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小説『これが僕のやり方』――⑤夜未知、おかまいなし。

(前回:小説『これが僕のやり方』――④弱者の妄想

 通い慣れた校舎を見ても、この中学に初めて登校するような気分だった。
転校したことがないからわからないけど、転校生と同じ気持ちではないだろう。
 発見したことを実験する科学者みたいなものだろうか。僕は科学者じゃないからわからないけど。

 教室のある2階に行くまでに、下駄箱の前でクラスメイトとすれ違う。
 1週間ぶりの登校に少し驚きが混じった視線を向けられた。しかしあいさつはなく、「おい、あいつ来とるぞ」みたいに話題に上がることもない。
着実に、過去の日常が僕を巻き込んでいく。

 休憩時間はあまりもの同士で目立たないように話して、大声で笑ってしまったときは視線を気にしてすぐに黙る。あいつらと同じように性欲があるのに、あいつらと同じように下ネタを口にすると僕の居場所は自分の席だけになるだろう。女子と話したことなんてほとんどないのに、女子に嫌われることが怖くてたまらない。宿題をやってきたらあいつらはそれを写し、授業で堂々と手を上げ正解をむしり取っていく。礼を言われても僕に見返りはない。掃除なんてサボりたいに決まっているのに、僕(ら)は掃除が好きみたいに扱われる。

 人間には与えられた役割がある。教室の中は世の中の縮図だからそれがはっきりとわかる。
 誰が与えたんだろう。
 神様?
 遺伝子? つまりは運命?
 僕には脈々と受け継がれる人間の本能がある。ヒト科の猿も、集団で生きるために役割を自ら担ったのだ。
 しかしもうそんな必要がない。生きるか死ぬかではない。どうすればよりよく生きられるかだ。

 だから僕は、こうやって席に着いている。

「おーい、段田だっけ?
お前の席じゃねぇぞ? ここ」
 こいつが当たり前の反応をしただけで取り巻きが教室の音を独占して笑った。

 川崎夜未知(よるみち)だ。
 変な名前で中2なのにもう童貞じゃない。背がもう173センチくらいあって髪型ツーブロック。(ちなみに僕は162センチで髪型はなんとなく髪を伸ばした感じ。)目鼻立ちは欧米人みたいにはっきりしている。たぶん僕のところまで情報が来ないだけで実際はもっと羨ましいスペック。

「僕はここに座りたいと思った。だから座った。ここから何が見えるか見てみたかった」

 僕の本心でも取り巻きは笑う。
 夜未知は僕の肩を掴んでどかそうとするが僕はイスに捕まって抵抗する。夜未知は僕からイスを引っこ抜こうとするけど僕はイスから離れて夜未知の机に被さって抱きつく。
 いよいよ夜未知が僕の肩を掴んで本気めの力で僕を動かそうとする。
 笑っていた取り巻きは夜未知が本気を出そうとすればするほど静かになり、夜未知のマジ切れ怒声と机がガタガタ言うのが響く。
 夜未知はとうとう僕の無防備な尻に蹴りを繰り出す。普通に痛い。
 僕も普通にキレて思わず左手を夜未知にかざす。
 夜未知、おかまいなし。僕は脇腹に蹴りをくらってくの字に倒れる。


つづく


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