ゲームデザイナーインタビュー:Marc André

前書き:以下のインタビューはMarc André(以下MA)に対して2014年6月に行われたものである。元記事はMeepleTownに掲載(原文へのリンクはこちら)。掲載元の許可を得て以下に和訳して紹介する。

ボードゲーム界隈はMarc AndréがデザインしたSpace Cowboysの出世作Splendor/宝石の煌きの話題で持ちきりである。Splendor/宝石の煌きは先日Spiel des Jahresにノミネートされ、大賞の最有力候補と考えられている。驚くべきことではない。Splendor/宝石の煌きは本当に素晴らしいゲームなのだから!(私たちのレビューはこちら) そしてMarcはSplendor/宝石の煌きについて私たちの質問にも答えてくれた。Marcの答えを訳してくれたSpace CowboysのFrançois Doucetにも大変お世話になった。ありがとうございます。

―あなた自身について少し教えて下さい。日々の仕事、ゲームについての経歴、他の趣味や興味などについて

MA: 私の家族にとってゲームはとても大事で、私たちはゲームで繋がってもいました。幼い頃から父は私にチェスを教えました。父は地域のクラブの会長だったのです。10代の頃はロールプレイングゲーム【訳注:いわゆるTRPG】をたくさん遊んでいました。経済学を専攻してトレード関係の職に就きました。買って、売って、商品から利益を出すのは、私にとってグローバルな戦略ゲームのようなものでしたし、仕事は好きでした。でもそうした仕事はとても時間を使うものだったので、その手の仕事は辞めて家族との生活を大事にすることにしたのです。

Splendor/宝石の煌きの経緯について教えて下さい。とても注意深くデザインされた、クラシックな雰囲気のするゲームですね。あなたは以前、ゲームをデザインする際に、古いゲームに制限を加えて変更するとインタビューで答えていましたが、Splendor/宝石の煌きもそのようにして生まれたのですか?

MA: Splendor/宝石の煌きは数学的な枠組みの上に作られたゲームで、だからクラシックな雰囲気があって制御されているのです。

既存のゲームを解体して、まったく違う方法で再構成する、というやり方は、今でも私のゲームデザイン手法の基本的な部分です。しかし私も、(日々学んではいますが)もう初心者ではありません。Splendor/宝石の煌きの直接の元となったゲームはありませんよ。

Splendor/宝石の煌きがSpace Cowboysから発売されるようになった経緯はどのようなものだったのでしょうか?以前あなたのBonbonsを発売したGameWorks社のSébastian Pauchonを介したのですか?

MA: Sébastianを介したわけではありません。2012年の3月にイベントでCrocと会ったのです。彼は当時Asmodeeに勤めていて、Splendor/宝石の煌きは当初Asmodeeで開発されたのです。その際に一緒に働いていた人達(Marc Nunésと、その指示で働いていたCrocとPhilippe)がAsmodeeを離れてSpace Cowboysを設立したのです。彼らはSplendor/宝石の煌きも持ち出したわけですが、私にとっては問題ありませんでした。私は箱のロゴをあまり気にしませんので。大事なのは、ゲームに関わる人が最初から最後(発売)まで変わらないことです。

―Space Cowboysは高い理想を持った新しい会社です。その会社の最初の製品ということで、特に優れたゲームではならない、というような特別なプレッシャーはありましたか?

MA: 多分Space Cowboysの方にはあったと思いますよ!私が気にしていたことはちょっと違いました。当初、Space Cowboysは経験のある人々が立ち上げて、コアゲーマー向けのゲームを作るものだと思われていました。しかしSplendor/宝石の煌きは、御存知の通りファミリー向けのゲームでしたから。結果的には非常に上手くいったわけですが。

―それに関連して、テーマはどのように決めたのですか?ありきたりなテーマであるといった懸念はありましたか?あるいはありきたりだからこそ選ばれたのでしょうか。

MA: Splendor/宝石の煌きはアブストラクトでメカニカルなゲームです。私のプロトタイプにはそもそもテーマは何もありませんでした。適切なテーマを選ぶことが、デザインする中でチームにとって一番大変で最も時間がかかった部分なのです。

―Spiel des Jahresにノミネートされて驚かれましたか?(私は驚きませんでしたが!) 大賞を受賞する可能性についてはどう思いますか?

