「キンプリ食堂シーン」逆コンテ起こし解説

※この文章は、ももいろさん主宰で2016年に頒布されたKING OF PRISM合同誌「恋した」に収録されていたものです。今読み返すと何いってるんだか分からない所もありますが(ひどい)、この度許可を得まして、エイヤと公開することにしました。生暖かい目で読んで頂けると幸いです。


■「キンプリ食堂シーン」逆コンテ起こし解説■


◆長たらしい前書き(飛ばして可)
 劇場版「キング・オブ・プリズム」を我々が鑑賞するとき、やはりまず目がいってしまうのは、美麗かつ衝撃的な3DCGプリズムショーであり、そこにあるオバレのドラマや、新たな主人公シン君の躍動であったりするかと思われます。僕もそこを堪能しつつ、応援上映で日々歓声をあげていました(4月11日現在で視聴回数24回、ガチエリートの方々に比べたら全然少ない方だと思います)。しかしながら、監督がツイッターで、「作品全体で作画枚数がガンダム1話分しかない」と仰ったことで、僕は「普通の作画シーンでも何か注目すべきところがあるのかもしれないなー」と気づかされ、作画シーンにも目を凝らし始めました。すると、キンプリ全体の中でも、食堂のシーンがとりわけ面白い動きをしており、ここでは何が狙われそして行われているのかを、詳しく考えてみたくなりました。
 という訳で、今回は、キングオブプリズム・食堂シーンの逆コンテ起こしを試み、そこから見てとれる絵コンテ術・演出術を僕の最大限の超絶素人判断で読み解いていこうと思います。繰り返しますがあくまでも素人判断です。絵コンテの描き方はちゃんとは分からないので間違っている所もあるかと思われますが、目を瞑って頂けると幸いです。あと、僕のゴミのような絵を修正して、清書をして頂いたももいろさんに感謝いたします。
具体的に言えば、

・非会話者の消去による視覚情報コントロール
・カケルの笑顔=視点操作
・同構図使いまわしによる省エネ作画
・シーンに即した人物配置の決定

以上が挙げられると思われます。

◆非会話者の消去による視覚情報コントロール
 まずシーン全体で一番最初に印象に残るのが、カット4でしょうか。前半ではシンが、自分とは別の奥のテーブルに座っているユウ、ユキノジョウ、ユキ達と会話を行いますが、側方よりカケルが登場し、カケルとの会話が始まります。そしてこの時、カケルの体で、奥のユウ、ユキノジョウ、シンは隠れてしまうのです。更にミナトが食事を持って登場すると、画面は右にパンして、ミナトとカケルのやりとりに変わります。この時非会話者のシンは画面からアウトしてしまいます。
 これは、場に複数人居る場合に、会話者に焦点を合わせる方法であると考えられます。複数人のうちで2人の会話が繰り広げられるとき、非会話者は特にすることがなく、日本の低予算リミテッドアニメでは固まった状態になってしまって目立ってしまいます。ならば動かない非会話者を、動く会話者で隠す、もしくはパンで画面外にアウトさせてしまうことによって、非会話者の映り込みを防ぐとともに、会話者に観客の注目を的確に集めることができます。
 カット8、タイガとシンの会話においても、同じ構図が使われています。今度は席に座るタイガによって後ろの3人が隠され、更にピントぼかしの演出効果も使用することによって、「雰囲気で居るには居るが、ここの会話には関わらない」ように視覚情報が操作されています。

◆カケルの笑顔=視点操作
 この食堂シーンで次に印象に残るのが、カット10のカケルの笑顔でしょう。この屈託のない笑顔にハートをがっつり掴まれた人も多いのではないでしょうか。このカットにも、カケルの魅力を単純に印象付ける以上の意味が込められているのではないか……と勝手に推察します。それは、観客の視点を確実にそこに集める視点操作です。
 カット10ではまず、静止画状態でシン・カケル・タイガ・ミナトの4人のキャラクターが画面に飛び込んで来ます(そして右パンで他3人を映しエデロ全員を見せることによって、ミナトの「僕が当番の時は全員が食堂に集まる」発言がフォローされます)。このとき、もし画面のどこにも特徴がないならば、観客はどこを見ればいいか分らず、若干ながらも負担を感じてしまいます。大きなスクリーンで見る映画であれば尚更です。そこで、カケルの顔をとびきり印象的な笑顔にすると、観客の注目はそこに集まります。目線の向く先が一か所に集まることで、観客の目の負担は回避され、気持ちよく動画を見ることができます。
 このカットでは、ミナトの「全員が食堂に集まる」発言がフォローされればいいので、カケルの笑顔で視点をそこに集中させてしまい、他のエデロ生は映っていることが分かればそれでいいのです。
 巨大なスクリーンで見る映画においては、「どこに観客の目を向けさせるか」という視点操作はテレビと比較してとりわけ重要な要素を担っており、またスクリーンの上で視点を動かされる事自体にも快楽があるそうです(とエヴァの庵野監督は言ったそうです)。そういった視点操作の事を考えた上で、あのカケルの笑顔は作られたのではないかと推測しています。

◆同構図使いまわしによる省エネ作画
 この食堂シーンだけ見ても、同じ背景を使ったカットがいくつも見受けられます。カット4・カット8・カット13は、同じ1枚の背景の上でキャラクターが会話を繰り広げています。同様にカット2とカット15、カット7とカット9も同じ構図が使用されています。さらに言えばカット1のエデロ全景は何度も多用されていますし、カット2の食堂全景は物語序盤の山田さん寮紹介シーンでも使われています。監督がツイッターにて発言していた通り、相当の省エネがなされています。同じ構図を使いまわせば、背景は同じでキャラを動かす部分だけやればいいので、作画の省エネになる……と言う事なのでしょう。
この省エネ作画は食堂シーンだけでなく、作品のあらゆるシーンにて行われているので、注目して鑑賞するのも面白いかと思われます。

◆シーンに即した人物配置の決定
 そもそもこの食堂シーンとは何の為にあるのかというと、シンとカケル・タイガを面会させる、ミナトのキャラクターを印象付けさせる(あとコウジの渡米を知らせる)意味があります。なので、シン・カケル・タイガ・ミナトが違和感なく自然に会話できるように、この4人は同じテーブルを囲むように席が割り振られています。これのお蔭で、カット7、9のような構図、上からテーブルを映して4人の会話を見せる、という事が可能になっています。この4人+後ろの3人というテーブル配置を決めた上で、どのようにカメラで映していこうか、と考え抜かれた結果が、最初に説明した、人を隠す演出であると考えられます。


◆まとめ
 以上の通り、僕の目からはコンテ術・演出術として4つの要素が確認できました(他にもあるかもしれません)。非会話者の消去や、座席配置の決定などはある程度のレイアウト構成能力がなければ出来ない技術ではあると思いますし、それにこれは脚本段階で構想が練られていないとなかなか難しい演出であったと思われます(ユウ・ユキノジョウ・レオが会話に口を挟んで来たら成り立たない)。従いまして、この食堂シーンは、青葉譲・日歩冠星・菱田マサカズの強力協力スクラムによって成立したものと考えられます。

                                <了>


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