明日が来ないってだけ

十字路のどれにも花が手向けられている
夕陽の赤は炎のようだし流血のようでもあって
ただただ厳粛に終わらせようとしているのが分かった

万引きした息子を叱り付ける母親の横を
懐に包丁を忍ばせた学生が通り過ぎる
やはり厳粛に終わらせようとしているのが分かった

惰弱な精神の上にも爆弾は降ってくる
戒めの為に読み掛けの小説の栞を目次にまで戻せば
懐かしい感傷の光景に不穏な新鮮味を感じる 自慰を禁ずる

埋没するに足る慈悲を欠いた夜の空に向かっての慟哭は
雑踏のシュプレヒコールに迫害されて故郷の土に引っ込む

夕焼けは燃え尽きるまで夕焼けをやめない
学生は刺す場所が失せてもナイフを降り下ろす
僕はそんな絶叫に焦がれて布団にすっぽり潜り込む
きっと死ぬまで潜り込む 頭まで覆って汗ばんで潜り込む

明日が来ないってだけで歩みを止める彼らはもういない

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