ゲームデザイナーインタビュー:Matt Leacock その3

Matt Leacock氏のインタビュー記事の邦訳第3段です。今回はより広範な話になっていて、個人的に非常に興味深く読みました。Matt Leacock氏は、非常に問題意識がはっきりしているように思います。ゲームデザインにおける問題点をしっかり認識し、それに対して筋道だったアプローチを設定して取り組んでいる。いくつかのインタビューやプレゼン動画を見ましたが、常に整合性があって一貫しているところには感心します。問題を言語化して分析する能力が高い、という印象です。以下のインタビューは2014年9月にRedy Up( http://ready-up.net/ )上で発表されたものです。元記事はこちら> http://ready-up.net/features/one-for-all-qa-with-matt-leacock/ インタビュアーはDean Bowman氏です。快く和訳掲載を許可して下さいました。この場を借りて御礼申し上げます。

Matt Leacock氏が2008年にPandemic/パンデミックをリリースした時には、ボードゲーム界は今とはまったく異なっていた。協力型ゲームはまだ比較的珍しく、ボードゲームの広がりの兆しはあったがまだ爆発的ではなかった。パンデミックは起爆の切っ掛けとなったゲームの1つである。SEとユーザーエクスペリエンスデザイナーの経歴を持つMatt Leacock氏は、今日の協力型ボードゲームの原型を作り上げたのである。協力型ゲームは、競争性の代わりに協同性を主軸にしたことでボードゲームの裾野を広げたと言って良いだろう。パンデミックにおいて、プレイヤーは世界に広がる伝染病を根絶するために協力するのである。伝染病は上手くデザインされたシステムによって地図上に広がっていく。プレイヤーは様々な難易度のAIと戦うことができるのだ。Mattはこの経験を活かしてForbidden Island/禁断の島ForbiddenDesert/禁断の砂漠という協力型ゲームもデザインした。これらのゲームは子供向けの入門ゲームとして作られたが、それでも十分に難しいものである。更に現在は、物語的にもシステム的にも進歩したLegacy版のパンデミックを(Risk Legacyで有名な)Rob Daviauと共同でデザインしており、またプレイヤーが国際救助隊の一員となって活躍するThunderbird/サンダーバードボードゲーム(Mattの特徴である協力的で物語性の高いボードゲームにはぴったりのテーマだ)のデザインも進めている。私はUKゲームエキスポでMattと会って、パンデミックのダイス版であるPandemic:The Cureのプロトタイプを遊ぶ幸運を得た。このゲームはYahtzee/ヤッツィーのメカニクスを使って、面白い部分はそのままに短時間で遊べるようにしたパンデミックである。以降のインタビューは、過去・現在・未来のプロジェクトについて、そして自身のゲームデザインについてMattが電子メール上で答えてくれたものである。

Q: パンデミックはあなたが最初にデザインしたゲームなのですか?それともそれ以前になにかデザインしていたのですか?

自作の限定生産のゲームをいくつか作っています。大学生時代に Borderlands(220部)を作りました。その少し後にはLunatixLoop(200部)を作りました。私は2000年にLunatix Loopを持ってエッセンに行きましたが、そこでたくさんの素晴らしい人々に出会いました。彼らのおかげで私のデザインはずっと洗練されて、そして最終的には2008年にパンデミックで業界に入ったのです。

Q: あなたは協力型ゲームのデザインでもっともよく知られていますが、競争型のゲームに比べて協力型のゲームのどこに惹かれているのでしょうか?

私が協力型ゲームをデザインするのが好きなのは、家族や友達と遊ぶ時には協力型ゲームの方がより楽しめると思っています。協力型ゲームは教えるのが簡単ですし、ゲーマー以外の人に紹介する際のストレスが少ないです。そして、勝っても負けても、ゲームが終わった後にプレイヤーの間に悪い感情を残すことがほとんどないですからね。

Q: パンデミックが出版された時には、協力型ゲームは今程一般的ではありませんでした。パンデミックの影響力がどのくらいあったと感じていますか?ボードゲームの広まりに、協力型ゲームがどのくらい貢献したと思いますか?

