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小説『これが僕のやり方』――④弱者の妄想

小説『これが僕のやり方』ーー③ 壊せ。

 フローリングに落下したスプーンが割れた瞬間を見届けると、白い天井を見上げていた。どうやらベッドで寝ていたらしい。吸い込んだ空気の匂いでここが病院だとわかった。

「太一!」

 顔の膨れた化け物が僕の手を握ったと思ったらそれは僕の母だった。泣き腫らしたせいか顔はむくみメイクが崩れて目の周りは黒く染まっていた。
 やめてくれ。寝起きなんだ。その顔を見るならやかましい目覚ましに起こされたほうがマシだ。それになんだか疲れたよ。

 再び目を閉じて思う。あーそうか、僕は瞬間移動までできるようになったんだ。時間も飛んでいるからタイムワープ的なことまでできるのか僕は。
 と想像を展開しているけど手元から延びる管の先に点滴がぶら下がっていてそれは僕に流れている。どうやら目的の未来を間違えた。

 女性の看護師さんがやってきて
「段田さん、聞こえますか?」
 僕はしぶしぶ目を開ける。看護師さんがかわいかったので目をさらに開いてうなづいた。陶器のような白い肌に大きな瞳。つるんとした丸みのある鼻に厚めの唇に大きめな口。笑うところが見たい。
 看護師さんは母に「先生呼んできますね」と言って姿を消した。

 主治医の説明と母の話をまとめると次のようになる。
 朝食の時間になっても僕が部屋から出てこないので、母が僕の部屋に入ると僕は倒れていて救急車を呼んだ。倒れた原因は過労で、主治医が言うには「3日間寝ずに激しい運動をしたようだ」。実際体を動かそうとすると、こんなところにも筋肉があったんだと思うほど、全身のあらゆる筋肉が破壊されて動くことができなかった。「何か変わったところはありますか」と主治医。僕が「眠いんですけどこれって症状ですか」母が主治医の返答を遮る。「タイちゃん、あなた丸一日以上寝とるで」倒れた時間から換算すると僕は33時間ほど眠っていたらしい。去り際に主治医から疲労が取れるまで安静にするようにと言われた。あと2日ほど入院する。

 母が帰宅し1人きりになって、リミッターを外すとはこういうことなんだと僕は思い知る。もうやめたほうがいいのかもしれない。とは思いつつ、僕が起こした事象にわくわくが止まらない。そもそもあれは現実なのか。それすら怪しいけど。母に部屋の様子を聞いておくべきだった。明日聞けばいいか。

 今はリミッターを外した状態でエネルギー波放ってみたい。それだけだ。スプーンを砂状にできたのは偶然の産物だ。(これまでも偶然の産物みたいなものだが。)あくまでも僕の目的はエネルギー波を放つこと。でもスプーン以外のものでも砂みたいにできたら、単純な戦闘力としてかなり高いんじゃないか。人間の体の一部だって砂に変えてしまえるかもしれないのだ。人を殺したって砂が残るだけで証拠が残らないんじゃないか。

 僕はクラスの上位層を思い浮かべる。彼らの顔面に悠々と手を添える。彼らは触れた箇所から砂になり、叫びながら砂になって風とともに消える。

 特に恨みはないんだけど、嫌いだから、試すなら彼らだな。

つづく

#小説
#これが僕のやり方

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