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現代思想を修めた人間から見た「機動戦士ガンダムⅢ」の主題歌「めぐりあい」 謎多き名作の歌詞を精読し、込められたテーマを読み解く。

自己紹介がてら

 え~、わたくし徳田孝一郎と申します。
 いまは、英語・英会話をご指導させていただいたり、英語関係のエッセイや、エンタメ小説を書かせていただいて、活計(たつき)とさせていただいている者です。

 ですが、英語は好きじゃなかったんですねぇ。30年前に進学塾で中学生に英語を教えなきゃいけなくなった時には、ホント困りました。

 なんたって、好きじゃない上にできない。
 これほんとうに冗談抜きで、できなかった。women をウーメンと読んじゃうぐらいできない。

 そんなわたしを助けてくれたのは、大学で修めた現代思想

 嬉し恥ずかし、告白しちゃうと、わたくし中村雄二郎先生の門下生だったりする。
 しかも、最後の世代のものだから結構かわいがられた。いや、鍛えられた。かなりの愛情を持って。

 中村先生としてはめずらしいことだったんじゃないかなぁ、研究室にお邪魔するのを許されてたし。

 そこで、叩きこまれた現代思想の思考法がね、これが、困難にぶつかったときに活きるですねぇ。
 それを使って、独自の英語の教授法を編み出して、なんとか中学生の英語力をあげることに成功して、会社を馘首にはならずに済みました。

 まったくもって勉強はするものです。

 でも、この現代思想の思考法は、どうもいろんなところに影響を与えているらしくて、例えば、流行ってるアニメ、小説、映画なんかの感想や解釈が、ぜんぜん人と違ったりする。

 そんで、ありがたいことに、ぜんぜん違っているのを面白がってくれる人もいたりする(いや、呆れているだけ、かもしれないが)。

 それに、現代思想の思考法はわたしを助けてくれたように、意外に役に立たせることも出来るんで、アニメだの小説だのをテキストにそれを紹介できれば、なんて大それたことを思うわけ。

 まぁ、なるたけ肩の凝らない愉しいコンテンツにしたいと思っておりますので、ちょっとのぞいて行ってくださいな。

 というわけで、「現代思想を修めた人間から見た〇〇」シリーズ、開始です。

 あ、あと、とりあげた小説やアニメや映画に興味が引かれた方は、騙されたと思って(まぁ、騙している可能性はあるが)、アマゾンでぽちっとしてちょうだい。絶対面白い作品群なんで。

 第1回は

 じゃじゃ~ん、

「機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙」の主題歌「めぐりあい」

 まぁ、ちょー有名で、ガンダム好きなら一度は歌ったことがある歌だが、
 これって、歌いながら、はて? どういうこと? って、なりません?

 わたしはなりました。ええ。
 それは、まだ、頬っぺたの赤い小学6年生の時のこと。
 2月の寒い時期に福岡のレコード店でレコードを手に入れて、いそいそとレコードプレーヤーにかけた途端に、

Believe! 人は悲しみ重ねて 大人になる
ですよ。

 3月に公開を控えていた「めぐりあい宇宙」は、アムロとララァとシャアの三角関係(嬉し、恥ずかし)のお話と知っていた小6男子(エロガキ)としては、もっとロマンティックは歌詞を想像していたんで、

なんじゃ、この堅い歌詞は?

 ってことになる。
 こりゃ、恋歌じゃないばい(博多弁)、どげん考えればよかと?

 と、田舎者丸出しで思った次第。

 ただねぇ、現代思想がを修めるとね、わかってくるんだなぁ、これが。

 この歌にこそ、まさしく主題歌なんすよねぇ。

 機動戦士ガンダム(ファーストガンダムって奴ね)って作品の主題が見事に、込められてるんだわ。

 それをここでは、ちょっと読み解いてごらんに入れましょう。
 細工は流々仕上げを御覧じろってやつです。
 騙されたと思って、木戸賃を置いて行ってくださいませ(購入してね)。

 まずは、冒頭の歌詞からいきましょう。

Believe! 人は悲しみ重ねて 大人になる
=信じなさい、私たちは私たちの悲しみとその空虚を私たちの内側に積み重ねることによって、大人になるのです。
Believe! We grow up by piling our sadness and the emptiness inside us

 これって、まぁ、宣言だわな。
 富野喜幸(現 由悠季)って人は、大人になるってことをこう考えてるんだよって、宣言。
 そうすると、当然の疑問、

 悲しみを重ねるって、どういうこと?
 なんで、悲しみを重ねると、大人になれるの?
 それって、どんな大人?

