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恩師と出会い、音楽に惹かれ、オペラを愛す 宮本益光

こんにちは!
ハンサム・塩顔・黒縁眼鏡に目がない、note更新担当のたぬ子です。

今回は、オペラ歌手として全国各地で多くの公演をされながら、『アンサンブル・ソネット愛媛』の音楽監督も務められている、宮本益光(みやもと ますみつ)さんに、お話を伺ってきました。

4名のバリトンで結成された『ハンサム四兄弟』のご長男でもあるとのことで、たぬ子はもちろんテンションマックスです!笑

[プロフィール]
■氏名(ふりがな)
 宮本 益光(みやもと ますみつ)
■ジャンル
 バリトン(声楽)
■連絡先(マネジメント:株式会社 二期会21)
 TEL:03-3796-4711 FAX:03-3796-4710
■経歴
 愛媛県八幡浜市出身。東京藝術大学卒業、同大学院博士課程修了。学術(音楽)博士号取得。奏楽堂日本歌曲コンクール奨励賞受賞。第69回日本音楽コンクール入選。国際モーツァルトコンクール派遣者選考会にて優秀賞受賞。2005年「テレビ愛媛賞25」、2009年「よんでん芸術文化奨励賞」を受賞。
 全国各地の劇場・ホールで、数多くのオペラ、コンサートに出演の他、合唱指導にも力を入れており、アンサンブル・ソネット愛媛、シンフォニーヒルズ少年少女合唱団、洋光台男声合唱団、カマラード横浜の音楽監督、初音の杜ジュニアコーラスの指導者、八幡浜児童合唱団の特別講師をつとめる。
 MOZART SINGERS JAPAN主宰。桐朋学園大学准教授、聖徳大学客員准教授、東京藝術大学講師。18年やわたはま応援隊に任命された。二期会会員。

歴史があり、現在いまがあり、未来がある

ウィーン国立歌劇場にて音楽コーチと

ーオペラの魅力について教えていただけますか。

 歴史と時代ですね。
 オペラは1600年頃にイタリアから始まったと言われていて、400年の時を経た今では世界中で公演されています。
 しかも、誰でもができる”歌”によってここまで広がってきた。これは、大きな魅力ですよね。

 ヨーロッパではモーツァルトの時代からすでに、貴族のものではなくて大衆演劇としてオペラがあったように、生活の傍らにある身近な文化として発展しているんですよ。
 いわば日常の究極の発展型が、オペラなんじゃないかな。
 
 日本語を日常的に話す私たちがイタリア語で演じて、それを本場の方々が認めてくれているというのは、オペラの背後に深い歴史と文化、そして未来が詰まっているなと思うんです。

ーオペラは、伝統や歴史があって由緒正しい印象だったので、“未来”という単語が出てきて驚きました。

 オペラは外国語で演じられることが多いので、日本の公演ではそこがハードルになってしまうんですけど、決してとっつきにくいわけではないんです。
 歌舞伎も古典芸能としての役割を担う一方、ナウシカやワンピースといった演目があるように、オペラだってこれからも更なる発展を重ねていけるジャンルだと、私は思っています。

テノールでも、バスでもなく、やっぱりバリトン

ドン・ジョヴァンニ_2

ー宮本さんのご専門はバリトンですが、専門の声域は誰かに決められるんでしょうか。

 誰かに決められることも、ゼロではないです。
 私の場合は、声域が安定しつつある時に「テノールですね」と言われることがすごく多かったんですね。
 だけど、高校生の頃から稽古を重ねてきて「自分はバリトンだ」という認識が強くあったので、「今はテノールのように聴こえるかもしれないけれども、そうじゃないだろうなあ」という想いでやっていました。
 もしも自分が信頼する人に、「テノールだね」って言われていたら、そっちの修行をしたかもしれないです。

ーそんなバリトンの魅力を教えていただいても、よろしいですか。

 自分は、テノールに憧れてる部分もあって…
 オペラのテノール・ソプラノといえば、ヒーロー・ヒロインなので切ない恋のお話やラブシーンが多いんですよ(笑)

 テノールやバスは誰でもが歌えない音域がありますが、バリトンは誰でもが歌えるであろう音域が中心なので、言い換えるとみんなが気軽に真似をすることができるんです。
 もちろん、商品として成立するかは別ですけどね。
 そうやって考えると、誰でもが出せる音域で「いかに魅力的な歌を聴かせるか」っていうところが、バリトンのおもしろいとこだなあと思っています。

4人での活動だからこそ、見えてくるもの

パパゲーノ

ー4名のバリトンで結成された『ハンサム四兄弟』としても活動されていますが、1人での活動と違うことや気をつけていることはありますか。

 ハンサムに限らず誰かと一緒にやるとなると、その人の能力が良くも悪くも自分に影響を与えますね。

 ハンサムはみんなバリトンなので、彼らと歌うことで「あ!そういう切り口があるか」と、私とは全然違うアプローチを発見することがあります。
 彼らが、私のやりたいことの上をいく可能性だってあって、考えただけでもそれはすごく刺激的ですよね。

