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会社員だって働きながら世界一周できるはずだ

私はいま、ブラジルからポルトガルに向かう飛行機の中で、狭い座席と葛藤しながらこの記事をカチャカチャと書き進めています。

本業は普通の会社員なのですが、2019年の12月から、「世界一周をしながら働く」というチャレンジをしていて、これまでにメキシコやプエルトリコ、ジャマイカやペルーなど、中南米を中心に8か国回ってきました。

「なんか、ぶっとんだことしてるねー」
と、よく言われます。でも私からしてみると、数年後には普通になっているであろうことを、ちょっとだけ先取りしているだけの気分。
現に、数年前まではマイナーだった「副業」や「テレワーク」だって、最近では大企業がこぞって取り入れ始めています(というか、取り入れざるを得ない状況になってきてる。)
少しずつ社会が「時間や場所に囚われない自由な働き方」に向かって動いている。
だからこそ私自身も旅に出るという決断をしたわけですが、この記事では、なぜそんな決断に至ったのかとか、実際のところやってみてどうなのかとか、そんなことをお話させていただこうと思っています。

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・・・ただちょっとその前に、背景となる話を少し。

突然ですが、石と砂利と砂の物語、ご存じですか?

個人的にとても好きな作り話なのですが、ご存じでない方のために、私なりにまとめてみるとこんな感じ:

ある先生が生徒たちの前で、ガラス瓶の中にゴロゴロと石を入れ、こう尋ねます:「この瓶は、いっぱいになったかね?」
上まで詰まった瓶を見て、生徒たちは口をそろえて「いっぱいです」と答えました。

次に先生は、その瓶の中に砂利を入れていきます。
すると石の隙間に砂利がどんどん入り込んでいきました。そこで生徒たちにもう一度聞きます:「今度は、どうだ?」
生徒たちは「今度こそ、いっぱいになりました」と答えました。

先生はそこでさらに、瓶の中に砂を流し込みます。すると砂利の隙間がみるみる埋まっていきました。

ハッとしている生徒たちに向かって先生はこう語ります。

「いいか、このガラスの瓶はお前たちの人生だ。
この大きな石は、自分の人生にとって最も大切なものを表している。
砂利は、その次に大切にしているもので、砂は、それ以外の、それほど大事ではない出来事や持ち物などを表しているとしよう。
仮に、瓶の中に砂利や砂を先に瓶に入れてしまったら、そのあとに大きな石を入れることはできないだろう。
お前たちの人生においても同じことがいえる。重要ではないことにすべてのエネルギーや時間を注いでいたら、もっとも大切なことが見失われてしまう。
まずは、人生にとってもっとも大切なものを先に入れなければならないんだ。」

(※参考:英語の動画ですがわかりやすくまとまっています)

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私は、ワークライフバランスという言葉が嫌いです。

なぜかというと、本来「ライフ」は「ワーク」と天秤にかけるべきものではなく、「ライフ」の中に「ワーク」がある、つまり、まさにこの先生の話でいう「ガラスの瓶」と「石・砂利・砂」の関係性であるはずだからです。

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人によって、「ワーク」は一番大きな石かもしれないし、砂利かもしれないし、砂かもしれない。
いずれにしても、「ライフ(ガラスの瓶)」と「ワーク(中身)」を天秤にかけるなんて、おかしな話。
だから、最近少しずつ聞くようになってきた「ワーク・イン・ライフ」という考え方のほうがしっくりくるんです。

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(ちなみに、その延長線上にある話として「公私混同」は全く悪いことじゃないとも思っているのですが、その話をすると長くなりそうなのでまた別の機会にでも。)

ワークインライフ。だから、「働きながら世界一周」というチャレンジを始めました

夫と結婚する時からずっと、夫婦でいつか世界一周したいよねと、話していました。そんな夢を何年も抱きながらも、「仕事が忙しい」を理由に諦めかけていました。
でも、30歳という節目を迎えた昨年、ふと、「行くなら今年しかない」。
そう思ったんです。

「働きながら旅をしていい」なんて制度、会社にあるわけがありません。
でも、ワーク or ライフ(=この場合でいうと旅)、どっちを取るの?という二択しかないなんておかしい。

業務とミッションをしっかり設計すれば、もしかしたら、仕事を続けながら旅をすることが可能なんじゃないか?…そう思って、上司に相談してみました。
「働きながら世界一周したいです」、と。

そうして(もちろん色んなハードルはあったのですが、何とか)2019年12月より、夫婦で世界一周をスタートさせることができました。
正社員として週2日分働きながら、残りの時間を旅に充てています。

