をしてもらえるように聞き手を務める。同時に頭の中では、複数の質問を浮かべつつ、どれを選ぶと限られた時間の中でよりよい話をしていただけそうかを想像する。残り時間の確認も欠かさない。本編には関係しないことまでたっぷりお話してくださる方には失礼のないように軌道修正を図らなければ、今日のゴールに一緒にたどり着くことはできない。「これだ!」と選んだものを、話の腰を折らないよう気を付けつつ、適切なタイミングで口にしてみる。インタビューというのは、そういうことの繰り返しでできている。


先に挙げた的確な質問をするための「1 質問を考える」であれば、AIはとても得意。「ここまでの内容から、質問を考えてください」と数指定で問いかけたら、10でも20でも、求めた分だけ質問は考えてくれる。

じゃあ「2 目的に合わせて、的確な質問を選ぶ」はどうか。一問一答のようなテキストでの対話形式なら今のAIでも対応できるだろうけれど、1時間ほどの型のない対話だとかなり難しいだろう。
何が的確な質問にあたるかは、場面によってまったく異なる。そもそもインタビューの目的を常に頭のなかに置きつつ、必ずしなければならない質問をチェックポイントのように確実に通過しながら、このタイミングでの“的確”を考える。戻って確認すべきことは? 解像度を上げるために、その場でさらに広げるべき話は? 話題を前に進めても大丈夫? そういうことを総合的に考えなければならない。AIには、「的確な質問」を選ぶための条件を理解しきるのが難しそう。

さらにそれを「3 対話の流れの中で、必要なタイミングで選んだ質問をする」ことが必要になる。空気を読むみたいなことがメインの、言葉で説明しきるのが難しい部分になる。
例えば、インタビュアーの問いかけ一つに対してどのくらいの分量を話すかは、人によって、タイミングによって、質問によって全く違っている。切れ目なく話をする方には、どこなら自分が入っても失礼にならないかを見極めなければならない。言葉で説明しきれないのだから、AIに理解させて対応してもらうのは、現状だいぶ難しいだろう。

……と、インタビュアーがしていることを、言葉にしてみるとこんな感じになる。

結論、「質問をする」だけなら今のAIでも十分できる。でもそれ以外の、あまり知られていないけれどインタビュアーの思考のほとんどを占める「察して働きかける」の部分が、AIには難しいんだと思う。


とはいえ、「じゃあインタビューはこの先もずっと人間に」というのでもないんだろう。インタビュー時、対話をその場で文字起こしするのは今の技術でもできることだけれど、それを要約して、的確と思われる質問案を随時出してもらう。その中で、人がより適切と思うものを、適切と思われるタイミングで、適切と思われる伝え方で尋ねてみる。

目の前の相手との対話しつつ、自分の中の自分と相談しているところに、AIも意見を述べる形になるので実際やってみたら混乱はしそうだけれど、何度か試してそれくらいなら、負担はかかっても今より質の高いインタビュー時間を提供できる可能性がある。

いずれにしても、もう人間とAIどちらが良いかみたいな話は、勝ち負けを決めるために競うとか、奪う奪われるとかいう類のものではない。「よりよい」のために、どうやったら一緒に働けるのかを考える。技術は進化し続けるのだから、考え続ける。正解はない。そういう柔らかい心で私も頑張って学び続けるから、AIとはよい仕事仲間であり続けられますようにと願っている。

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