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長崎のメガネくん

スポーツをするにはメガネじゃなくて、コンタクトレンズのほうがいいに決まっているのはわかりきってる。視界も広いし、サッカーのヘディングもしやすいし、うどんを食べても目の前が曇ることもないし、レーシック手術はなんだか怖い。それでもメガネを使うのは、コンタクトを目に入れるのが下手すぎるから。ずいぶん前にフットサルに行くために、コンタクトをいれはじめたのだけれども、なんどやってもうまくいかない。そのうち、洗面台に落ちて流れていって、また新しいのを出してとやっているうちに、諦めたのです。俺は一生メガネで行くのだ。と。

そういう人だから、スポーツサングラスでもなく、あえてメガネで走っているランナーには自然と共感を覚えてしまいます。三菱重工の的野選手、ヤクルトの小椋選手、名城大の谷本選手とか。最近では昨年末の都大路では3区を走る八千代松陰の工藤慎作選手が気になっています。

2023年男子都道府県対抗駅伝。広島をスタートして宮島を折り返す駅伝大会には中学生からシニアまで各世代の選抜選手が出場するいわばオールスター駅伝。先日、スポーツジャーナリスト生島淳さんから教わったのだけど、4年前の1、4、5区のオーダー、高校生区間と今年の3区7区のオーダーを見比べると面白いですよ。と。4年後のシニア区間のオーダーをみると4年前は高校生だった彼らがどういう成長をとげたのか?ストーリーが一気に脳裏に蘇ってくるのです。(ぜひ、今年のオーダーと4年前のオーダーを見比べてみてください)

なかでも注目は高校生のスターが勢揃いする1区。駅伝強豪校のエースがしのぎをけずる都大路とはちがい、都道府県の1区は必ずしも駅伝強豪校のエースが選ばれるわけではない。地域イチオシの最速・最強ランナーがアサインされます。都道府県駅伝には箱根駅伝に出る主だった大学の監督はすべて現地入り。オールスターが集まる都道府県駅伝1区でいい走りをすれば、注目も集まるし、進路もひらける。

山の神になる前の柏原竜二さんの都道府県駅伝1区はとてつもないインパクトがあった。大会的にはノーマークの柏原さんが一人で大逃げ。見事区間賞。全国デビューを果たすというもの。柏原竜二は山の神になる前から、すでに有名であったのです。このときの話が好きで、彼と食事をするたびに「おねだり」して話をきかせてもらいます。一人の高校生がここで人生をかえてやる。と勝負に挑むまでの感情の動きはいつ聞いてもツーンとくるのです。オレンジ色のアームウォーマーは母校いわき総合高校陸上部のイメージカラー。現地についてから、広島のステップで買ったのだそうです。

というわけで、都道府県駅伝1区というのは、筆者にとって「ネクスト柏原」を探すという密かな楽しみがあります。取材ビブスをもらって、スタートから2km先にある西広島駅前を目指します。レース終盤の叩きあいもいいんですが、柏原さんから「最初の1kmは様子をみて、そこから自分のリズムで飛び出した」という話を聞いて、「ネクスト柏原」な選手なら、ここで集団から出ているはず。そう考えたのです。しかも、西広島駅前の左に折れる大きなカーブはランナーの姿を長くみることができるんです。

とはいえ、今回の都道府県駅伝。先頭に飛び出すはずのランナーはわかっていました。兵庫県代表の長嶋幸宝選手(西脇工業)です。都大路1区もスタート直後からの飛び出しで逃げ切って区間賞。都大路、都道府県ともに区間賞をとる。それこそが世代トップの勲章。そこを狙ってくるのは間違いなかったからです。

このシチュエーションが「ネクスト柏原」の登場を予感させるものがありました。柏原さんが走ったとき、当時のテレビ解説でも八木選手を軸として話はじめていることからも、下馬評では八木優樹選手が間違いなく区間賞。そう思われていました。八木選手は長嶋選手と同じく兵庫県代表、そして西脇工業出身。そんなジャイアント・キリングが今回も起こるのではないか。そんな妄想を勝手にしていたら、長嶋選手よりも先に前に出た選手がいた。メガネをかけた長崎の選手。

位置取りも誰よりも最短距離をとって坂を下ってきた。そこに「逃さないよ」とばかりにかぶせてくる長嶋選手。

カーブすれっすれの角をとる走りから長崎のメガネくんの覚悟が感じとれました。すぐに名前を調べました。五島南高校2年生川原琉人選手。その後、西脇の長嶋選手、佐久長聖の永原選手という全国区の選手たちと競り合い区間3位。彼の活躍を地元長崎新聞は大きく伝えました。

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