MA: 発売直後の反応はとても良好でした。コンベンションでも、関係者の間でも。ですからまったくの驚きというわけではありませんでした。でもとても、とても良い報せでした!私はとても誇りに思っていますし、ベルリンに行けることを大変嬉しく思っています。私にとってはノミネートだけで十分なので、大賞に関しては予想しませんが、幸運を願っています。

―最終版のルールについて手を加えたのですか?フランスやスイスのゲームの多くは英訳の質が悪いのですが、Splendor/宝石の煌きは素晴らしい出来でした。ゲームを目にするより前に遊び方を理解することができたくらいです。これは誰の仕事なのでしょう?

MA: 最初のデザイン【訳注:ゲームのデザイン、なのかルールブックのデザインなのか判別できませんでした】からいくつか変更が施されています。Crocが担当者で、完全に彼を信頼しています。翻訳がどうなされたのかは知りませんが、私が関わっていなくて良かったと思います!

François: テキストはカナダの翻訳チームに送られました。彼らが翻訳した後で、原文の印象を残すように私たちが校正しました)

―数学者として、私は数学的なデザインについて興味があります。それぞれのカードの枚数は(得点とコストの両方の面で)どのように決めたのでしょうか?一部のカードのコストは非対称的ですし、中段のカードの中には同じ色の宝石を5,6個必要とするものがあってとても購入し辛いものがあることに驚いたのですが。

MA: Splendor/宝石の煌きはトークンの供給(あるいは欠乏)を基礎として、購入したカードが提供する恒常的なボーナスでバランスを取っています。5種類のリソースと、それを獲得するために必要なアクション(そしてそこに課した制限)を組み合わせることによって様々なコストの様々なカードを作り出すことができます。特定の色のトークンを多く必要とするカードほど購入するのは難しいですが、購入するのが難しいほど得られる得点は多いのです。

すべてのカードにはボーナストークンが1種類・1個しかありません。ですからSplendor/宝石の煌きにおいて、プレイヤーは常にジレンマに直面することになるのです。高い価値のカードを買うために時間を費やすか、あるいは高い価値のカードを安く買うためにエンジンを作るか……もちろんこれも時間がかかるのですが。

―私たちが2,3人で遊んだ時には、最上段のカードは1枚か、精々2枚しか購入されませんでした。つまり上段のカードを買う前に安いカードにとらわれていたわけですが。これは正しい方法なのでしょうか?意図的にデザインされているのでしょうか?

MA: 初期のデザインでは、カードはピラミッド状に配置されていました。1レベルのカードが最も多く、2レベル、3レベルのカードは少なくなっていました。しかしこれが唯一の戦略というわけではないのです。

フランスでトーナメントを開催した時には大変驚きました。一部の人々はごく少数のカードを購入するだけで、ほとんど1レベルのカードを購入せずに勝っていたのです。購入のためのエンジンを作ることなく、最上段の高得点のカードを狙って、積極的にカードを予約してトークンを集めてプレイしていました。

―ちょっとしたルールがゲームを大きく変えることがあります。例えば、4つ以上なければ同じ色の宝石を2つ取ることはできない、とか、宝石は10個までしか持てない、とか。こうしたルールはどのように生まれたのでしょうか?基本となるメカニズムが壊れないように必要になったのでしょうか。あるいはゲームをより面白くするために導入されたのでしょうか?

