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ボードゲームはデジタルボードゲームになれるのか

 遊戯王マスターデュエルやSteam版Dominionなど、これまで紙でプレイされていたゲームをデジタル化することで、より素晴らしいゲーム体験ができるようになるだろうと考えるのは道理である。
 しかし、真面目に考えれば紙のゲームを逐語的にデジタル化するのではなく、カードプールから変えていくような覚悟がなければ、最高に良いものは作れない。
 はじめからデジタル向けに作られたゲームと、デジタル化した紙のゲームはどう違うのかについて説明していきたい。

誘発-応答課題

 デジタルゲームに馴染まないシステム、これは誘発に尽きる。誘発とは「相手のターン中に自分の選択が介在できるシステム」としておく。

 リアルではあまり気にならないが、カードゲームというものは常に優先権を譲渡しあっており、デジタルにこの誘発を持ち込むと、理論上は自分ターンに行動するたびにいちいち相手の意向を確認するメッセージである「WAIT」が表示されるため、円滑なターン運びが妨げられてストレスになり、またプレイに時間がかかる。リアルではあまり気にならないシステムがデジタルにおいては煩雑に感じられるというならつまり、これはデジタルには向いていない処理であり、実際ネイティブなデジタルカードゲームにおいて、相手ターン中に自由に行動することを許すシステムを搭載するものはほとんどないだろう。シャドウバースなどのDCGではそもそも誘発(相手ターン中の行動)はゲームから削除されている。
 しかし、誘発がないと相手ターンにコンボが完成するのをただ眺めていることしかできず、味気ないのでは?というのが誘発のあるゲームをプレイしたことがある層からの感想だろう。
 しかし、「応答時間がかかる」という以外にも、デジタルゲームに誘発を持ち込むことには問題があって、それは「WAIT」表示が出るかどうかによって対戦相手の手札が透けるというものである。誘発の仕組みをそのままコンピュータに移植すると、相手がリアクションできるカードを持っているかどうかだいたいわかる。自分ターンなのに「応答待ち」の表示が出ていたらそのようなカードを持っていて、応答待ち時間がまったくなかったら相手には動けるカードがないということだ。そういうわけで、リアルでは相手の手札にあるか分からないカードがデジタルでは高い精度であると推測できることになる。

 ゲームにおいて相手の手札が分かるということは問題なので、工夫が用いられる。麻雀では「ポンラグ、チーラグ」と呼ばれる「相手が鳴かなかったものの、手牌に鳴ける牌の並びを持っていないと発生しえないだろう応答待ちのラグ」があり、これによって相手の手牌の一部をデジタル特有の理由によって推測することができるという同様の問題を抱えている。デジタルのラグ読みを対面の人読み(その人の癖や表情、キズから勘案して打牌を判断する技術)に置き換えればべつにゲーム性は破綻していないという考え方もあろうが、天鳳や雀魂ではランダムに導入される「偽ラグ」によってこれを緩和している。打牌の合間に他家のポンやチーの確認で時間が取られるため、円滑なプレイが妨げられうるというところに関しては「鳴きなしモード」を実装することによって巧みに回避している。

 またそもそもお互いのインタラクションによる待ちが原因でワンプレイが長くなっているのなら、お互いがターンを同時進行すればいいという発想で作られたTEPPENなどのデジタルカードゲームもある。

 さて至高のボードゲームであるドミニオンでは、相手が手札にリアクションカードを持っていようと(何を持っていようと)、あまり関係がないという長点があるため、リアクションカードの有無が応答時間によって透けて困ることはない。
 一方で、プレイ時間が一部カードによって増していることについて思うことは多々ある。たとえばアクションカードの民兵を使うと、対戦相手であるn人は手札を3枚になるよう捨てるが、捨てるカードの選択を待たなければならない。対戦相手が同時に捨てるのではなく、A→B→C→Dと順番にレスポンスが渡っていくからさらに時間がかかる(ここを改善してほしい)。
 民兵は何枚打たれても最初しか働かないからマシだが、仮面舞踏会などは最悪だ。こういうリアルではたやすく行えるような処理がデジタルではゲームのテンポを悪くする。

 デジタルのカードゲームでは、サイコロを6回振った結果で効果が複雑に変化するようなカードより、「対戦相手は~してもよい」とカードテキストに書かれている(いわゆるリスティックのような)カードのほうが処理コストが高い。カードの開発やカードプールの追加において、考えていかなくてはならない部分だろう。


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