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すりおろしリンゴの思い出

お昼前に保育園からお熱コールがかかってきた。

38.2℃の熱を出したとのことだった。最近では首都圏で手足口病が流行しており、今日の登園時に担任の先生から「手足口病の疑いで4、5人お休みの連絡が来ているんです」と注意を呼びかけられたばかりだった。

ちなみに手足口病とは、夏風邪のひとつ。口の中や手足に発疹や水ぶくれができて、子どもによっては高熱をともなう病気のこと。いまのところそれらしき発疹はないが、様子を見ている。

39℃近い熱が出ると、食欲は出ない。いつもなら大人顔負けの量を食べる息子は、今日ばかりは「いらなぁ」(いらない)と食べ物を受け付けない。

そこで僕は、息子にすりおろしたリンゴを与えることにした。彼の前でリンゴ1玉を見せて「リンゴ食べる?」と聞いた。すると息子は、「リィゴ、もぐもぐ」(リンゴ、食べる)と小さな声で返した。

表面をよく洗い、おろし金でジョリジョリとリンゴをすっていく。息子は「おいしい」と言って、よく食べた。

割り当てを平らげると、息子は「もぉと」(もっとちょうだい)とおかわりを求めてきた。息子は結局、小玉のリンゴ1個を食べた。

食べたくないときには、無理に食べようとする必要はない。食べられるものを口にして、水分を摂れば大丈夫。不調のため息子の機嫌は悪くて、激しく泣きながら眠りについた。いまはかわいい顔をしてスヤスヤと眠っている。

息子のためにリンゴを用意しながら、僕は自分が小さいころのことを思い出した。僕は体力に恵まれているわけではないが、いまでは大きく体調を崩すことなく生活できている。しかし、中学生までは相当に体が弱く、雨に濡れると決まって熱を出すほどだった。

熱を出して布団で横になっているとき、母が枕元に持ってきてくれたのが、すりおろしリンゴだった。冷蔵庫でよく冷えたリンゴは、熱のある体には心地よく、食べた後には体がいくぶん楽になったような気がした。それに、自分のために母がわざわざリンゴをすりおろしてくれたことが嬉しかった。

いま僕は親になり、自分が母からしてもらったことを息子にしている。僕がリンゴをすりおろすときに思うことは、たったひとつ。「早くよくなってほしい」、それだけだ。

「パパが隣にいるから、大丈夫だよ」

息子の髪を撫でながら、彼に語りかけようと思う。



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