MA: 多くのデザイナーと同じように私も、プロトタイプが無い状態であっても、ゲームを頭の中で何ターンかプレイすることができます。これはデザインする際に大変役に立ちました。

Splendor/宝石の煌きのルールは、カードをデザインするよりも前に、そうやって頭の中で作りました。カードの価値とコストは十分テストして調整しましたから、プロトタイプは高い完成度のものでした。

ですから、Splendor/宝石の煌きのルール上の制限は、ゲームに必要なものなのです。ゲームのバランス(と面白さ)を保つためには、どれも欠かすことはできないのです。

―似たような質問ですが、Splendor/宝石の煌きのルールは面白いゲームをつくるために必要な最低限のシンプルなものだと感じていますか?それがあなたとSpace Cowoysの目標なのでしょうか。

MA: ルールは私が彼らに見せたものとまったく同じです。流れるように構成されていて、簡単に理解できます。

―私も含めた何人もの人々が、Splendor/宝石の煌きは90年代のクニツィアのゲームのようだと評しています。あなたが好きなゲームデザイナーは誰でしょうか?

MA: 私を刺激してくれたゲームは、カタンの開拓者、カルカソンヌ、チケット・トゥ・ライドです。私はこれらのゲームを真剣に学びました。どれもがモダンファミリーゲームの完璧な実例ですから。

これらのゲームはすべて流動的でシンプルです。Splendor/宝石の煌きの基本的なルール―自分のターンには(4つの内から)1つのアクションを行う―はそれを参照して生まれたのです。

―ゲーム開発のもう一つの大事な部分は、もちろんコンポーネントのデザインです。アートワークとコンポーネントはどのくらいゲームの楽しさに影響すると思いますか?またゲームのどのくらいの部分がコンポーネントと無関係に成立すると思いますか?宝石チップはSplendor/宝石の煌きの大きな魅力だと思いますが。

MA: 私のデザインにおいてとても大事な部分です。単なるアートワークではなく、エルゴノミー(人間工学)が重要なのです。エルゴノミーはゲームを直ちに理解する助けとなってくれますから。Space Cowboysもこのことを重視していました。

リソースを示すのにカードを使うこともできましたが、私は発展カードとはまったく違うものをリソースのために使いたかったのです。ゲームの間中リソースを手にして積み上げる必要があるため、大きなトークンを使うというアイデアが生まれました。私が作った最初のプロトタイプではSerengetiの金色のトークンを使っていました。

―最近読んだ/遊んだ/見た/楽しんだものはなんですか?

MA: 最近はテリー・グッドカインドの「真実の剣」を読んでいます【訳注:邦訳は早川書房から】。ファンタジーのシリーズ小説で素晴らしいです。自分自身のゲームやプロトタイプを遊んでいない時は、妻と子供とLove Letterを遊びます。

―次のゲームデザインは何になりますか?Splendor/宝石の煌きの拡張でしょうか?

MA: 次のゲームはMatagotのTerra Nostraになるでしょう(名前は変わるかもしれませんが!)。配置して移動や移動の妨害を行うゲームです。ランダム要素はなく、スムーズに遊べます(1ラウンドに1アクションだけです)。私たちの言い方ではファミリープラスのゲームになりますね。

Splendor/宝石の煌きの拡張は考えていません。ですが、Splendor/宝石の煌きの続編のようなものは創っています。The Crownと仮に呼んでいますが、同じメカニクスを使って、アクションと選択肢を多くして、テーマもよりはっきりしています。まだまだですが。

―何か他にありますか?


MA: インタビューをしてくれてありがとうございました。そして質問と答えを訳してくれたFrançoisにも感謝します。

以上、SdJの大賞発表前、というタイムリーなインタビューでした。和訳の掲載を許可して下さったMeepleTownに感謝いたします。Splendor自体は非常にシンプルでソリッドなゲームだと思います。確かに目新しい部分はありませんので、新奇性についてはやや疑問符がつくかと思いますが、こうした「わかりやすくて誰でも楽しめるしっかりしたゲーム」がきちんと棚に並ぶことは大事ですし、評価されて然るべきだと思います。Space CowboysはBlack Fleetがまた素敵なコンポーネントで近日発売ですし、個人的にはその後に控えるTime Storiesに注目しています。楽しみな会社です。


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