土田映子/ Eiko Tsuchida

札幌で英語を教える大学教員。学問の世界には米国教育史から入ってアメリカン・スタディーズ…

土田映子/ Eiko Tsuchida

札幌で英語を教える大学教員。学問の世界には米国教育史から入ってアメリカン・スタディーズを経由し、移民史で学位取得。現在の関心は言説と世界認識・アイデンティティ形成の関係を、特に大衆文化や大規模イベントなどの教育機能を通して考えること。新聞コラムや趣味の小説も書いています。

マガジン

  • 思い出のアメリカン・フード

    子ども時代・大学院生時代にアメリカ合衆国に住み、その後もたびたび訪米した経験から、アメリカの食に関わる話題で書くエッセイシリーズです。カナダが入ることもあります。20章としているのは、とりあえずの目標を20本としているため。ゆっくり進行中。

最近の記事

過去の著作へのリンク集:宮澤賢治、シカゴ万博、エスニシティ、2001年米国同時多発テロ、五島プラネタリウム

北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP)に掲載されている過去の著作から、現在でも読むに耐えると思われるもの・一般読者向けのものをリストアップしました。 2004年。北大の公開講座での講義を元に書き下ろした論考です。A6版で約30ページあります。 2013年。国際広報メディア・観光学ジャーナル(北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院発行)掲載の研究ノート。シカゴ万博は2回行われましたが、これは大恐慌のさなかに行われた2回目の方です。 万博との関連はないですが、ト

    • 妊娠中の不思議な出来事

       オンライン大学院ゼミを終え、眼精疲労にやられて伸びていると、娘が学校から帰ってきた。手を洗うなりタブレットの電源を入れてソファに陣取る。「星のカービィ」Twitter やら動画やらをチェックするのに余念がない彼女は、小学六年生。もう母の服を着られるほどにデカイ。 「あれから12年か……」  季節が春から夏へと移り変わり、札幌の緑も濃くなるこの季節、いつも妊娠中のことを思い出す。当時、ちょっと現実離れしてるんじゃないかと思う不思議なことが二つ、あった。  一つは、助産師

      • 本の紹介『ともに生きるための教育学へのレッスン40ー明日を切り拓く教養』

        本業の大学教員の仕事では、英語の授業がいちばん多いのですが、大学院の授業も受け持っています。教育学の大学院です。その縁で、ここにご紹介する本に、エッセイを一本掲載していただきました。 『ともに生きるための教育学へのレッスン40―明日を切り拓く教養』(明石書店、2019年8月発行)は、北海道大学教育学部創立70周年を記念して出版されたものです。 ねらいは、「高校生、大学生や一般市民を念頭に(中略)教育学研究の意義や面白さを感じてもらえるもの」(編集の松本伊智朗先生のあとがき

        • 思い出のアメリカン・フード(8: クリスマスとみかん)

          第8章 アメリカのクリスマスと籠盛りみかん  大学院生時代、米国ワシントン州の友人宅にクリスマス休暇を過ごしに行った時のこと。友人がスーパーマーケットで、「クリスマスにはこれが欠かせないの」と言いながら、みかんを箱買いした。それも小さい箱ではなく、お歳暮で贈られるようなサイズ。箱の側面には富士山のイラストがあり、「静岡産」と印刷されていた。  友人は父方がドイツ系、母方がアイルランド系で、日本との血縁関係はない。続いて彼女の知人宅を訪問した。彼女同様、白人の家庭で、ここでも

        過去の著作へのリンク集:宮澤賢治、シカゴ万博、エスニシティ、2001年米国同時多発テロ、五島プラネタリウム

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        • 思い出のアメリカン・フード
          9本