協力型ゲームの台頭にパンデミックの影響力があったのかどうか興味があって、BoardGame Geekの管理人に検索条件を調整してくれるようにお願いしたことがあります。その結果、各年に出版された「協力要素のある」ゲームを数えられるようになったのです。協力要素のあるゲームの数は、パンデミックが出版された後の4年間で約4倍になっていました。パンデミックの前は協力型のゲームは全体の2.5%前後で推移していましたが現在は毎年出版されるゲームの約10%が協力要素を持っています。私としては、協力型ゲームがボードゲームの広まりの役に立ったと思いたいですね。コンベンションに行くと、パンデミックからボードゲームを始めた人の話をよく聞きますので。

Q: あなたはご自身のことを第1にインタラクションデザイナーであると語っていますが、インタラクションデザイナーとはなんで、その職業がゲームデザインにどのような影響を及ぼしたか教えて下さい。

まず2014年7月に、前職を辞めて専業ボードゲームデザイナーとなったことを報告させて下さい。インタラクションデザイナー、ユーザーエクスペリエンスデザイナー、というのは過去の職名ですね。基本的には人々の体験を形作る仕事です……ゲームデザインで行っていることとまったく同じです。この仕事で使っていた技術はほとんどそのままゲームデザインで使うことができます。ヴィジュアルデザイン・執筆・簡単なプロトタイプ作成・心理学・ちょっとしたリサーチ方法などの幅広い技術と知識を含む仕事ですよ。

Q: パンデミックのゲームの中では、伝染病が急速に広まりますが、これは感染カードのメカニクスがうまく機能して、目の前の感染状態に対処することと長期的な治療対策の間のせめぎ合いに繋がっていると思います。このようなデザインに至った経緯、どのようにしてバランスを取ったのか、またこのシステムがゲームをどのように形作っているのか、について教えて下さい。

仰るようにプレイヤーは、4つの伝染病の治療法を発見するという長期的な目標と、各地域の危機的状況に対処するという短期的な目標の間でバランスを取る必要があります。常に戦略目標と戦術目標のせめぎ合いがある、ということですね。戦術目標は1人で対処できることも多いですが、戦略目標にはプレイヤー間の協調が必要です。短期的な目標に気を取られて敗北することも少なくありません。ゲームのデザインには3年程掛かりました。しかし、移動や研究、治療に関する基本的なメカニズムは最初のスケッチの段階でできあがっていました。数多くの、多様なプレイテスターが何度も何度もテストプレイすることでバランスを取ったのです。ゲームエンジンは統計的なモデルで作られたわけではありません。表計算ソフトでデザインされたのではないのですよ。(下図はパンデミックのプロトタイプスケッチ)

Q: あなたのゲームは創発的なシステムを持っていると仰っていますが、これはビデオゲームで(特にWorld of WarcraftEve OnlineのようなMMOにおいて)広まってきているアイデアです。なぜ創発性が大事だと思っているのですか?創発性はボードゲームとビデオゲームで異なる働きをすると思いますか?

Jesse Schellは著書”The Art of Game Design”の中で、良いゲームとは「物語を生み出す機械(Story making machines)」であると示唆しています。私はそれを造り出したいのです。もしいくつもの物語が(ゲームから)有機的に紡ぎ出されて、もしプレイヤーがゲームに誘導されることなくゲーム中に発生するイベントの数々を(それら自体が物語るような形で)自分たちで組み合わせていくことができれば、ゲームからもっと多くのものが引き出せるのではないかと思っています。【訳注:ざっくりと訳すと「ゲーム自体が物語の要素を含んでおり、ゲームからの押しつけでなくプレイヤー主導でこうした要素を組み合わせて物語を紡ぐことができれば、より深い体験が得られるだろう」くらいの意味だと思います】
こうしたコンセプトの中心となる部分が、ボードゲームとコンピューターゲームでどれほど違うのかはよくわかりませんが、人間のプレイヤーが手作業でやるよりもコンピューターの方がはるかに多くの情報をずっと複雑な手順で扱うことができるという違いはあるでしょうね。とはいえ、必ずしもこれがコンピューターの決定的な利点だとは思いません。プレイヤーの頭の中で展開されることこそがゲームの面白さなのです。もしコンピューターがすべて考えてしまうのであれば、プレイヤーは何をするのでしょう?コンピューターは、素晴らしく臨場感のある映画のような体験を生み出すことはできますが、だからといってそれが意味のある決断に繋がるわけではないのです。

 Q: 以前あなたは集団思考の重要性について言及されていましたが、協力型ゲームにおいて1人のプレイヤーが集団をコントロールしてしまう問題についてはどのように対処しているのでしょうか?