 ぱらぱらと浮かんできますやね。
 疑問を重ねながら、次へ。

いま 寂しさに震えてる愛しい人の、その哀しみを 胸に抱いたままで
=そして、今、その寂しさで震えている愛しい人のその哀しみを持ちながら
And now, having the sadness of my sweet shivering from the loneliness

 ここの英訳は頭をひねるわけだ。
 だって、この歌詞を素直に読めば、
  寂しさに震えてるのは、愛しい人でしょ? 

 でも、
 愛しい人の哀しみを胸に抱いているのは自分
 相手の哀しみを自分が抱いてる?
 どういう状況?

 Platina Jazzって、USのジャズバンドが「めぐりあい」を英訳して歌ってくれてるんだけど、この部分の歌詞の英訳はやっぱり難しかったみたい。Platina Jazz(ググって聞いてちょうだい。これまたいい歌なんで)の解釈は、

And now I'm shivering so from the loneliness
Deep down at the core of my heart

 で、自分が失恋して(別れて)哀しみに震えてるって解釈になってる。

 でも、素直に読むと絶対そうじゃない。
 悲しんで震えている愛しい人の哀しみを持っている
 って、ちょっとSFな状況なんだよね。だから、

涙よ 海へ還れ
=落ちた涙は海へ帰るに違いない。
Tears that fall must return to the sea

 と、続くと、あ、これは、SFっぽい設定を前提にしているとピンとくるわけだ。
 え、ピンと来ない? なら、こういう風に疑問を持つのはどうでしょう?

 涙は、海は、何の比喩?

 ピンと来たね。
 ピンと来てる人は次の歌詞を聞いて、ぞっとする筈。

恋しくて つのる想い 宙(そら) 茜色に染めてく
=私は私のいとしい人が恋しい。私の愛はとてもつのって、宇宙を深紅に染めてしまうほどだ。
I miss my sweet. My love is so growing as to colour the universe crimson red.

 ぞっとしている人は、茜色の意味が解ってるでしょう。
 ここで茜色がなぜ出て来る? 思っている人にはヒント。

 古典では、
 茜色
が、意味するものは、

 血の色

なんですよねぇ。これが、ええ。
 で、続いてこう来る。

Yes, my sweet, Yes my sweetest
(ああ、私の愛しい人、私のこの世で一番愛しい人)
I wanna get back to where you were
(私はあなたがいたところに戻りたい)

 あなたのいたところに戻りたい。
 それって、つまりさぁ。その時代、その日々に戻りたいってことでしょ? 
 で、次で止めを刺される。

愛しい人よ もう一度
=私は私の愛しい人にもう一度会いたい。
I want to see my sweet again.

 会いたいって、チョー切なく思ってる。

 これはもうねぇ、恋の歌で、後悔の歌ですよ、はっきり言って。

 自分が殺してしまった愛しい人の残留思念を心に抱いて、
 その愛しい人が大きな人類の意識の海に還ってほしいと願い、
 その人のことを思えば思うほど、手にかけてしまったそのシーンが浮かんで、すべてが血に染まっているように見える。

 結構、きつい内容です。 
 でも、なんで、こういうことをわざわざ言っているのか? 
 そこに思いを巡らすと、ここで、最初の
Believe! 人は悲しみ重ねて 大人になる
 
の意図が見えてくる。

 つまり、

 悲しみっていうのは、
「とりかえしがつかないことをやってしまった」
悲しみなんです。

 そして、それを重ねることで、いや、重ねなければ「大人」になれないって言ってるんだよ。

 ここで「めぐりあい宇宙」をすでに観ている人は、
なるほど、ララァを殺してしまったアムロが大人になるってことだね
 って、なると思うんだが、さて、ここからが現代思想の登場です。

すまんが、みんなの命をくれ(by ブライト)ではなく、すまんが、木戸賃をくれ。

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