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「The Closer」シーズン1第2話を観て

前回に引き続き、今回も海外ドラマ「The Closer」シーズン1第2話を観て、感じたことや考えたことを綴りました。
最後には、実際に今回の分析で使用した模造紙の画像も載せています。
今回もネタバレありの内容ですが、私の記事をきっかけに「The Closer」を同じように楽しんでいただける方が1人でも増えれば幸いです。
よければ最後までご覧ください(“スキ”や“フォロー”もお待ちしてます)。

ブレンダの多面的な魅力


(左)ガブリエル、(中)フリン、(右)ブレンダ

周囲の人間からは“アトランタ嬢”などと揶揄されるブレンダは、そうした周囲の皮肉な期待を裏切るように本作の各話を通して自身の有能ぶりを見せつける。私が全編を通してブレンダの優秀ぶりを感じられる好きな場面は、ブレンダがチームに仕事を割り振りながら捜査を指揮する場面だ。間を置くことなく各個人に仕事を割り当て、自身が組み立てた捜査の軸に沿って的確に役割分担をしてみせるブレンダの姿は同じ女性として真似したくなるほど爽快でかっこよく映る。
しかしブレンダの魅力は凛とした仕事のできる女性としての一面にとどまらない。例えば本話冒頭ではブレンダが未だ不慣れな土地の運転に悪戦苦闘する様子が映される。現場にようやく到着したブレンダの鞄から大きな地図本を見つけたプロベンザとガブリエルは、強く振る舞う目の前の彼女とのギャップに笑いを堪えきれない様子だった。身近な人物や視聴者からすれば「可愛くて素敵」と思えてしまうような要素でさえブレンダにとっては弱みとなるため、ブレンダは終始自分の弱みを他人に見せようとしない。こうした強がりでお茶目な一面も、キャラクターの魅力で視聴者の興味を惹く本作の巧みな部分だと感じる。
さらに本話では、ブレンダが過去の自分と向き合いきれない不器用な姿も描かれる。フリッツからポープとブレンダの関係性を突きつけられる場面では「店で一番大きいグラスでメルロを頂戴」とやけ酒に走るブレンダ。たとえ過去のことであっても軽い言葉や偽りの優しさに一瞬でも気を許した自分を忘れられず恥じ続けている様子がうかがえる。
ブレンダは本作において強く逞しい女性として描かれているが故に、魅力的な主役として視聴者を飽きさせないほど大きな存在感を見せる。しかし本作に散りばめられた、強いだけではないブレンダのさまざまな一面を覗くことも、本作を楽しむうえで欠かせない重要な要素の1つであるといえよう。


少しずつ明らかになるチームメンバーのキャラクター


重大犯罪課のメンバー

「The Closer」の魅力の大きな1つは、個性豊かなメンバーによる協力プレイで見事に真実が暴かれていく爽快感だ。そして本話では、序盤ながら少しずつチームメンバーのキャラクターが明らかにされていった。


ブレンダを理解しようと努めるガブリエル巡査部長


ガブリエル

新たな上司と恩のある元の上司・テイラーとの板挟みになり複雑な立場に置かれるガブリエルは、第2話にして新たな上司であるブレンダに少しでも歩み寄ろうとする姿勢が描かれた。本話ではブレンダが赴任後間もない状況でありながらも、ガブリエルはブレンダの有能ぶりを理解し尊敬に値する上司としてブレンダの存在を認め、彼女の力になろうと賢明に動いている様子が見れた。なかでも印象的だったのは、慣れない土地の運転に困っていながらも部下を頼ろうとしないブレンダに運転役を名乗り出る場面だった。ディーンの逮捕が叶わず、後のない状況になりふり構わず部屋を出ていくブレンダを追いかけ、何とかブレンダの力になれないかと言葉を尽くすガブリエルのセリフからは「なんとかブレンダの存在をチームにも認めてほしい」というガブリエルの密かな願いを鑑みることもできるだろう。そして何とかブレンダから車のキーを受け取ったガブリエルは「あなたにとってはとても難しい決断ですよね」とブレンダのプライドを守りながら安堵の言葉を漏らすシーンが私個人としてはとても心が温まるシーンだった。ガブリエルはほかのチームメイトよりも先に、ブレンダのかっこいいだけではない素顔に気づき始めた一人だったのではないだろうか。