それはインチキをするプレイヤーにどう対処するか、という質問に似ています。そうしたことに対処する方法はありますが(例えば、インチキする人に対してはすべてのコンポーネントが誰からでも見えるようにしておく、とか)、完全な協力型ゲームにおいて完璧な解決をするのは難しいのです。私にできる一番のアドバイスは、会話を支配することのないような人と遊ぶようにすること、ですね。この問題はこれからデザイン的な注目を集めるだろうと思います。様々な協力型ボードゲームが、裏切り者の要素や、リアルタイム要素、秘匿情報などを導入してこの問題に対処していますが、こうした試みを見るのは楽しいですね。
禁断の砂漠では、各プレイヤーが自分で管理すべき水筒という要素と、所持しているプレイヤーのみが使用できる装備品という要素を導入しました。両者はプレイヤーの自主性と個性を強めてくれます。しかしこれは本質的には人間の問題で、デザイナーが完全に排除しようとする必要があるのか私にはわかりません。私たちは(プレイヤーとして)他のプレイヤーに会話に参加する機会を与えることを考えるべきだと思います。ゲームに必要なちょっとしたスポーツマンシップですね。

Q: もうすぐパンデミックのダイス版である新作Pandemic: The Cureが発売されますが、このゲームをデザインした目的は何ですか?パンデミックとはどこが違うのでしょうか?

パンデミックより更に遊びやすいゲームを作りたかったのです。プレイ時間と準備時間を短くし、理解しやすく、それでいてパンデミックと同じようなプレイ感と緊張感を持ったゲームです。Pandemic: The Cureの準備時間はおよそ1分、30分以内で遊べて、初めての人に協力型ゲームを教えるのに最適なゲームです。Pandemic: The Cureにはパンデミックと同じくらいの緊張感があり、同じくらいの決断を必要としますが、少し軽くてより直接的ですね。ダイスのおかげで運試し(Press your luck)のメカニズムがあります。ダイスを振った結果に「もう十分満足」なのか、あるいはエピデミックを引き起こすリスクを負ってでもより良い結果を望むのか、という問いをプレイヤーに投げかけるのですね。

Q: 先日UKゲームエキスポにゲストスピーカーとして参加されたわけですが、イベントについての感想と、Pandemic: The Cureへの反応をお聞かせ下さい。

UKゲームエキスポは素晴らしかったですよ。私が参加した2つのセミナーは良い進行で参加している人との会話を楽しみました。Pandemic: The Cureもよく受け止めて貰えたようです。ゲームエリアで何度も遊ばれていました。

Q: 禁断の島禁断の砂漠は、より若い人を対象にした協力型ゲームですが、パンデミックで学んだことをどのようにこれらの作品に活かしたのでしょうか?

禁断の島をデザインする時に私が考えていたのは、子供にもその親にも同じように魅力的になるような、より遊びやすい協力型ゲームを作ることでした。例えば私の娘は、パンデミックの病気というテーマは嫌いですが、宝探しのテーマなら(特に宝物が良くできている場合には!)まったく問題ありません。準備が簡単になるようにも気をつけました。パンデミックのように複雑な山札の組み方を子供にさせることは難しいとわかっていたので、単純にシャッフルするだけで準備ができるようにしたのです。最後に、ゲームが終わる時に収束する感じを上手く出せるようにしました。プレイヤーは4つの宝物を見つけたら、ヘリポートへと移動して飛び立てば勝利となるのです。
禁断の砂漠は、禁断の島を遊んだ後により難しいゲームを探している人達を対象にしています。禁断の砂漠では積み上がる砂、迫り来る時間、尽きていく水と戦わなくてはなりません。私自身としては、禁断の砂漠パンデミックより更に難しいと思っています。英雄・伝説レベルの難易度では、役職の能力と装備品の効果を最大限に活用しなくてはいけません。かなり頭を使いますよ。

Q: 今取り組んでいるゲームについて、お聞かせいただけることがあれば教えて下さい。

今はPandemic Legacy/パンデミック・レガシー(発売日未発表)とThunderbirds/サンダーバードの2つに取り組んでいます。他にもいくつか未発表のプロジェクトがありますね。パンデミック・レガシーRisk Legacy/リスク・レガシーのRob Daviauとの共同プロジェクトです。私はリスク・レガシーの大ファンで、Robにパンデミックシリーズのレガシー版を一緒に作る気はないか尋ねたのです。以降一緒に働いています。まだ公開されている情報はあまりありませんが、地球の危機的な一年を遊ぶゲームで、ゲームを通じてキャラクターと世界が変化していくものになるのです。
サンダーバードはMōdiphiüs Entertainmentのゲームとしてデザインしているもので、同名の60年代のテレビ番組をテーマにした協力型ゲームです。2065年を舞台にして、人類を救う秘密機関である国際救助隊の活躍を描くゲームです。ゲームには国際救助隊のメカが含まれて、プレイヤーは国際救助隊の一員になったような体験ができるでしょう。2015年秋にサンダーバード50周年を記念して発売される予定です。サンダーバードをよく知っている人にも、初めて見る人にも楽しめると思いますよ。

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EL-CO

ゲームに関することを書いています。まだまだ試行錯誤中なのでコメントなど頂ければありがたいです。
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