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日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞「ミッドナイトスワン」監督&プロデューサーが振り返る、授賞式ドキュメント

 第44回日本アカデミー賞は、草彅剛さんが主演した内田英治監督のオリジナル企画ミッドナイトスワンが最優秀作品賞を戴冠し、草彅さんの最優秀主演男優賞受賞とともに2冠を達成しました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、第43回からはメディアが授賞式会場で取材が出来ない状況が続いています。では、実際に現場ではどのような盛り上がりを見せていたのでしょうか。授賞式から約1カ月後の週末、同作のメガホンをとった内田監督、森谷雄プロデューサーに和気あいあいと振り返ってもらいました。

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最高の笑顔を浮かべる「ミッドナイトスワン」チーム
写真提供/森谷雄

――改めまして、受賞おめでとうございます。授賞式から約1カ月、反響の大きさを実感していますか?

内田「草彅さんが受賞した時、僕は次に発表される監督賞の説明を裏で受けていたんですよ。その最中に『草彅剛』ってコールがあったから、ちょっと待って……って(笑)。僕はそこで一番感動しました。草彅さんには本当に受賞して欲しかったから、ウルっときちゃいましたね。作品賞に関しては、予想もしていなかった。あとは、撮影賞の伊藤麻樹も受賞してもらいたかったんです。会場にいて思ったのは、女性の受賞者、若手の受賞者が圧倒的に少ない。伊藤さんは三浦賞を女性で初めて獲ったから、もしかしたら……と思ったんですけどね」

森谷「草彅さんの発表のとき、監督は舞台裏でスタンバイしていましたけど、僕と(ヒロインの)服部樹咲ちゃんだけ他の待機部屋にいたんです。発表されたときは、瞬間的に泣きそうになりましたよ。樹咲ちゃんをパッと見たら、ニッコリ笑ってた

内田「作品賞の発表時も、バラバラだったんですよね。草彅さんは主演男優賞の発表の流れで別の場所にいたから。常にバラバラで、みんな揃ってワ―!というのがありませんでしたね。作品賞のときは森谷さんが登壇していたから、待機部屋には僕と樹咲ちゃんしかいなかった。ふたりともクールな性格だから、お互いチラ見して、ニヤッとしただけでしたね(笑)

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写真提供/森谷雄

――確かに、内田さんがガッツポーズして興奮する姿はあまり想像できませんよね。森谷さんは登壇していて、どんな心境だったのですか?

森谷「作品賞を受賞した5作品の代表者が横に並ぶわけですが、そうそうたるメンバーなわけですよ。プレゼンターを務めた東宝の島谷能成社長の発する一音目が『Fukushima50』の“ふ”と思って見ていたら、『ミッドナイトスワン』の“み”だったので、本当に夢じゃないかと思いましたよ

内田「祝福のLINEやメールが凄かったですよ。500くらい来ましたもん。ずっと着信音が鳴り続けている感じで、嬉しい悲鳴でした。海外の主要な映画賞でも、どんでん返しが醍醐味だったりするじゃないですか。自分で言うのもなんですが、誰も予想していなかったからこその『感動した!』という反応なんじゃないですかね。大塚さん(筆者)だって想定していなかったでしょう?」

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写真提供/森谷雄

――いやいや、そんな事はありません。僭越ながら、もしかしたら、もしかするんじゃないか……とは思っていましたよ。ところで、Twitterで見かけたのかな、内田さんは当初、10年愛用するファストファッションのスーツで出席しようとしていたんですよね?

内田「そうです、そうです。でも、紅白歌合戦でロックミュージシャンがTシャツとジーンズ姿で出演しているのが、すごく嫌なんです。そこはキラキラした衣装で来いよ! みたいな。そういう風に見られるのが嫌だなあと思っていたら、『ミッドナイトスワン』の衣装部がタキシードを用意してくれました」

森谷「僕も内田さんに『衣装どうします? タキシードもいいかなと思うんですが、合わせませんか?』って連絡しましたもん。そうしたら衣装部が考えてくれているって返事があって、いい話だなあって思いましたね」

内田「本当に、紅白と一緒ですね。お母さんが『泣いた! 嬉しい!』って喜んでくれて、参加して良かったなって思いました。親族もそうだし、あとはスタッフの家族が喜んでくれるのも嬉しいもんですね。タキシードは、短編を撮っている現場でフィッティングをしました。当初は当然リースだったんですが、メーカーさんが『どうぞ』ってプレゼントしてくれました。授賞式でかぶっていた帽子もくださいました。若い映像作家たちからも『希望を見出せた』って言われて、そう思ってもらえるのなら、それはすごく嬉しいこと。仕事がなくて食えない時期、バイトで社交ダンスのコンテストのビデオを撮りに行っていた身からすれば、尚更ですよ」

――森谷さんが受賞時のスピーチで「全スタッフの眼差しがひとつになってこの作品になったと思っています」と仰っていましたね。内田さんのオリジナル脚本が、全てのスタートですからね。

森谷「そうです。内田さんのオリジナル脚本を全員が信じて作り上げた作品だからこそ、ここまで来られたんだという。そこですよね。そもそも映画って、映画でしか作れないものを観客に届けてきたわけです。その頃の方が、日本映画は活況を呈していたんじゃないかな。それがメディアミックスの流れが浸透していくことで、原作ものでなければ……という空気になっていった。業界の方から『オリジナル作品で最優秀作品賞は快挙ですよ』と連絡がありましたが、『映画でしか見られないものを作っていいんだな』って改めて感じました。もちろん、僕らは『やっていい』と思ってやっているんですが、そこが認められたことが大きいですよね」