粋な雰囲気を纏うプロベンザ警部補


(左)フリン、(右)プロベンザ

第1話ではレズへの差別発言や女性蔑視がうかがえるセリフなど、古典的で気難しい老いぼれ刑事のように描かれたプロベンザだったが、本話ではその印象がガラリと変わった印象を受けた。
プロベンザはブレンダに忠誠を誓い真っ当に仕事に取り組む、などと素直な言動は見せないが、ブレンダの指示通りの仕事を果たしながらブレンダの失墜を期待するフリンを追い払うなど、ブレンダが仕事に対し真摯に向き合っているという事実をしっかりと受け止め、ブレンダの存在も他チームメイトと比較して早い段階で受け入れている様子がうかがえる。
フリンから「我々はただチーフにしたがってりゃいい(そうすれば捜査は失敗に終わりブレンダの地位も失墜するだろう)」と誘いを受けた際にも「俺は相手が誰であろうが手を貸さねえ主義だ」と言ってのけたプロベンザ。彼は派閥など気にせず中立的に捜査を進めようとする点で、誰よりも真っ当な警察官の姿勢をもっているともいえる。
また、取調室のカメラ映像に映ったブレンダの髪とディーンの出演作に映ったヒロイン役の髪型が一致していると気づいたプロベンザの洞察力は、今回の捜査を進展させる大きな要因となった。彼の長年警察に勤めているからこそ養われた“刑事の勘”ともいえる能力は、今作においてプロベンザが単なるチームの姑役として描かれているわけではないと証明しているように思えた。


すべては自分の地位を保つために行動するポープ


(左)ブレンダ、(右)ポープ

アトランタからブレンダを引き抜き重犯課チーフに任命したポープは、かつてブレンダと不倫関係にあるなどブレンダとは切っても切り離せない親密な関係だが、今作を通してブレンダの捜査を妨害する機会が多いのもポープである。その理由はポープが誰より自分の地位の保守のために動く人物だからであり、署の名誉を傷つける行為やメディアから批判を受ける可能性がある捜査についてポープはいつもブレンダの足を引っ張る役どころ。
そして今回新たに明るみになったのは、ポープの自分自身に対する客観性の欠如である。ブレンダがポープに対し「結婚を餌に女を釣るってのが常套手段の二股不倫男」と口にした際には「ひどい男だ」と言い放ったポープ。かつてブレンダと不倫関係を結び、離婚を匂わせながら最終的には別の女性と結婚に至った自分の来歴を客観視できていれば、このようなセリフは出てこないはず。ポープが明らかに自分を客観視できていない姿がこのシーンからはうかがえる。視聴者目線に立てば、こんな風に自分の欠点を客観視できない男性像が映ることで、過去の過ちに目を背けながらも与えられた状況で奮闘するブレンダの姿がさらに際立って映るだろう。