夫婦の夢だった「世界一周」は、私にとってとても大きな石でした。
けれど、それを瓶の中に入れるためには、大好きな「仕事」という石を一度取り出して、違う形の石に置き換える必要があったんです。
「週5フルタイムのオフィス勤務」という形から、「週2パートタイムのリモートワーク」という形へ。

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(アルゼンチン・パタゴニアにて)

仕事ありきの人生ではなく、人生ありきの仕事をデザインする

実は今、仕事以外にも、旅路で出会った人々に突撃取材インタビューをするというプロジェクトも進めています。これが、本当にユニークな人たちばかりで、「生き方」についてすごく考えさせられるんです。

例えば:

ニューヨークで会計士としての道をまっしぐらに進んでいた20代後半のスマイリー。ある日突然、会社の上司に言われた一言がキッカケで「僕はここにいたいわけじゃない」ということに気づきました。それから数年。今では、メキシコでラッパーとして活躍しています。
ペルーで出会った40代のパンチョは、大学生時代、トイレ掃除のアルバイトで学費を稼ぎ、やっとの思いで「弁護士」としてのキャリアを手に入れました。
しかし数年働いた後のとある日、「もっとサーフィンがしたいです」という一言であっさり退職してしまいます。今では、当時の同僚の誰よりも幸せな自信があるよ、と語る自営業のオーナーです。
プエルトリコで出会ったモリーという女性は、アメリカ出身ですが、南国の島で生活するという夢をどうしても捨てられなくて。母の死を機に、周囲の反対を押し切り、全財産をはたいて移住を決行しました。引っ越してきてからゼロから築き上げたAirbnbホストとしての仕事が今の生きがいだといいます。
法律事務所でキャリアをスタートさせたバリキャリウーマンのマリニスは、「自分の会社を持ちたい」という夢を追いかけて起業しました。しかし、「起業をすれば自由になると思っていたけれどそれは単なる夢でしかなかった。私に本当に向いているのは会社員だ」と気づき、今では古巣の事務所に復職して、幸せに働いています。

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彼らは、それぞれ全く異なる生き方をしてきているけれど、共通していることがありました。それは、仕事に合わせて人生設計をしているのではなく、人生にあわせて仕事をデザインしているということ。
こういう生き方をしたい、だからこういう働き方にしよう。そんな選択をしてきている人たちばかりなのです。

逆に:

「今の会社にいれば、2年後には海外赴任になるだろうから、そしたら家族みんなで引っ越そう」
「あと3年頑張れば昇格できるから、そしたら家を買おう」

そういった考え方は「仕事ありきの人生設計」です。
良い悪いとか、正解不正解とかの話をしたいわけではありません。むしろ、それが自分にとっての幸せなのであれば、それ以上のことはないと思っています。

でも、例えばこんな意見を聞くと、ちょっぴり残念な気持ちになってしまいます:

「二拠点生活とかって憧れるけど、俺の会社じゃあ無理だな」
「リモートで働けたら子供ともっと過ごせるだろうから、うらやましい」

もし、本当にそれを望むなら、それを実現するための手段は絶対にあるはずだから。
もちろん、資格も何もないのにいきなり宇宙飛行士を目指してみようとか、そういう夢物語のような勧めをしているのではありません。
だけど、今の仕事ありきで長い人生を決めきってしまうのは、もったいないんじゃないかなぁと。

Think about your life goals before your career goals.

(キャリアゴールの前にまずは、ライフゴールを考えよう)

これは、私がスタンフォード大学のMBAに留学していた際のもっとも大切な学びでもありました。
そのおかげで私は、「とにかくキャリアアップしなきゃ!」「成功しなきゃ!」「上り続けなきゃ!」と思い込んで歩んでいたレールからひょいっと外れて、自分が本当にやりがいを感じられることって何だろう?と考え直すキッカケになったのです。

そもそも私が一番大切にしてる石って、何だろう?って。
私自身にとっては、仕事でもそうじゃなくてもいいからとにかく「常にワクワクしていること」でした。今では、それを基準に、あらゆる判断をするようにしています。

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もちろん、「石」が何なのか、というのは人それぞれ。
だから、私は、別に誰もが会社を辞めるべきだとも、旅をするべきとも思っていないし、よく言う「好きなことを仕事にしよう」みたいなのも、全員に当てはまるとは思っていない
例えば、「自分にとって一番大切なのは家族だから、そのために今の仕事を歯食いしばってでもやりきるんだ」とか、「今の自分にとって大切なのは、とにかく生活のためのお金を稼ぐことだから、どんな仕事でも頑張るんだ」と "自分で決めて" "腹をくくっている" 人は、カッコイイですもん。

