きっと明日は
被災地に想いをよせるイベントに先立ち、各自、届けたい絵本をアンケートで回答したのだが、私が手元からまず選んだのは、鈴木まもる『だんろのまえで』(教育画劇、2008年)だった。集計結果発表でこれが回答が多かった絵本の1冊として紹介された時は、「やっぱりそうでしょ、そうでしょ」と握手したい気分になった。最も多かったのは荒井良二さんの『あさになったので まどをあけますよ』で、この絵本は実際に被災地で活用されてきたそうだ。
この素敵な絵本を開いてみると、「明けない夜はない」とか「ふるさとが一番」という言葉を思い出す。被災後もその地に留まる選択ができた方には、とても心に響く1冊だと思う。ただ、やむなく故郷を追われた方にはこれはちょっと酷な気がするのは、穿ちすぎだろうか。絶望のどん底を経験した若き日、それでも朝が訪れるのを私は残酷に思った。
実はもう1冊、本棚から選んでいた。tupera tupera『パンダ銭湯』(絵本館、2013年)はあまりにも有名だけれども、震災を機にお風呂に入れなくなったり、いつもと異なる環境での入浴に戸惑ったこどもたちがいるはずだから、きっと力になると思った。でも、こんな楽しい絵本を選んだら不謹慎? いやいや、こういう時だからこそ、笑いが必要なのでは?と思い巡らすのだが、実際に被災地で読み聞かせをしたことがない自分には確信がもてなかった🐼
ところで、今回のイベントの基調講演は中川ひろたかさん。トラや帽子店解散後、絵本作家としてご活躍であることは存じ上げていたけれど、被災地支援のご経験からみんなともだちプロジェクトを立ち上げておられたことは全く知らなかった。東北で震災後に手つかずの古着(多くは断捨離の賜物)が山積みされているのを目の当たりにして、被災地が本当に必要としているものが届いていないことを実感されたという。そのため被災された方々のほしいものを直接聞く。例えば、白いおにぎりばかり食べているからお新香がほしいと言われたら、被災地にお新香を送るのではなく、現地のお店を通じて購入する。そうすることで、被災地の経済を破綻させずに、ほしいものを確実に届けるシステムづくりを手がけてこられたという。
この中川さんがおっしゃるには、絵本は被災地支援だからといって選択肢を限定しないほうがよいのではないかと。「ぼくは楽しいが一番だと思うよ」のひとことに「やっぱりそうでしょ、そうでしょ」とハグしたい気分になった🐼
その後、中川さんの絵本や翻訳本、出版裏話等々、楽しいトークが繰り広げられたのだが、紹介されたうちの1冊、中川ひろたか 作・長谷川義史 絵『なんちゃってことわざ辞典』(金の星社、2023年)のところで、「このダジャレ感覚は覚えがあるゾ!」と思い出したのがこちらの絵本。
すでに284冊も出版されている中川さんの少なくとも5冊はわが家にあり、近々、さらにもう1冊加わる予定だ。
最後に中川さんがギター片手に歌ってくださった「虹」をケロポンズの演奏でここに。(被災した宮古市の小学校で歌われた時の映像はこちら)
「あぁ、いい歳のとり方をされてきたのだなぁ…」としみじみ思うとともに、私ももうひと踏ん張りしないとバチがあたりそうな気がひしひしと。きっと明日はがんばろう。