結論から言おう。

昔のこと。まだ、ブログというものもなくて、私が「電器売場店員のクレーム日記」というものを、ホームページ上で書いていた頃、読者からこんな厳しい意見のメールを頂いたことがあった。

結論から言おう。あなたは、接客には向いていない。お客さんの気持ちを大切にしている気持ちは幾分かわかる。ただ、営業をする上での、お客に対する厳しさみたいなものが全く感じられない。仕事として接客をしてるわけでしょ?お客の言いなりになるだけの仕事ではないはず。もっと自分に自信を持ってお客に対して強気に出ていいと思える所が多々ありました。あなたはズバリ営業成績も悪いでしょう? あなたの性格は文章を見て好感も持てますが、接客や営業には向いていないと思います。転職を考えてみては?

このメールを読んで、私も結論から言えば”すごい”と思った。私の日記に対する厳しい意見は、あの頃、何度もあったけど、これほどストレートに書いてくださったのは、たぶんこの方がはじめてだったからだ。(私は現在、会社都合で食品スーパーに勤務先が変わったが、接客、サービス業という点においては何ら変わりはしないだろう。)

もしかしたら、私はこのメールに”怒りの感情”のようなものを抱いたりするのが普通かも知れない。「どれだけ私のことを知っているというのか!」と私は反論すべきなのかも知れない。でも、私はそんな感情は起きなかったし、別に落ち込むこともなかった。(ちょっとはウソになるかな。)

むしろ私は、不思議ととてもすがすがしい気持ちになっていた。私のことを深く思ってくださらなければ、これだけのメールはきっと書けないだろう。

正直に言えば、これに反論できるほどの余地が私にはまったくなかった。私のこの性格は、確かに接客には向いていない。誰かと関わるのが苦手。ひとりが好き。他人と話すのが疲れる。自分に自信が持てない。いちいちクヨクヨする。だから人と向き合えない。我ながらこの性格にあきれてしまう。

でも、逆に言えば、私はそんな自分の弱さを知っている。誰だって完璧な人なんていない。人はどこか自分の弱さを抱えながら生きている。

人はとても不完全な形でこの世に生まれてくる。泣きながら、しかもひとりで歩けもしないままで。つまり、それが人間なのだと思う。ひとりひとりがとても小さな存在だから、誰かの力が必要だったり、誰かの愛が必要だったり・・・。

確かに私はこの仕事は向いていない。たぶんそれは、今も同じだ。でも、”この仕事が自分に向いている”と自信を持って言える人がどれだけいるというのだろうか?現実は、子供の頃の夢を叶えられずに、今の仕事を続けている人が、ほとんどなのだと思う。こんなはずじゃなかったと。

それほど人はどうしようもないほどに、不完全な存在なのだと思う。でも、それが決して哀しいというわけではなくて、人はどこかそこに生きがいや、働き甲斐を見つけ出し、泣いたり笑ったり怒ったり、そして、叱ったり叱られたりしながらこの人生を、また、その仕事を続けている。

まったく、嫌になるような人生だけど、それがありのままの現実だ。それで私はいいのだと思う。少なくとも私は。

私はこの仕事に向いていない。ならば、この仕事に”向いて”仕事をしようじゃないかと思う。いつか別の道を見つけられたなら、それはまた、そのときの私が決めること。

それで私はいいのだと思う。
少なくとも今の私には。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一