見出し画像

パワーウォークの時代

日本にはお家芸と呼ばれるものがある。日本発祥の競技はもちろんだけどオリンピックや国際大会でメダルが期待される種目がそれらにあたる。陸上だと近年では競歩だ。なにかと世界との差を感じる日本人としてはオリンピックや世界陸上で表彰団を独占する姿をみては「我軍もなかなかのもんだぞ」と胸をはったものだった。世界陸上やオリンピックを現地で観ていると、そのすばらしいプレイに圧倒されるのだけど、競技日程終盤に近づくにつれ、蚊帳の外感が心を占める。だから世界陸上で2連覇した山西選手の表彰で国歌を調子っぱずれな大声で歌うのは本当に気持ちよかった。

ブダペスト世界陸上競歩はいつもよく知っている競歩とは違った。違和感があった。何を書きたいかというと、「競歩で厚底シューズがスタンダードになりつつあるけど、日本はこれから対応でパリ五輪は間に合うかな?」というようなことを書くつもりであるのだけど、靴が厚いか薄いかという細かい違いじゃなく、景色が違ったのだ。国内の競歩レースにはけっこう行ってるので、「競歩というのはこういう動き」というフォルムが頭にインプットされてるのだけど、ブダペストで観た競歩はなんか確かに競歩なんだけど、ぼくが知ってる競歩じゃない集団が歩いている感じなのだ。

日本で観る競歩は切り替えの速さとかリズムとかスパスパした動きなんだけど、ブダペストで観たそれはガシガシ歩くみたいなもの。迫力があるというか、力強さに溢れている競歩。ガンと踏んでガンとストライドを伸ばす。日本の滑るように歩くみたいなものとは一線を画す歩きなのだ。

今回、20km35kmとダブルエントリーをした選手が多数。その足元にはアシックス・メタスピードスカイを中心とした厚底シューズがあった。前述のガンと踏んでガンとストライドを伸ばす。この動きにフラットソールで癖のないメタスピードがピッタリフィットした上に2種目エントリーが可能な衝撃吸収性を実証したのだ。

東京オリンピックのころ、確かに厚底シューズで歩く選手はいた。フィンランドの選手だったか、ヴェイパーフライで歩いていて「おいおい大丈夫かよ」と苦笑していたのだけど、それから2年。ヴェイパーフライで歩く選手は広まらず、アシックス・メタスピードが知らぬ間に競歩界最強の選択となっていた。アシックスのメタスピード担当者に「競歩でメタスピードが席巻すごいですね!」と声をかけると、「これには正直、自分たちも驚いているんです。マラソンのために開発したシューズが競歩でも活きているなんて」と驚きを隠せない。

3連覇に挑んだ山西利和選手はこの状況について、「彼ら彼女らは2年かけて厚底シューズの歩形を手にいれた」と。一方でもともと、山西選手や池田選手のようなタイプは効率よく足を回していくスタイル。超省エネ競歩というもの。しかし、このスタイルも30年前は異端なスタイル。「30年前にいまの私のような歩き方をしてたら、すぐに失格ですよ。それくらい競歩の歩形というのは長い時間をかけて変化していくものなのです。」と。

今回の競歩をみて、「パワーウォーク」という感じがしたんですよね。と、聞くと、「ああ、もともとそういうものなんですよ」と山西選手は教えてくれた。もともと日本人の競歩選手も欧米人に引けを取らない体格の選手が多かった。だから、これが本来のスタイルともいえるのだと。今回は彼ら本来の歩きにシューズがピッタリフィットしたのだと。

ここから先は

488字 / 1画像

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます!いただいたサポートは国内外での取材移動費や機材補強などにありがたく使わせていただきます。サポートしてくださるときにメッセージを添えていただけると励みになります!