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そして、泣いた。

中学生だった頃、昼休みの教室で、友達二人がケンカを始めた。きっかけはたぶん些細なことだ。前からずっと仲が悪かった。ここぞとばかりに始まった。

最初は口喧嘩から、次第に手が出て足が出て、ひとりが口の中を切ったのか血が出始めて、そうしてとうとう泣きはじめた。

まわりにいた友達は、泣いてる彼を見て笑い始めた。「おいおい、アイツ、泣いてるぜ!ダサいなー!」みたいな感じで。誰もが彼を見て大声で笑い合う中、彼を泣かしたA君は、それまで黙って見ていたけれど、やがて彼に近づきこう言ったんだ。

「ごめん、オレが間違ってた」

そうして彼に手を差し伸べて、二人は肩を抱き合った。それを見て、さっきまで笑っていたみんなが黙ってしまった。そして、時が止まったかのように静まり返った。あのとき僕も含めてみんなが、どれほど自分が間違っていたのかを、思い知ったのだと思う。

もちろん、ケンカを始めた二人が一番、間違っている。そしてそれを見て笑ってた僕らも間違っている。それでも、彼らは、そして僕らは、何が正しいかに気づいた。

人生で大切なことは、きっとそういうことだ。人は間違える。でも、人はそれを正すことが出来る。人は心で、そして瞳で、泣きながら知ってゆく。今、何が正しいのかを。

こんな昔のことを思い出したのは、この本を読んだとき。あまり関係のない話しなのに、"抱っこした"というその言葉に、私の心がふるえていた。

ある日、女の子が学校から家に戻ると「今日の宿題は?」と父親に尋ねられます。「今日はね、誰かに抱っこしてもらうこと」と答えた女の子を、父親は「よーし」と言ってすぐに、しっかり抱いてやりました。そしてその後も、母親、祖父、祖父母、姉たちに次々と抱っこされたのです。翌日、学校から戻った女の子は、六人に抱っこしてもらった自分が一番だったと父親に報告します。「皆、してきたんだね」と言う父親に「ううん、何人かはしてこなかった。先生が、前に出なさいと言って前に出たんだ。そしたら先生が、一人ひとりを抱っこしてやったんだよ」   渡辺和子氏「幸せはあなたの心が決める」より。

そして、私が泣いた。
あの日のことを、ふと、想いながら。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一