 一方、音楽というのは戦いではないので、ハンサム四兄弟の長男として「彼らがより自分の能力を発揮しやすい環境を整えたいな」っていう想いもあるし、それでいて「自分を押さえるんじゃなくて、私も自分らしさが出せればいいな」って考えてます。

ーみなさんで、喋られている動画を拝見しましたがとても和気藹々わきあいあいとされてますね。

 3人の弟たちが、珍しくいい意味でギラついてないんですね。
 演奏家としての自尊心がありながら、人を思いやる気持ちや穏やかな部分もあって、一緒にいて窮屈なことは一切ないです。

ー個人的に気になっているんですが、『ハンサム四兄弟』は宮本さんが名付けられたんでしょうか。

 そうです。周りにはすごく反対されたんですけどね(笑)
 私のことはさておき、弟たちはバリトンの中でもスタイリッシュな役をやる人ばかりなので、イケメンとか、もっと小洒落た単語を誰もが想像すると思うんです。
 けど、そこに少し遊びや余白をもたせたかったんですよね。

 誰もが知ってる二枚目な部分だけではなく、役の裏側にある彼らのおちゃめな部分の表現したくて、それで”ハンサム”がぴったりだなって。
 ほんと自分のことは置いといてですよ(笑)

ーぜひ、愛媛県県民文化会館にも『ハンサム四兄弟』でいらしてください!

 愛媛でバリトンの歌をたくさん聴かれることはあまりないし、私の愛媛のお客さんたちは「バリトンと言えば、宮本益光!」って思ってくれている(…だと信じたい!笑)ので、彼らの歌を聴いたら絶対びっくりすると思うんですよ。
 そんな愛媛のお客さんに「こんな上手な人がいっぱいいるんだ!」って聴いてもらって、「益光くんも頑張らんといけんよ!」って言ってもらいたいですね。

公演と向き合う姿勢

コロナ禍で活動がすべてストップした時、ドン・ジョヴァンニの衣裳で

ー公演のために普段から気をつけていることはありますか。

 日本では公演を迎えるにあたって、それだけの準備をしていれば良いっていう環境がなかなか整わないんです。
 私は教員もしているし、いろいろな立場の人が他の何かをしながらうまく調整して、1つの公演を作っていくので、準備の面で気をつかう部分がありますね。

 なので、極力早い段階で準備を終わらせて、稽古期間に入った時に焦らないで済むようにしたり、何かイレギュラーなことが起きたとしても対応できるようにしています。

ーもっと、常に加湿器つけてますとか、のど飴は常備していますとか、そういうお話が出てくるのかと思っていました(笑)

 そういうのは全然ないですね。
 仕事で日本全国を周っていた30歳前後のころは、無駄にプライドと、歌手としての意識が高くて、加湿器や枕を持ち歩いたり、辛いものを食べないとか、ルールがいっぱいあったんですよ。
 でも、そのルールに縛られてる自分が嫌になってきちゃって。

 今は、食事も湿度もなんにも気にしてないです。
 ただ、睡眠は大事かな。健康的な生活を送ることが大切ですよ。

ー縛られなくなってから、何か変わったことはありましたか。

 お客さまに喜んでもらうのは当然だし、喜んでいただきたいと願ってはいるんですけど、神経質だった時は喜んでいただくことを優先して歌っている部分がありました。
 でもお客さまは、その歌に「よかった!!!」と拍手をくださる。
 それはそれで嬉しいんですけど、今思うとどこか評価を気にして、何かに迎合している部分があったなと思います。

 今ももちろん客席を無視してないですけど、より自分が描きたい旋律線をいかにして描くか、いかにして達成するかという、自己と対峙する気持ちが大きいです。
 そして、そこに良くも悪くもお客さまの反応がついてくると「幸せだなあ」と感じます。

何度準備しても、歌っても訪れる瞬間

ポートレート

ー公演中にヒヤッとしたことありますか。

 そんなのいっぱいあります。
 どなたも経験あると思うけど、歌詞が出てこないっていうのがよくあって、何百回って歌ってるやつに限って「ハッ!」と、頭が真っ白になるんですよ。
 お客さまの携帯が鳴って、そっちを向いた瞬間に歌詞が出なくなるとか。
 それが嫌だから準備をするんですけど。

ー真っ白になった後って、どうされるんですか。

 言葉がまだそんなに達者じゃない時は、イタリア語の歌詞を記号みたいに覚えて、心で同時通訳しながら歌ってたんですよ。
 だから、適当にごにょごにょ言ってその場を凌いでました。
 でも、ドイツ語や、イタリア語、英語をなんとなく喋れるようになってきて、昔より言葉が身近になると、その発音で意味を言っているから頭の中に日本語が漂った瞬間に歌詞が出なくなるんですよ。
 だから、やり直すことがたまにあります(笑) プロ失格だよね…。