でも一つ言えることは、
「仕事ありきの人生設計ではなく、人生ありきの仕事デザイン」という考え方に切り替えてみることで、それまでに見えていなかった選択肢が見えるようになるんじゃないか、ということです。
今まで自分を縛っていた「仕事」という大きな石を一度ガラスの瓶から出してみて、改めて、自分にとって「大きな石」が何なのかを自由に考えてみてはいかがでしょうか。
そのうえで、自分の意志で自分の「石」や「砂利」や「砂」を決める。それが重要なのではないかと思います。

これからの時代、転職、独立、起業、副業、複業、リモート、他拠点居住、在宅勤務…など、働き方の選択肢がどんどん増えていきます。
そして、それらを実現しやすくなるためのサービスやインフラもどんどん整っていき、流動性が高まっていきます。その流れは、グローバルにみても、間違いなく来るはずです。

そうなると、「人生ありきの仕事」を意識できている人は、どんどんそれを実現しやすくなっていくわけです。実現するためのツールが社会システム上にどんどん揃っていくからです。
今までは、そんなことを考えたって「会社を辞めるなんてとんでもない」って出る杭が打たれていた。けれど、少しずつ、自分らしい生き方を目指そうとした人が、それを達成しやすい社会になってきていると感じています。
(一方で、その感覚を持たずに20、30代を過ごしてしまうと、所属組織自体がすごく先進的でない限りは社会に置いてけぼりになってしまうんじゃないかと思います。)

そんな未来を信じているからこそ、まずは自分たちが行動してみなきゃ。
そんな思いで今回のチャレンジに踏み切ったのです。

実際のところ、どうなの?

実は以前も、アメリカのシリコンバレーに住みながらリモートワークをしていたことがあるのですが(体験記はこちら)その時と比べると難易度が上がっていると思います。
その理由は、以下のように、変動要素がいくつも増えているから:

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改めて書き出してみると「働き方」にはこんなにたくさんの要素があったのか、とびっくりしますね。
変動要素が増えれば増えるほど複雑になるということは言うまでもありませんが、私が目指している「生き方」のためにはこれが不可欠だったわけなので、歯を食いしばってでもやってみるしかありません。

働きながら世界一周という挑戦が上手く行くのかどうかもちろん不安もありましたが、70日目をもうすぐ迎えようとしている現時点で、帰国命令はまだ出ていません(笑)
それどころか、フルタイム勤務の頃にはできていなかった性質の仕事ができていたり、予想していなかったメリットというか思わぬ果実みたいなものも数多く感じています。
(そのあたりについては改めてnoteにてまとめたいと思ってます)

そしてもちろん、ありとあらゆる壁にもぶつかっています。
旅と仕事のバランス。時差の管理。働く環境探し。旅のプランニング。体調管理。こういったものをすべて日々意識しなければならないので、正直脳が悲鳴をあげています(笑)

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特に、これまで以上に必要だなと感じているスキルとしては:
- どんな時でも仕事モードに切り替えられる「メリハリ力
- 早いスピードでPDCAを回すための「目標設定&振り返り力
- 変動要素だらけの毎日の中にルーティンを築いていく「習慣力
- 対面と同じ、もしくはそれ以上の成果を生み出す「オンラインコラボレーション力
など、もっと身に着けなければ…と感じている日々です。
(この辺についても、詳しくは後日noteにて)

でもとにかく、がむしゃらにやるしかありません。

なぜなら、自由にはたらくためには責任が伴うから

ある意味、私がとった選択は、自分勝手です。いってしまえば、自分が旅したいだけだから。
でも、それが結果として会社にとっても社会にとってもプラスになると信じているから、辞めるわけでも休職するわけでもなく挑戦させてもらえています。
ただ、そのために、総務や人事や同じ部署のメンバーやプロジェクト仲間や取引先に負担がかかってしまっているのも事実。
だから、その分果たさなければならない責任があるんです。
「自由でいいね」とよく言われますが(笑)、少なくとも、「自由でいいね、楽そうだから」と言われると、ああ、この人にもいつか分かってもらえるといいなあ、と思ってしまいます。

自分の目指す「人生」にあわせて仕事をデザインするということは、決して楽ではない

でも、少なくとも私は今、すごくやりがいを感じています。
そして、これまでに取材をしたスマイリーもパンチョも皆、目がキラキラと輝いていました。

私は、砂利とか砂のことしか考えられない人生よりは、大きな石を自分の手で詰めていけるような人生のほうがワクワクする。楽じゃないかもしれないけど。
そんな風に思っています。

ちょうど、もうそろそろ飛行機が到着する時間です。
長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。

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また、旅しながら突撃取材をする #その時自分史が動いた シリーズはこちらの夫婦アカウントから、夫婦の旅の様子はこちらのインスタグラムから、働きながら世界一周の日々の気づきはツイッターから、配信中です。


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