見出し画像

小説『これが僕のやり方』ーー②革命はいびきの中で

 英語の予習が一段落した。まだ11時半。寝るにはちょっと早い。というかまだ眠くない。
 僕は自分の左の手のひらを見た。赤黒い点が選ばれし者の印のようだった。
 でもこれは印なんかではなく、エネルギー波を放出するための出口だ。昨日は痛くてテンション下がってさっさと寝てしまったけど、今日はチャレンジしてみよう。

 僕は立ち上がって机から離れた。スリッパを脱いでフローリングに裸足で立つ。12月ともなれば床はかなり冷されているがそれすらも修行として捉える。モチベーションが上がる。必ずエネルギー波が出ると信じる。僕は仁王立ちで目を閉じる。

 まず自分の体内を絶えず駆け巡るエネルギーの波を意識する。エネルギーは血液のようなもので全身を常に巡っている。その流れの始まりを見極めなければならない。
 向かいの部屋の親の寝室から聞こえていた父親のいびきが消えた。無呼吸症候群の可能性はひとまず置いといて集中できるチャンスだ。
 エネルギーと血流を同じように捉えるなら、エネルギーは心臓からスタートしているはずだ。だから心臓の鼓動を捉えなければならない。でも自分の血流なんて生まれる前から始まっているから血流を感じるのは不可能だ。もし感じられるとしたら気持ち悪い違和感で日常生活を送れないと思う。

 僕は足の冷えに耐えかねてひとまずホットカーペットの上に移動した。足の裏の血の巡りがよくなっていくのがわかる。
 思わぬヒントを得た僕は体の一部を冷やしては暖めることを繰り返した。すでに2時を過ぎていたが僕は気づいていなかった。少しずつではあるが血流と鼓動の連動性を意識できるようになった。鼓動から少し遅れて足に血が巡る。心臓と足の間にある血管を手で触りながら確かめる。
 確かに血はここを流れている。

 僕は左手を前に突き出し目をつむった。父親のいびきは再び始まっていたが耳には入らなかった。
 心臓から左手のひらまでの血管ルートを何度もエネルギーがなぞる。それを脳内で描く。
 僕の中でエネルギーは光をまとっている。だから僕の左手は輝きを帯びてくる。まぶしいくらいの光が僕の左手に宿り始める。僕のまぶたの裏がだんだん白くなっていく。鼓動は強い音で鳴り鼓膜まで響かせ始める。

 あとはその光が一気に外に弾けて飛び出すイメージーー

「ハッ!!」

 僕は思わず声を出していた。そして何かが抜け出ていくような感覚があった。

 ゆっくり目を開けると変哲のないただの僕の部屋。もしかして壁に穴でも空いているかもしれないとも思っていたがそんなことはなかった。
 僕は左手のひらを確認する。そこにはあったはずの赤黒いかさぶたがなかった。

「まさか……出た?」

 しかし自然に取れることだって十分あり得るわけで。
 でも今まで感じたことのない感覚だった。今肩で息せざるを得ないのは何かスペシャルなことが起きている証拠だ。

 つまり、僕、段田太一(中学2年)は、おそらく、たぶん、エネルギー波を、出せる。


つづく

これが僕のやり方ーー③ 壊せ。

小説『これが僕のやり方』ーー①コンパスが刺す方へ


#小説
#これが僕のやり方

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?