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第43回絵本まるごと研究会

3月10日の例会では、「子どもと絵本をつなぐ ―ブックスタート事業と学校図書館―」と題して、子どもが絵本と出会う状況について、担当者が研究や経験をもとに発表しました。

武田直子
絵本専門士(第6期)の講座を受けるなかで、すべての子どもに絵本が届く環境づくりに興味を持ち、社会人大学院で読書に関する都市行政を研究。修了後、現在は学校図書館について知りたいと司書教諭の勉強中。

増田穂里
小学校図書館勤務。司書の専門性を磨くため、絵本に着目し絵本専門士(第5期)を受講。絵本の可能性を再発見し、各世代に合わせた絵本の提供のスタイルを学ぶ。現在は、単元に合わせた絵本の提供を探究中。


1. ブックスタート(R)は、各自治体でどのように実施されているか

今回、取り上げたブックスタート(R)と学校図書館には、すべての子どもが絵本や本とつながる機会を創出するという共通の目的がある。
では、その目的は達成されているのか、この項目では、ブックスタート(R)について、武田の大学院での研究の一部を紹介する。
ブックスタート(R)の取組みについて調査をした中核市以上の105自治体のうち回答のあった73自治体の74%、54自治体が「採用している」と回答しているが、実際はホームページで対象者限定の絵本の読み聞かせをしているだけ、絵本をプレゼントをしているだけの自治体など、ブックスタート(R)の意義が正しく理解されていない自治体も多くみられた。

ブックスタート(R)の採用状況から、子どもにとって最初の読書が、どのように取り組まれているか、以下のとおりまとめた。
■導入のきっかけは、市長や区長からのトップダウンである。議員からの質問が端緒であることはあっても、現場からの提案というケースはなかった。■いったん採用されれば、数年のちには、ブックセカンドやブックサードに発展していた。
■ブックスタート(R)採用のメリットについては、NPOブックスタートの調査に詳しいが、それ以外にも組織内の部署どうしの連携が深まった、自治体のブランディング化による人口の増加など、本来の目的以外にも多く分野で、自治体にメリットがあるという意見を得た。

NPOブックスタートとは関係なく、独自の事業を実施している自治体の特徴の多くはブックスタート(R)と大差がないが、NPOブックスタートを利用しない理由として、地域の書店の保護、絵本の選択、余剰本の返却など主体性を重視しているため。様々な経験値を、NPOブックスタートと共有することには消極的であった。

申請者に対してのみの事業に変更した自治体は、参加率が変更前の70%から30%前半にまで下がっているが、担当者は会場としている子育て支援施設のアピールに役立っていると語っている。

調査で、ブックスタート(R)の採用には、首長の意向が大きいことは明らかで、ある地域の子どもがいつ絵本と出会うかは、絵本に積極的な保護者でなければ、首長が握っているといえる。

2. 学校図書館で働く人たち

学校図書館職員(≒学校司書)には、
  〇司書の資格者
  〇司書教諭の資格者
〇学校司書モデルカリキュラム履修者
  〇特に資格を持たない人
が、ボランティア、専任の学校司書、兼任の学校司書という立場で働いている。

2016年に文部科学省がさだめた「学校司書モデルカリキュラム」について、
  ・25大学1講座で実施されている(2019,川原・岡田)
  ・「学校図書館の経営・管理・サービスに関する」7科目と「児童生徒に
   対する教育支援に関する」3科目の合わせて10科目で、司書資格・司書
   教諭・教職と科目内容が重なる場合は読み替えが可能
  ・普及に向けた仕組みづくり、現職者教育、教育内容の質保証が今後の
   課題

3.子どもが本と出会う場所 学校図書館

学校図書館と聞いて、どのようなイメージが頭に浮かびますか。
今の学校図書館は変わってきています。

でもその前に、学校の校舎に必要な施設に順番があることをご存じですか。
昭和22年に公布された学校教育法に、校舎に備えるべき施設として、
1.教室
2.図書室と保健室
3.職員室
とあり、昭和28年に施行された学校図書館法では、「学校には、学校図書館を設けなければならない。」と記されています。でも、長い間学習の場としての図書館運営はされていない学校がほとんどでした。

学校は、教育計画に基づいて運営されています。
しかし、その計画の中に、学校図書館の活用に対しての明確な活用指針と指導計画が示されていなかったため、指導者が活用のためのスキルを身につける機会も少なく、授業と学校図書館の活用が結びついていませんでした。
また、図書館担当になった教員が、学級運営を行いながら資料の購入から管理や整備までを行うため、管理もその管理者によって差が出ます。予算執行のため図書の購入はしたものの、荷をほどく時間のないまま資料が放置されたり、重複した資料を購入してしまうことも多々あったようです。
更に、本は税金で買っています。その本が紛失しないように、学校図書館にカギが掛けている学校も少なくありません。学校図書館が利用できるのは、図書委員のいる短い休み時間の間だけで、本好きの子だけが集まる場所となっていました。
また、学校図書館を活用する授業を受けた経験がない教員が多いことも、学校図書館の放置につながったのではないでしょうか。