        記事

          心の回復が辿る道:9.11同時多発テロ事件遭遇後の個人的経過について

           2001年9月11日にアメリカ合衆国で起こった同時多発テロ事件は、今や教科書に載る現代史上の事件として扱われている。近年は、アメリカでも若い世代にこの事件のことをどう伝えていくかが課題とされているという。あれから19年。  当時シカゴで大学院生をしていたわたしは、事件の日、たまたま旅行でニューヨークを訪れていた。この日に飛行機でシカゴに戻る予定だったのだけど、飛行機の運行は停止され、ホテル宿泊の延長も断られて行き場を失った。NYCを鉄道で脱出し、州内の小さな町の知人宅に転

          心の回復が辿る道:9.11同時多発テロ事件遭遇後の個人的経過について

          思い出のアメリカン・フード (7:アメリカの名もなきスイーツ)

          第7章 アメリカの名もなきスイーツ 外国文化、特に食文化や服飾雑貨など、目に見えるモノの伝播にはある種の法則性があるように見える。まず、「高級」とされるものは国境を越えやすい。昔の言葉で言えば「舶来物」と呼ばれるようなものや、「○○王室御用達」などの能書きのついたもの、また希少価値があるとされるもの。日本料理を取ってみても、海外では寿司や天ぷらが先に知られるようになり、庶民の味の代表格であるラーメンがブームとなったのは近年だ。 こうした現象の背景としては、「高級」とされるもの

          思い出のアメリカン・フード (7:アメリカの名もなきスイーツ)

          小学校英語必修化 初めての教科書が来た

           2020年春、日本各地の多くの学校が休校中とあって話題になっていませんが、今年度は小学校で英語が必修となった初年度にあたります。現在小学5年生のわが家の娘は、前年度まで「外国語活動」の中で英語に触れてきましたが、教科として小学校で英語を学ぶ初めての学年となりました。  5月中旬現在、札幌市内の学校は休校中ですが、4月には始業式から1週間だけ学校があり、新年度の教科書類を受け取ることもできました。配布された英語の教科書について、感じたことを報告します。  筆者の英語との関わ

          小学校英語必修化 初めての教科書が来た

          盛岡の「ニックナック」を知っていますか

           思いがけず、とても長くなった2020年の春休み、暇で仕方がない新小5の娘が親の本棚をあさって、読めそうなものを探していた。わたしはパソコンに向かって仕事をしていた。 「何、これ?」  娘の声にそちらを見ると、古い高校国語の教科書を開いている。そこに細長い紙の栞が入っていた。 「ニックナックって、何?」  時代がかったカラー写真を背景に、「盛岡ドミニカン修道院」「ニックナック」の文字。 「ああ、これは……」  ものすごく昔の、思い出すこともなくなっていた友人に突然出会ったよう

          盛岡の「ニックナック」を知っていますか

          思い出のアメリカン・フード (6: 学校給食とマカロニ・アンド・チーズ)

          第6章 学校給食とマカロニ・アンド・チーズ多くの子どもたち同様、我が家の小学生も学校の給食が大好きだ。毎月の予定献立表を眺めると、五目ごはん、カレーピラフ、鮭ちらしと、ご飯ものが多く並ぶ。年に何回かは地元・北海道のご当地メニューが登場し、ザンギ(北海道式の鶏の揚げ物)やサンマ丼などが出る。ジンギスカンが出た日は、娘はその匂いをつけて帰ってきた。児童と教職員、数百人分のジンギスカンが配膳された校内は焼肉店のような匂いでいっぱいだったに違いない。    自分が東京の小学生だった頃

          思い出のアメリカン・フード (6: 学校給食とマカロニ・アンド・チーズ)

          思い出のアメリカン・フード (5: りんごと学校、ハロウィーン)

          第5章 りんごと学校、ハロウィーン 「りんご」という日本語から連想されるものは何だろう。赤という色や、大産地の青森県や長野県、お祭りのりんごあめだったりするかもしれない。ひと昔、ふた昔前ならば、みかんと並び、お歳暮で贈られる代表的な品の一つだったことを思い出す人もいるだろう。そこには日本の文化や社会、歴史の中でのりんごの位置が反映されている。  では、英語の世界でapple が喚起するイメージは、どのようなものだろうか。まず挙げられる代表的なものは、「学校」だ。りんごは学

