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小説『これが僕のやり方』――⑧リスクなんて

 筋肉痛が治るとすぐに発動させる。左手親指と人差し指の間でスプーンに亀裂が入り割れる感覚がある。その後すぐ意識が途切れそうになる瞬間。

 ――来る

 いつもの視界が暗くなっていくやつ。膝が曲がっていって力が入らない。体がぐしゃっとなる0.6秒前。

 スプーンが落下して「カーン」と鳴る。

 力が入る。
 自分の感覚に驚く。力が入る。
 膝をつき、フローリングに手をつく。その手さえも上半身を支えきれず震えている。頭を垂らす。心臓が暴れる。収縮と収縮と収縮。酸素を回せ。回してくれ。苦しい。吸え。酸素を吸え。
 急上昇する体温を冷やそうと汗が噴き出す。背中の汗はパジャマに吸われた。胸と腹に水滴が溜まり落ちる、僕のパジャマに。
過呼吸のようになった僕は手をつくのをやめて土下座の形で頬を床につけた。冷たい。そこから汗の水溜りができる。
 痺れが全身に徐々に回っていきジンジンと痺れが膨張していく。
 もしかして、死ぬ?

 5分くらい経ってようやく落ち着いてきた。その間ずっと土下座の姿勢で顔はドアの方を向いている。いま誰か入ってきたら驚くだろうな。そう思うと笑えてきた。僕はなんとか体を倒して仰向けになった。

 僕は気絶している間にこんな苦行を受けていたんだ。そりゃ気絶する。でも気絶しなかったってことは脳が「もう気絶するほどでもねぇよな」って思ったってことか。
 あー、もう、眠い。最近、勉強してないな。

 運動部、それで食っていく気じゃないなら時間の無駄だぞって思っていた。でも、僕がやっていることは社会に出て役に立たない。砂みたいにしてしまうなら、シュレッダーのほうが便利だ。燃費もいい。

 でも、食っていけないってわかってもやるんだ。何も考えずにやるんだ。やらされるよりはずっといいから。


つづく

(1話)


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