そのような学校図書館の現状を知り、肥田美代子先生が当時の文部省に働きかけたことをきっかけに、令和5年度より「学校図書館図書整備5か年計画」がスタートし、学校図書館を「読書センター―」「学習センター」「情報センター」として活用を進めていくための予算がつきました。
そして、その計画を進めているうちに、学校図書館の運営には、お金だけでなく専門の職人が必要であることが分かってきました。そこで、第5次からは、「学校図書館図書整備等5か年計画」となり、この「等」が加えられたことにより、司書教諭と共に学校図書館司書の配置も努力義務となり、学校図書館の運営に携わる人員の配置が増えてきました。そして、みなさんが、多分、冒頭でイメージされたであろう、「暗い」「埃っぽい」「じめじめかび臭い」といった学校図書館は、人の手が加わることにより減ってきています。

しかし、全国の学校がこの条件を満たしているわけではありません。
学校図書館に係わる人の配置は、各自治体に任されています。そのため、学校司書などの専門職員が常勤する学校もあれば、全く配置がない学校もあります。その採用も、自治体採用、企業委託と様々です。

学校図書館の運営は、館長である校長の運営計画を伺い、司書教諭又は図書主任と相談しながら行います。学校司書の一番の支援者は、授業を行う教員です。
読書活動においても、調べる学習においても、教員が活用しやすいように、資料環境を整えることが最も大切な仕事です。教員が活用しやすいは、児童・生徒の読書活動や探求学習をスムーズにすすめられることにつながります。そのため、学校司書は教員と話し合い、支援のための資料準備を整えます。

しかし、それだけでは、学校図書館を活用する児童・生徒の読書や調べ学習は十分には進みません。そこで学校司書の出番です。

私が勤務する学校図書館はでは、週5日6時間の学校司書が常中しています。学校司書は、下記の計画を基に、司書教諭と協力して各学級の教員と協働し、児童の支援に努めています。
・学校教育計画
・学校図書館を活用した読書活動・探究活動の年間計画
・学校図書館司書年間活動計画
・月間図書館活動計画
上記の計画により、全学級が週に1時間以上、必ず図書館を活用する時間があります。図書館の資料を活用する学習や読み聞かせ、本の案内、ブックトーク、調べ学習の前の味見読書、ビブリオバトルの計画から開催、図書資料の使い方をまとめた図書館ノートを使った学習など、貸出と読書だけでなく、幅広く学校図書館を活用しています。
児童の興味関心がより学校図書館に向くように、様々な工夫をしています。例えば、本の表紙を見せる排架、ポップや本の紹介文の掲、調べ学習などで図書館を活用した授業の成果物の展示などを行い、情報の提供をします。

児童・生徒は、個々の家庭環境により、本との関わり方は様々です。たくさんの本を持っている子のいれば、読み聞かせの経験がない子もいます。また、全国の学校を見ても、蔵書数、施設面積、支援者の有無などといった、学校図書館を取り巻く状況は様々です。
しかし、どのような環境であっても、学校図書館は全ての利用者に平等な場所です。小学校の間に、本と触れ合う機会を多く持ってもらうため、本校では読み聞かせは勿論、国語以外の教科でも新しい単元の導入に絵本の活用をおすすめしています。

絵本と触れる機会を持てるのは、ほとんどの子どもは小学校の内だけです。だからこそ、たくさんの絵本に触れ、絵本の世界を楽しみ、本に触れる喜びや想像する力を育てて欲しいと思います。小学校の学校司書は、6年間という時間の中で、1冊でも多くの絵本や本との出会いのきっかけを作る支援を心掛けています。

そして、全国の小・中学校に、学校司書が配置が義務化され、児童・生徒が平等に、いつでも活用できる場所として学校図書館が存在する社会になることを願っています。

4. 作品に本や図書館が登場する絵本の紹介

増田が勤務先の図書館で、子どもたちとブックトークをする時、時間を決めて紹介させることから、今回は、2分という時間厳守で紹介しあいました。

『ぼくの図書館カード』
作:ウイリアム ミラー, 絵: グレゴリー クリスティ, 訳:斉藤 規 (2010年)


『ママのとしょかん』
作:キャリ・ベスト, 絵:ニッキ・デイリー , 訳:藤原 宏之 (2011年)

新日本出版社の「黒人の子どもを主人公に本を読む楽しさや図書館の魅力を描いた絵本シリーズ」5冊のうちの2冊。『ぼくの図書館カード』はアメリカの作家リチャード・ライトの自伝をもとに描かれたもので、黒人差別の中、本を通じて新しい時代を切り開きたいと願う少年の話。シリーズ最終巻の『ママのとしょかん』は、図書館司書の経験をもつ児童書作家が、現代のアメリカ社会における黒人女性図書館司書のハツラツとした仕事ぶりを子どもの視線で描いた明るくポジティヴな物語です。
本が、図書館が、いかに生きるエネルギーとなりえるのかを教えてくれます。(武田)

『カモシカとしょかん』と『としょかんやさん』
ぶん:魚瀬ゆう子 え:水上悦子
 桂書房 (2009・2018)

 富山県舟橋村立図書館に遊びに来たカモシカが主人公。「絵本を通し、子どもたちに夢とやさしさを届けたい」という地元の人たちの力が集結し、出版され、読み継がれています。
 舟橋村は日本一小さな村にもかかわらず、「奇跡の村」とよばれるほど子育て世帯が安心して住めるところです。
 カモシカが訪ねたくなるほど楽しそうな図書館。自分でも図書館が開きたくなるほど生き生きと働く図書館のおねえさん。本はひとりで読むものじゃない、みんなで読むからこそ楽しいということを感じさせてくれる、あたたかな雰囲気にあふれる物語です。
 カーモくんは地元のみんなに愛され、クッキーやふるさと納税の返礼品になったり、絵本がつなぐ絆が育まれています。(ともみ)

絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。

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