          思い出のアメリカン・フード (5: りんごと学校、ハロウィーン)

          思い出のアメリカン・フード (4: りんご、アップルサイダー)

          第4章 りんごの季節、アップルサイダーの季節  りんごの季節が始まると、心が浮き立つ。ここ札幌では、本州産、多くは青森産の早生「つがる」がまずスーパーの棚に並ぶ。やや遅れて北海道産のりんごも市場に出てくる。道内産地直送の農産物が売られるイベントでは、「ハックナイン」「コックスオレンジピピン」といった珍しい品種も含め、余市などから持ち寄られた多種多様なりんごが大箱の中に魅惑的な顔をのぞかせる。季節が進み、いわば真打ともいえる「ふじ」がフルーツ売場に何段にも積み上げられるまで、移

          思い出のアメリカン・フード (4: りんご、アップルサイダー)

          思い出のアメリカン・フード (3:ボストンクリームパイ)

          第3章 ボストンクリームパイというケーキ  パイというものには二種類ある。一つはフランス式の折りパイで、もう一つはアメリカ式の、パイ生地をパイ皿に敷き込んでフィリング(詰め物)を入れて焼いたものである――という説明を、どこかのお菓子の本で読んだことがある。  しかし、今回の話題のボストンクリームパイはどちらにも当たらない。黄色味の強い丸形スポンジケーキの厚みを二つに切り、流れずに形を保つくらいの固さのカスタードクリームを間に挟んで、上にダークチョコレートのグレーズをかけたお菓

          思い出のアメリカン・フード (3:ボストンクリームパイ)

          思い出のアメリカン・フード (2:レモネード)

          第2章 子どもたちが売るレモネード 「夏休み」から連想される定番の飲み物といえば、日本では麦茶とラムネが代表格だろうか。関西ではひやしあめもそうだろう。多種多様なペットボトル飲料が出回っている今の子どもたちは、もっと違うものを選ぶのかもしれないが、朝顔やひまわりの花、すいか割り、虫捕り、海水浴……といった夏休みのイメージとともに、ずっと昔からあって少し懐かしさを誘う飲み物、というのが一般的なとらえ方ではないだろうか。  アメリカでは、レモネードがこの地位にある。作家のレイ・ブ

          思い出のアメリカン・フード (2:レモネード)

          思い出のアメリカン・フード (1:ベリー類)

          第1章 ベリー類:ハックルベリーとマリオンベリー アメリカの食についてひとつ特徴を挙げるとすれば、野性味あふれる食材とスーパーマーケットに並ぶ大量の加工食品の間のギャップがある。北米大陸の自然の恵みそのままの食材や、人の手による選別や改良を経ても素朴さを残した食材の数々がある一方で、添加物のリストが何行にもわたって箱に印刷され、元の食材の原型も風味もとどめていない、高度に加工された食品が、大型スーパーの延々と続く棚を埋めている。人類の食の両極に位置するかのような両者はおそらく

          思い出のアメリカン・フード (1:ベリー類)

          思い出のアメリカン・フード (0:はじめに)

          はじめに きっかけは、「大将」の質問だった。 「アメリカには、美味しいものってあるの?」  彼は母方の親族で、滋賀県で料理旅館を営んでおり、料理長として皆から「大将」と呼ばれている。有名料理学校で和洋中の技術を学び、アジア各地を食べ歩き、料理人として豊富な経験を持つ人である。わたしはアメリカ史研究者で、この旅館で行われる研究会の打ち合わせを大将と始めようとしていたところだった。 「それはもちろん、ありますよ。世界中から人が移住しているので、いろんな国の料理が食べられます」 「

          思い出のアメリカン・フード (0:はじめに)