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唯一のトモダチと欠落した心。

気づけばこの私には、この現実の世界に友達と呼べるような人がまったくいない。(noteの世界では勝手に友達と思っている人はいるけれど。)さっき、それになんとなく気がついた。もしかしたら、大人はある意味、みなそうなのかもしれないけれど・・・。

私は性格的に、何かが欠落してるんだろうか・・・?などと思ってみたりもする。(”欠落”と言うよりも大きく”陥没”しているような気もするが。)

気軽に話せる友達。冗談を言い合える友達。悩みを聞いてもらえる友達。聞いてあげられる友達。心の内を見せ合える友達。

職場でも街角でも、楽しそうに笑いあってる人たちを見ると、その奇跡的な行動に、私は思春期を迎えたような14才の子供になる。憧れにも似た淡い想いで。

本当を言えば、私には、そんな友達がひとりだけいる。いや、過去にひとりだけいた。もう、はるか昔のことだ。

彼は高校の頃の友達だった。

卒業して間もない頃、理由はとっくに忘れたけれど、ケンカしたわけではないのに、ケンカしたような気分になって、私は自然と彼と会わなくなった。

頭の良かった彼は有名大学に進学し、私は地方の大学に進学した。地元から離れ、それぞれが寮生活をしていた。そして2年の月日が過ぎて、私にいろんな苦しいことがあって、大学を中退しようと決意したときのこと。

私には実家に帰るお金がなくて、それで彼に電話して彼の大学が私の帰る途中にあって、それで彼の学生寮に泊めてもらって、お金を借りて、それで朝、雨の中、バス停まで見送ってもらって、そして別れたのだった。

ただ、それだけのことだったけど、私の人生にしてみれば、ひとつの大きなターニングポイントの時期だった。

彼の部屋に泊めてもらったとき。(裸電球が似合いそうな6畳くらいの狭い部屋だった。)その学生寮に泊まったはいいけど、部屋には布団は一組しかない。だから私はずっと彼の机に座ってひとり、ヘッドホンで音楽を聞いてた。彼は何もなかったかのように、くの字になって眠っていた。

とても蒼い夜だった。一睡もしないままに、やがて朝が訪れて、なんだかどうでもいいような気持ちになって・・・

雨がこんなにも哀しいとは・・・なんてあのとき私はずっと、そんな気持ちでいたような気がする。

彼は私が大学を辞めることに、反対も賛成もすることもなく、ただ、事務的に私にお金を貸してくれただけに過ぎなかった。

でも、本当は、その心の内では何を思っていたんだろうか?迷惑なヤツだ、と思っていたようにも見えるし、哀れなヤツだと、同情していたようにも見える。それ以上の感情は、たぶん、今の私には想像できない。

彼は私と同じ性格で、何も話さない。あまり表情を変えない。だから私も何も話さなくて、ただ、ぼぅっと時が過ぎて・・・他人が見たら私たちは、ある意味、不思議な存在に見えたかもしれない。

あの日に別れて以来、彼とは会っていない。あんなに世話になっておきながら、一度もちゃんとお礼を言ってない。もちろん、借りたお金はすぐに書留で返したけれど(晩飯代も込みで。)返しきれないこの気持ちは、どこかで詰まったように居心地が悪い。

今はどこで何をしてるんだろう?今、唯一の私の”トモダチ”なアイツ。(”友達”と漢字で書くには違和感がありすぎる。)

今、アイツがココにいたら、私は何て話すんだろう?とりあえずは、バカみたいに笑うかもしれない。生きていたのかお前、みたいな・・。

何の気兼ねも作り笑いもいらない、
ただ、唯一のそんな彼に。

なんて・・・そう思うのは
随分と身勝手なことだけど。

けど、でも、それさえも、
許してくれそうなトモダチだから。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一