いい加減な男たちに振り回され人生を壊される女性たち


(右)ブレンダ

本話ではブレンダ含め、男性の軽々しい言動に振り回され人生を壊された女性たちの姿が強調された。
本話に大きな展開が生まれたのは、事件の発見者であり、容疑者・ディーンの元不倫相手でもある秘書・ヘイガンが不倫の事実をブレンダに打ち明けるシーンだった。このシーンの前にメディアからの取材依頼に辟易したブレンダが放った「ゴシップを漁っては人の人生をぶち壊す」というセリフは、ヘイガンにとってディーンとの不倫で人生を壊された自分の人生と重なる部分もありショックの大きいセリフだったとうかがえる。ヘイガンは不倫関係が明るみとなって自分だけがキャリアに傷をつけられた事実、そして結果的に元不倫相手の妻の秘書という仕事に就くしかなかった自分を惨めに思っている。しかしながら「できるなら、このこと(自分との不倫関係、そしてディーンは多くの愛人とヨットに乗っていること)だけはメディアに知られたくないの」と話すヘイガン。自分を裏切ったディーンを憎む気持ちがありながらもディーンの芸能人生を守ろうとする姿は、ブレンダが言うところの「捨てられた方はなんだかんだ言って彼の傍を離れられない」状況と一致する。
また今回の事件の犯人だった美容師・ジェニファーもまた、ディーンの嘘に騙され偽りの愛を信じ切っていた“被害者”の一人だった。ジェニファーはブレンダに、自分とは違う新たな愛人がディーンにいることを突きつけられるまで、自分の子どもとディーンとで3人幸せに暮らせる未来を信じ、そして結果的にディーンの妻・ヘザーをその手で殺めた。
そしてブレンダは、ヘイガンやジェニファーのようにディーンに欺かれ人生を棒に振ってきた彼女たちに向けて怒りをぶつけ「簡単に騙されすぎだと思わない?」とフリッツに問いかける。また別のシーンでディーンの新恋人に被害者の写真を見せショックを与える場面では「これを見ると今も腹が立つ」とブレンダは話した。不倫男に騙される女性たちへの怒り、そして女性を欺き人生をめちゃくちゃにしてきた不倫男たちへの怒りにも感じられるが、私にはそれ以上に、かつてそうした不倫関係で裏切られたブレンダ自身の過去に対する怒りの感情にも思えた。女は男の甘い言葉を信じ、すべてを投げ打ってでも彼と一緒になりたいと願うが、男はそうして騙される女性たちの不幸に目を向けない。そんな男女関係の醜さが、本話のいたるシーンで強調されていたように感じる。


視聴者の興味を逸らさないユニークな場面展開

複雑に絡み合う事件の様相と圧倒的に膨大な情報量で、観る人によっては「話についていけない」と不満を感じることもあるであろう本作だが、第2話に関しては誰もがすんなり納得感を得られるかたちでわかりやすく場面展開が進んでいった。
なんといっても、ブレンダが捜査を兼ねて被害者・ヘザーが通っていた美容院やアパレル店、化粧品店を訪れるシーンでは、慣れない場所に戸惑いがちなブレンダの素顔を描きながらも、同時に女性たちから巧みに情報を聞き出すブレンダの研ぎ澄まされた能力が光っていた
また容疑者たちでなく視聴者をも欺いてみせるのが「The Closer」の脚本である。「ディーン・キングスレイのアリバイが立証されたこと」「婚前契約の事実はなかったこと」「殺害凶器とみられるコンディショナーのニコチンと証拠品の殺虫剤に含まれるニコチンの成分が一致しなかったこと」など、一見ブレンダの捜査にとって“悪い”情報ばかりが錯綜する状況に、ブレンダと対立するフリンは「捜査は一からやり直しだな」と嬉しそうに呟く。この状況に視聴者も「ブレンダ、どうするの」とハラハラした気持ちにさせられるが、ブレンダ自身はなぜかその“悪い”情報を嬉しそうに聞き「これこそ私が望んでいた展開よ」と言ってみせる。そう、ディーンが犯人ではなくディーンに欺かれた女性たちのなかに犯人がいると当初から睨んでいたブレンダのアイデアに、登場人物も視聴者も皆が騙されたのである。
このように私たちの予想の遥か先をいく展開こそが「The Closer」のサスペンス・ドラマとしての精度の高さを見せつける要素であり、また誰もをあっと驚かせるテレビドラマとしての巧妙な仕掛けである。

最後に

第2話は、シーズン1のなかでもブレンダの「女性らしさ」が際立つ作品だったように思う。ブレンダがもつ女性だからこその「強さ」「弱さ」「お茶目さ」、それらを知る度に私たち視聴者はどんどんブレンダという1人の女性に夢中になっていくだろう。
今回はとくに、セリフ回しやユニークな展開について多くの学びが得られた。
次回もまた学びの多い分析になればと期待しながら、第3話の分析に取り組みたい。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。また次回の記事もお楽しみに!


分析に使用した模造紙

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