 …嘘つけないんで、素知らぬ顔で曲を進められないんですよ。
 だから「もう1回最初から、出てくるところからやります!」って。

その人が”音楽の先生”だったから

大学院博士課程

ー「教員になるために歌を始めた」と他インタビューで拝見しましたが、どうして教員を目指されたのでしょうか。

 ある先生が赴任されることで、その学校が音楽一色になったり、スポーツ一色になったりすることってあるじゃないですか。まさにそれ。
 小学4年の時に赴任された音楽の先生が、市内で有名な音楽を盛り上げることに長けた人で、その方が来てからみんなが音楽を好きになって、ほんとに小学校が音楽一色に変わっていったんです。

 それで、その先生が作った鼓笛隊に入隊したら、仲間もどんどん増えていくし、楽器の楽しさよりも先生の求心力に惹かれて、子どもながらに「すごい大人だなあ」と、先生のこと大好きになっちゃって。

 今考えると大迷惑だと思うけど、中学生になっても土日になったら先生の家へ遊びに行って、CDを聴かせてもらったりしてました。

 とにかく先生の人間性に惹かれましたね。

 自分もああいう大人になりたいと思って。
 それで、「先生のような教師になってみたい」と思うようになりました。
 美術の先生だったら「絵描きになりたい」と思ったかもしれないし、体育の先生だったら「体操選手になりたい」って思ったかもしれない。
 ただ、最初に出会った先生が”音楽の先生”だったんですよね。

ー先生は、今でも大きな存在ですか。

 私が高校生の時に亡くなったんで、ステージ姿をお見せできてないんですけど、遺言のように「あなたは愛媛で音楽の先生になりなさい」っておっしゃってました。
 今でもその言葉がすごく強く残っていて、お客さまに何か教えようと思ってステージに立っているわけではないけど、常に”教員だとしたら”という視点をもって歌っています。
 それは、教員になりたかった自分の根っこの部分というか名残り。
 名残りじゃないな本筋なのかな。
 今でも教えるのは好きだし、教育の現場に身を置きたいと思ってるのはそこなんでしょうね。

ー今、声楽家としての道を歩まれていますが、心の中にずっと先生の言葉があるんですね。

 すごくありますね。
 私がしてもらったことを周りの人にしてあげられたら、どんなに幸せだろうと思います。
 「先生のような自分でいられたらいいなあ」という願いを失ってないですね。

とめどない愛情をそそぐ場所

幼少期

ー愛媛県の魅力を教えていただけますか。

 「やわたはま応援隊」もやっていますから、故郷ふるさとを人一倍愛してる自信があります。
 自分が育った町だからって言われたらそこまでですけど、両親がいて、帰った時に「おかえり」と言ってもらえる、愛媛には安心できる空気感があるんですよ。
 それは愛媛だから、故郷ふるさとだからなんでしょうけど、そういう目線で見ると山も海もみかんも魚も全てが愛おしい。

 なんのためらいもなく愛情をそそぐことができる場所、それが”ふるさと 愛媛”ですね。

ー今後、愛媛でやってみたいことはありますか。

 オペラや声楽って、学校教育に組み込まれていても、どこか距離があるのは事実だと思うんですよ。東京でもそう思うんだから、愛媛ではなおのことだと。
 だけど、私や仲間の声を聴いて「すごい!」と思う子どもたちが愛媛にいるであろうことは想像できるし、合唱やミュージカルをやりたい子たちも、たくさんいると思うんです。
 そういう子どもたちがワクワクするような、でも子どもに寄りすぎるわけでも、クオリティーを下げたものでもない、私の本筋をもってしてなお満足していただけるような活動を展開したいなと思っています。

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 また教育者としての話もしましたけど、子どもたちに対する目線、特に愛媛の子たちがやりたいと思うことに関しては、どんな協力でもしたいと思っていますし、自分でもその場を作っていきたいですね。
 私の周りにいるすごい人たち、国内でトップクラスの人たち、世界に通じる人たちを愛媛にお招きしたいなと思うし、愛媛が音楽で盛り上がるための橋渡しになれるといいなと思ってるんですよ。

絵しりとり つきみ ⇒ み○○○

絵しりとり

今回はオンライン取材だったので、どんな絵が送られてくるのかワクワクしていたのですが、想像以上に素敵な作品を送ってくださいました!

ほんっとにドキドキ、ワクワクしながら迎えた取材でしたが、始まってみたら楽しくて勉強になるお話ばかりで、あっという間の時間でした。
ぜひ、愛媛県県民文化会館にいらしてくださいね!

※今回の取材はオンラインで行い、
記事内の写真は全て宮本益光氏よりご提供いただきました。


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