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「The Closer」シーズン1第3話を観て

今回もまた、海外ドラマ「The Closer」の作品分析を文章として綴りました。今回はテーマや題材が難解で、すでに視聴した方のなかにも「腑に落ちないなあ」と感じている方がいるかもしれません。
今回は私なりの物語に関する解釈や、細かな脚本・演出の技術について書きました。
すでに「The Closer」シリーズを視聴済みの方は、ぜひ最後までご覧ください。

今回のストーリーのカギは「警察とFBIの独自の関係性」


(左)ブレンダ、(右)フリッツ

第3話は、海外のサスペンスドラマに不慣れな人やアメリカのFBI組織の題材に触れる機会の少ない人にとって難解な結末を迎える。今回のストーリーを正しく理解するためのカギは「アメリカにおける警察とFBIの独自の関係性を理解すること」に尽きるだろう。今回は本話の難解なオチを理解するために多くの人にとって役立つ説明を加えられたらと思う。
まず、FBIと警察とでは刑事事件の取り扱い方において大きな違いがある。フリッツが属するFBIは、マフィアの麻薬密輸事件や反社会的勢力による犯罪行為を多く取り扱う。そしてその際には、捜査対象となる組織の一員で重要な情報を握っている人物と独自のルートで取引を行い、FBIに情報を流すことを条件に組織がその人物に対し制裁を与えようとする動きを見せた際にはFBIがその証人の安全を確保することを約束する。FBIは捜査対象となる組織の一員と駆け引きを交わしながら、最終的には犯罪行為の大元となる組織を一斉検挙したいと考え、そのためには手段を選ばない。
一方ブレンダが属する警察は、1つひとつの事件に対しすべての人が法の下の平等に裁かれるために適切な方法で捜査に尽力する。多くのサスペンスドラマで描かれている様子からもわかるように、警察にとって捜査のすべては「真実の追求」にかかっている。
第3話において警察とFBIの立場の違いが顕著にわかるシーンが、物語後半でブレンダがFBI捜査官2人のもとを訪れ容疑者・ニックのアリバイを確認する場面だ。FBIは証人を利用し続けるため、たとえ証人が他の事件に関与した疑いがある際には「証人は事件に関与していない(このまま証人として容疑者の身を守り、犯罪組織の情報源を断ちたくない)」という立場を取る。ブレンダがあえて間違った日付を確認しながら2人の捜査官と視線を交わす様子からは、ブレンダがFBIに対して感じる疑念を確認できる。「また10代の子を殺したら次はどこにいたことにする気?」とFBIの嘘に対して放ったブレンダの言葉に対し、2人の捜査官はブレンダを真っすぐ見つめ何も語らなかった。ブレンダの『正義』とFBIの『正義』がぶつかった瞬間である。


窮地を好機に変えるブレンダの優れた能力


(左)ブレンダ

FBIは、容疑者・ニックの疑いを隠蔽し極秘捜査を続行しようと企む。そして最初に発見された被害者・ゾーヤの捜査が最後の締め括りへと向かう最中、捜査資料をすべて回収し颯爽とその場を去ってしまう。ガブリエルはこれまでの捜査情報がすべて取り上げられてしまったことに悔しい表情を見せ、視聴者もこの窮地に「ここからどうなってしまうんだろう」と不安を抱く1つの起点となるシーンである。
しかしその窮地を見事に自らの好機として利用してみせるのがブレンダの素晴らしい能力と人格だ。FBIが登場する直前、ガブリエルは今回の事件と類似点の多い1つの事件ファイルを手にブレンダの元を訪れていた。被害者の名はバニア・コステンカ。突然捜査資料を奪われFBIの行為に怒りをみせるガブリエルに対し、ブレンダは「18歳のロシア人娼婦殺しが急に国家機密に関わる重大犯罪になるとは面白いわね」と余裕の表情を見せる。ここからブレンダはガブリエルが見つけ出した新たな被害者・バニアに対象を切り替えて捜査し始めることで事件は大きく動いていく。
そしてブレンダの根気強い性格と強い正義感が露わになるのが、最後ニックを尋問するシーンである。ニックのアリバイに関してはFBIがすべて捏造したデータを準備しているため、プロベンザが言うように「崩せっこない」。しかしブレンダはこの状況を逆手に取り、法で裁けない罪人に他の方法で天罰を下す方法を思いつく。
今回の物語を理解しきれなかった人の多くは、「なぜニックはFBIの保護から外され警察署を出た途端に所属するマフィアから殺されてしまう結末に至るのか」という疑問をもったのではないだろうか。
私が解釈した結末の詳細はこうだ。最後の尋問のシーンで部屋に集められたのはブレンダ・ガブリエル、ニック、そしてニックの家族の弁護士だった。ブレンダがニックは事件当日FBIの取り調べを受けていたということを弁護士の前で話すことで、ニックの家族の弁護士に対し「ニックはFBIに捜査協力している裏切り者だ」ということがばれてしまった。この時点で弁護士はニックを見限り、家族であるマフィアからの報復があることを承知でニックへの協力をやめた。そしてもう1つ重要なのは、なぜFBIはニックを保護から外したのかという点である。これは尋問シーンの最後、ニックが取り押さえられながら必死に「俺が全部やった」とブレンダに自白したことが理由である。ニックの逮捕を妨害するためにアリバイを捏造するなど手を尽くしたFBIだったが、このままでは家族に殺されると思い自ら自白を叫んだニックの行動によって、FBIの捏造は意味を成さなくなり、保護は無効となった。
尋問のシーンを正確に理解するには、こうした弁護士・FBIなど異なる立場の人物たちの思惑をすべて十分に理解する必要があった。この点において第3話は「The Closer」シリーズのなかでも難解なストーリーに仕上がったと考えられる。