内田「僕みたいなバイトで食いつないできた人間からすると、勝負できるのは脚本しかない。今回も、脚本があるからこそ森谷さんに相談ができた。お金はないけれど、森谷さんが脚本を持って各所を回ってくれる。そしてお金が集まってもいないのに、草彅さんが読んでくれて、出演すると言ってくれた。原作がなくたって、映画は撮れるということを伝えたい。僕が知っている若い子たちは、諦めちゃっていますから。いつかは原作ものをやることこそが監督としての成功だと思っちゃっている。まず深夜ドラマをやって、そこからテレビドラマを手がけ、誰かに見初められて最終的に漫画原作を撮ることが成功の証になっている日本映画界は、ムムム……と思います」

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写真提供/森谷雄

――ところで、こういう授賞式の時って験を担ぐって言うじゃないですか。おふたりは何かされましたか?

森谷「僕はTwitterで、願掛けで断酒すると宣言して、2カ月やめました。そして授賞式前日の3月18日、日枝神社へ駆け込んでお札を賽銭箱に入れて、『草彅さんに主演男優賞を!』って願いました。やるべき事はやったと思って駐車場へ戻ったら、桜が咲いていて…。その写真を撮って『サクラサク』ってツイートしました」

内田「僕は全然(笑)。普通すぎて何も覚えていませんよ。公開当初から信じられないようなことが続きましたから。それより、受賞後に、アカデミー賞っていいもんだなって思いました。一緒に登壇していた監督たちから『おめでとう』って言葉をかけてもらって、なんか称え合った感じがしてすごく嬉しかったですね」

森谷「授賞式後、中野量太くんが走ってきて『おめでとうございます!』って言ってくれて……。映画だからこそ、色々なものを飛び越えられているって感じがしましたね。普通だったら、同じ賞に名を連ねていた『浅田家!』の監督が、なかなか言えませんよね」

内田「映画って争う道具じゃないというのが、監督をやっていれば分かるものなんですよね。映画に1位も2位もないというのが、作り手であれば基本的に心の奥底にある。それがそういう瞬間に出てくるから、素敵ですよね」

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森谷雄プロデューサー(左)と内田英治監督(右)

写真提供/森谷雄

――内田さん、森谷さん、それに中野さんも……、皆さんとは何度となく地方の映画祭で一緒に食事をしたり取材をしたりしてきたので、その光景を思い浮かべただけで、なんだか幸せな気持ちになります。

森谷「あとは、かつて『Little DJ 小さな恋の物語』と『シムソンズ』でご一緒した音楽の佐藤直紀さん(今回は『罪の声』で優秀音楽賞を受賞)。僕と内田さんが『スピーチが素晴らしかった』って長澤まさみちゃんと話していたんですね。『内田監督は週刊プレイボーイの記者時代にあなたを取材しているんですよ』みたいな話題で盛り上がっていて。そうしたら、直紀さんがボロボロ泣いていて、『どうしたの?』って聞いたら、『とにかく嬉しいんです。この作品が最優秀で、草彅さんが主演男優賞であることが嬉しいんです。ただ、それだけ伝えたかった』って……。ああ、やばい、泣けてきた(涙)

――本当に素敵な話ですね。多くの映画人の琴線に触れた証とでも申しましょうか……。また、今回の受賞は若い映像作家、インディペンデントの映画製作者たちにも大きな勇気を届けたと思います。彼らにいま、どのようなことを伝えたいですか?

内田「素直に思うのは、続けてくださいということですかね。一方で『誰もが続ければいいってもんじゃないですよね』って指摘する方もいらっしゃるんですよ。ただ、ブレイクしている女優・松本まりかだって苦節何年ですか? 続けなければ今はない。僕だって、撮り続けていなければ、今回の受賞はない。続けること、そして脚本を書け!ってことですかね。『映画をやりたいんです!』っていうから『脚本は何かあるの?』って聞くと、『何もありません。これから書きます』というのではなくね(笑)。僕も15年くらい書き続けていますから。書きもしないで夢ばかり語るんじゃなくて、とにかく書くことです」

森谷「内田さんの言う通りで、やっぱり作り続けてくださいというのが一番大きいかな。僕は映画祭(ええじゃないか とよはし映画祭)を運営するなかで思うこともあって、そこで誰と出会ったか? ということなんです。監督だったら同世代のプロデューサーに『どう思う?』と脚本を見せに行くとかね。僕はいつだって『脚本を読ませてくれ!』と思っています。先日もある監督が訪ねてきてくれて、色々な話が出来ましたし、誰かを紹介することだって出来ます。作っているからこそ、人の目に触れるし、誰かに出会える。そのアクションを止めないで欲しいです

――私にしても森谷さんとはさぬき映画祭で出会い、内田さんとはとよはし映画祭で「こういう切り口ってどう思う?」と取材を持ちかけられたことが、今に繋がっていますからね。

森谷「監督もプロデューサーも役者も、ひとつひとつの出会いを大事にしていかなければならないと痛切に感じますね。僕と内田さんのように考え方が全く違う監督とプロデューサーが交わることで何かが起こるかもしれないんですからね」

大塚さん



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