見出し画像

ピーターラビットの世界

私がピーターラビットに出会ったのは、米国で遅蒔きながら絵本の勉強をしている時だった。児童文学担当の教授は以前絵本をビデオ展開する会社におられたので、絵本を立体的に見る意味を自分も知りたくて、片っ端から鑑賞したのだった。単にアニメ化しただけでは紙媒体の良さを超えることは難しい。英語学習教材としてなら有効活用できても、こどもたちには生身の人間による読み聞かせのほうがよいのでは?と思われるものも中にはあった。しかしながらこのビデオは、ピーターラビットの世界を見事に再現しており、作品の背景を知る上でも大変有益だと思った。

1902年初版のこの絵本をいま読み返してみると、病床のこどもに向けて書いたポターの目線に改めて気づかされる。これなら闘病中のこどもでもピーターに共感しつつ、いっしょに冒険を楽しむことができると思える。
話は逸れるが、入院中のこどもが共用スペースで観ていたテレビ番組で、「みんな、げんきー?」「げんきー!」のやりとりが毎日繰り返されていて酷だと思ったことがある。自分自身その場に居合わせるまでは思いも寄らなかった一億総元気の前提はあまりにも私たちに馴染んでしまっていて、実は誰かを傷つけているかもしれないことに思い及ばない。
『ピーターラビット』が愛される背景には、著者が自然を愛し克明に観察したのと同様、弱者への深い共感と理解があるのではないか。そう思って少し調べてみたところ、ポターは小さい頃から病弱で20代でリウマチを患って以来、心臓も弱かったとか。またこの作品が一段と好きになってしまった。

📘Beatrix Potter, The Tale of Peter Rabbit (Frederick Warne, 1902)
📚ビアトリクス・ポター作・絵『ピーターラビットの絵本1』石井桃子訳(福音館書店、1971年)
※当邦訳はご寄贈いただきました。改めましてここに御礼申し上げます。