セリフや動作から垣間見える各キャラクターの特徴


重大犯罪課のメンバー

過去の記事でも述べている通り「The Closer」のクオリティの高さには、セリフの秀逸さが影響している。本話では各キャラクターのセリフや行動からキャラクター自身の性格や価値観が理解できる。
本話では冒頭、遺体安置室でブレンダが遺体探しをするシーンから始まる。青白い肌が並ぶ異質な空間でハイヒールを履いてキャスターに飛び乗りながら目的の遺体探しに奮闘するブレンダの姿は、少し気味の悪い空間とのギャップも相まって非常に面白く描かれている。また、のちに到着したガブリエルに対しブレンダが発する「良い朝ね」というセリフがこの状況の奇妙な面白さを強調している。
さらに尋問室でニックが発する「読みが甘いな、女だからだ」というセリフからは彼が女性を見下す主義の人間であることがわかる。そして、ゾーヤに仕事を紹介した過去をもつナディアがブレンダと公園で話すシーンでは、ナディアが赤ちゃんを撫でる手が映される。このシーンからはナディアが今の子どもがいる幸せな生活を手放したくないという強い気持ちが伝わってくる。
そして今回もブレンダとの信頼関係をうまく築きながら懸命な行動を見せたガブリエルは、その表情に注目が必要だ。FBIから資料を奪われ呆然とする表情から、ブレンダの新たな策略を聞いたときの表情への変化では、ブレンダに対して「この人は流石だ」と感心し熱い信頼を寄せている様子がうかがえる。
また未だにブレンダに対する敵対心を露にするテイラーだが、ポープの視線がある環境ではブレンダの言葉に従順な姿をみせる。この言動からテイラーにとって仕事とは「上下関係」「役職」が最優先事項であることがわかるだろう。
このようにシャレードを巧みに使った人物の描き方は、今後脚本を学んでいく身としてしっかり参考にしたいポイントである。


ブレンダの正義感と人間らしさ


ブレンダ

本話の大きなテーマは題名の通り、ブレンダの強い“正義感“だった。
FBIに捜査を阻まれ思う通りに捜査を進められない憤りをブレンダがフリッツにぶつけるシーンでは、ブレンダはこのように話す。
「こう言ってほしい。マフィアを暴くために10代の女の子を殺した奴らを放っておくのは間違いだ。アメリカでは法の下誰もが平等だ。ここで起こっていることは道徳的に非難されるべきだって。」
ブレンダは若い女性たちが厳しい経済状況から危険を承知で危ない世界へ飛び込み、その結末として無残な姿で殺されてしまう惨状に強い怒りを感じている。またそれと同時に、自分は警察官として真実を暴き罪人を法の下罰することで、このような不公平な社会に対する不満や怒りを晴らしたいとも考えている。このシーンにはブレンダが抱いている警察としての正義感と、自分と同じ女性が過酷な状況で働かされた結果死に追いやられてしまったことへの罪悪感が詰まっているといえるだろう。

本話の最後のシーンでは、フリッツがブレンダにこのような言葉をかける。
「そこが君のいいところだ、情にもろいところ」
これは直前にしていた猫の話についてのように見える。しかし私にとっては、今回被害者の女性に強く共感し、法で罰するよりも残酷な方法でニックに罰を与えたブレンダの姿勢や、被害者女性の家を購入することに決めたブレンダの行動から見える情の深さについて語っている場面とも受け取れる。
私は「The Closer」シリーズを通して、警察官として事件に向き合う姿と同時に描かれるブレンダの人間らしさにも強く心を打たれ、大きな感動を体感する。絶妙なバランスで現実と理想とを描き出す本作の脚本の素晴らしさには学ぶことがとても多い。


最後に

今回書ききれなかったポイントとして、視聴者にとって見やすい映像の演出方法があった。例えばブレンダが尋問室に入る後ろ姿を映した直後、尋問室のモニター映像が映し出される演出は、視聴者の興味を惹きつけながら速やかなカメラワークとともに物語を進めている。また、被害者の自宅でダニエルズが冷蔵庫の扉を閉めたあと、ブレンダはその冷蔵庫に貼られたチラシを手に取り電話をかける。こうしたスムーズかつテンポの良い物語の進展の工夫が、視聴者目線に立った「見やすい映像作品」に貢献していると感じた。

実は今回の第3話を見終わったとき、結末の難解さを文章にするのは難しいのではないかと思い、noteの投稿を避けようとした自分もいた。しかし執筆を終えた今、やはり学ぶべきポイントが多いこの作品の分析を文章に綴るこの作業は、今の自分にとって欠かせない勉強だと身に染みて感じた。
次回以降は新たな作品の分析に移るか迷っているため、これが「The Closer」シリーズの分析として最後の投稿になるかもしれない。
だが、本作を通して得られた学びを今後私の脚本づくりに活かすことで、これまでの時間に意味があったと思えるだろう。

これからもこのようにドラマ・映画作品の分析を文章として残していく予定です。
よろしければお時間ある際に、読み物として楽しんでみてください。
今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました!(スキ、フォローをいつもありがとうございます😊)


第3話の分析に使用した模造紙

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