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売場に残された買い物カゴ。

食品スーパーに勤めるようになった頃、とても不思議に思うのがあった。それは売場によく見られる光景で、買い物カゴに、いろんな食品をつめこんだまま、そのまま買い物カートが残されている、という現象。

30分以上、経っても、誰も戻ってくる気配がない。このままだと、肉や冷凍食品が、とんでもないことになる。気づいた私は、その度に、元の売場に戻すわけだけど・・・

これがものすごい手間になってしまうのだ。

それにしても、その買い物カゴの持ち主は、どこへ行ってしまうのだろう?買い物の途中で忽然と消えてしまう・・・それが私には不思議でならなかった。

例えば、買物をしている最中に、何か大切な用事でも思い出したのか?それとも、途中で嫌気がさして、”こんな店で買うものか!”と別の店に行ったのか?まさかサザエさんのように、うっかり財布を忘れたとでもいうのか?

私にはまったくわからなかった。

私でさえも、1度もそんな経験はないのに。あれは、何がどうなってしまうんだろう?あの頃はその度に、不思議に思っていたなぁ。「あー!また、買い物カゴを放置してる!」なんて。

今なら何となく、原因はわかる。いろいろとあると思うのだけど、ひとつはレジが混雑していて時間がなくて、買うのをあきらめてしまった、というのが、要因としてあるのだと思う。それは店側の責任だなぁ。それが理由だったら、本当に申し訳ないなぁと思う。

そういえば・・・時々ではあるけれど、残された買い物カゴを見つけ、いつものように”まったく!”と思いつつも、元の売場に戻そうとすると、突然、後ろから、大きな大根を持ったおばさんに、いきなり怒鳴られてしまうことがある。「ちょっとあんた!私の買い物カゴを、どうするつもり!」と。

そのたび私は慌ててしまって、心臓がドキドキしてしまう。まるで”黒ヒゲ危機一発”のゲームみたいだ。このタイミングがとても難しい。(店によって違うと思うけど、ある程度の時間、放置してあったら、売場に戻すことにしている。)

でも、やっぱり、買い物カゴの放置はできるだけ避けて欲しいなぁと思う。あ、そうそう、商品を違う売場にポンと置いてゆくのも困るなぁ。平気で冷食が常温の菓子売場に置いてあって、ダメになってしまうこともある。

そういえば、今思い出したのだけど(何度目だ!)昔、おつまみの売場だったか、やけに生肉の腐ったような異臭が売場に漂っていて、みんなで臭いのもとを探していて、売場の奥から見つけたのは、文字通り、生肉のパックが放置してあって(というか隠されていて?)すでに腐っていて、異臭を放っているのだった。

「もしかしたら、万引きをしようとしてあきらめて、売場の奥にかくしたのかもしれないね」なんて、警備の人がつぶやいていた。

人が食べるものだからね。放置されて、明らかにダメになってしまったもの、また、腐ってしまった恐れのあるものは、基本的に廃棄するしかなくなる。

それって、やっぱり、なんだかなぁ・・・って思ってしまう。

もしものときは、ひと言、店員に言って下さればなぁと思う。こちらでちゃんと気兼ねなく売場に戻すことが出来る。確かにそれで、お客さんを邪険に扱うような店員もいるかもしれない。それ以前に、売場に店員が見当たらないかもしれない。(経費削減されるとき、人から減らされてゆくんだよなぁ)そんなときは、ごめんね、って私がそっと思いたい。何の慰めにもならないけれど。

今日も売場のどこかにポツンと残された買い物カートが、まるで忠犬ハチ公のように、ご主人の帰りを待ち続けているのかもしれない。

そのご主人様に、いや、お客様に、私はいつも、頭を悩ませながら、また、どこかで思っている。

ごめんねって、ほんの小さく。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一