一人称の波音 10

 夢を見た。

 夢の中で僕は、バー・フォールズにいる。僕の隣には彼女が座っている(海でであった女の子ではない。)僕の帰省する町に住んでいる、僕のいわゆる”彼女”だ。僕たちはバーのカウンターに座り、マスターがソースを作るのをじっと見ている。

 「波がきそうだよ。大きな波。こんな店なんて、すぐにどこか知らないところへ飛ばされてしまう。」マスターは真剣な表情でソースをかき回しながら言った。

 「波が来るわ。あなたの家まで届いてしまうかもしれない。」彼女は真剣な表情でカウンターの向こうのワイングラスを見つめるようにして言った。

 「受け入れるの。ただ、受け入れるの。でも、駄目ね。こんな大きな波、わたしにはとても受け入れられないわ。」彼女はいつのまにか海辺の彼女に変わっていた。長い髪に水色のワンピース。服はまだ濡れていなかった。

 「夏はもう終わったんだ。水平線はもうやってこない。俺はアメリカに行くよ。地平線が見たいんだ。ところでお前はいま、どこにいるんだ?」隣には阿部が座っている。阿部はいつものカウンターの奥ではなく、僕の隣に腰を下ろしている。そして、いつものように難しそうな本を読んでいる。

 ところでお前はいま、どこにいるんだ?

 いったい僕はいま、どこにいるんだ?

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