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名作ケンカ絵本

最初は些細なことから始まったケンカがどんどんヒートアップして、どうにも止められなくなるのはよくあること。小学校の教室で顔を真っ赤にして取っ組み合いをしていた男子が机を放り投げた瞬間、担任の先生がふたりをつまみ出して説教していたっけ。【以下ネタバレあり】

富安陽子 文・西巻茅子 絵 『ケンカオニ』 こどものとも481号(福音館書店、1996年)
※画面左下のキズは貸出ラベルを独自に作って貸し出していた頃の跡。
そろそろ買い替えたいのだけれど ……

この絵本では、そんなケンカの様子がオニが取り憑いたものとして描かれている。ケンカがどんどんエスカレートするさまは大袈裟ながらもリアルだ。ケンカオニもケンカの当事者もどうにもならなくなって「たすけてー!」と叫んだとき、ケンカオニとうさんがケンカオニを迎えに来る。(『だるまちゃんとかみなりちゃん』でもふたりが困っているところに大きなかみなりどんがやって来たが、大人の役割はこどもが困った時にこのように助け舟を出すことだと思う。)

ケンカオニとうさんが雲の上であかケンカオニとあおケンカオニに言ってきかせる台詞がいい。
「ちょいと やりすぎたな。ケンカも ほどほどが かんじん」

つづいて、ふたり(二匹)のケンカオニは、おとうさんからご褒美にキャンデーをもらう。なぜなら、ケンカをさせるのがケンカオニの仕事だからだ。

この絵本がすごさは、けっして「ケンカをしてはいけません」とは言っていないところ。あくまで「ほどほどがかんじん」だと。ついつい些細なことからもケンカを始めてしまうこどもたちに、大きな罪悪感を抱かせることはしない。それでいて、オニの言いなりになってヒートアップしてしまうのはやめたほうがよさそうだと漠然と思わせてしまうのが、富安陽子さんならではのプロわざだと思う。

絵は『わたしのワンピース』や『ふんふんなんだかいいにおい』の西巻茅子さん。色鉛筆をベースに力強いタッチでエスカレートしていくケンカを描ききっている。

本作は2014年にこどものとも700号記念コレクションとして再版されているが、現在は入手不可のようだ。ぜひ「こどものとも傑作集」に加えて、長く読み継いでもらいたい絵本のうちの1冊。

ついでながら、同じく「こどものとも」シリーズの1冊『にわとりさん』の絶版を嘆くにわとりさん🐓動画はこちら。よろしければご覧ください😆