ゲームデザイナーインタビュー:Matt Leacock その2

Cardboard Edisonに掲載されたMatt Leacock氏へのインタビュー。Forbidden Desertの話がメインです。元記事へのリンクはこちら(Meaningful Decisions: Matt Leacock)。翻訳転載を快く承諾して下さったCardboard EdisonとLeacok氏にこの場を借りて御礼申し上げます。

話題は主にForbidden Desert/禁断の砂漠のデザインについてです。禁断の砂漠も発売からおよそ1年が過ぎて評価も定まってきた感がありますが、昨年、発売前に行われたインタビュー(和訳記事はこちら)と比較して読むとまた面白いのではないでしょうか。


Meaningful Decisions(意味のある決断)シリーズでは、ゲームデザイナーに、ゲームをデザインする際になされた選択について質問し、そこから得られる教訓を聞いています。

今回は、Pandemic/パンデミックForbidden Island/禁断の島とその続編であるForbiddenDesert/禁断の砂漠などの協力型ゲームのデザイナーであるMatt Leacock氏に、ゲームの要素を再利用すること、“人工知能”の作り方、プレイヤー固有の能力や弱点について、などについて尋ねています。

Q: 禁断の砂漠禁断の島の続編で、前作の構造をいくつか使っていますね。その上でただの焼き直しにならないように新たなメカニズムも加えています。Rewarking(作り直し)とRehasing(焼き直し)の違いはどこにあるのでしょう?メカニズムを共有している2つのゲームが、似すぎている、あるいは十分に違うということをどのように判断するのでしょうか?

私はForbiddenシリーズのゲームが、冒険ものシリーズの異なるエピソードのようになることを考えていました。ですから禁断の砂漠を作る際には、いくつか構造的な部分を変えずに残しておきたいと思ったのです。共通の目的を持ち、それぞれの役職が協力して限られたアクションを使う、という構造をプレイヤーが期待しているだろうと考えました。一方で私は独自の要素を加えて別の新しいゲームを作りたかったのです。

禁断の島に変化を加えて禁断の砂漠をデザインするのは楽しいものでした。変化のいくつかは逆転でした。禁断の島では、水が多すぎて溺れることになりますが、禁断の砂漠では喉の渇きが危険をもたらします。禁断の島では、プレイヤーの周囲の島が徐々に消えていきますが、禁断の砂漠では砂が周囲に積み上がってプレイヤーを生き埋めにしてしまいます。禁断の島を着替えさせるのではなく、そこに含まれる要素やコンセプトを取り出して捻りを加えて新しいものにしたのです。

禁断の砂漠のデザインを始めた時から、このやり方は私にはっきり見えていました。私は新しいゲームを創りたかったのです。いくつかの要素(プレイヤーのコマ、役職、アクションポイントシステム、カードを使って脅威を表現するシステム)をそのまま使うことで、プレイヤーに馴染みのあるゲームとなり、すぐに遊ぶことができるようになります。それ以外の要素に変化を加えることによって、プレイヤーが新しいものを遊んでいることがわかるようにしました。ゲームのテストプレイの間、2つのゲームがはっきり違うかどうか(そして2つのゲームを両方持っていたいと思うかどうか)を何度も尋ねました。答えはいつも肯定的なものでした。

Q:禁断の砂漠ではカードデッキによって砂嵐の移動が決定されますね。プレイヤーに牙をむく、ちょっとした“人工知能”のようです。パンデミック禁断の島における場所カードよりもシンプルですが、このようなAI―プレイヤーにとって扱いやすいシステムでありながら挑戦し甲斐のある障害であり、まったく予想が付かないわけではないけれど完全に予測可能ではないようなAI―をデザインすることでなにか学んだことはありますか?

バランスを取るのが大変だということを学びましたよ!禁断の砂漠が、異なる人数で、異なる役職の組み合わせで、異なる難易度で、常に勝利できるゲームであることを確かめるためには、大変な回数のテストプレイが必要でした。何百回もプレイしました(その結果私は非常に上手くなりました)。ついでながら、初めて遊ぶ方には一番簡単な難易度から始めることをお勧めします。学ぶことはたくさんありますからね。

私は洗練された創発的なシステムを目指したのです。単純な手続きから様々な複雑な問題を生み出すようなゲームです。仮想される相手がターン中に行うことを決めるために、プレイヤー達がたくさんの手順を踏まなくてはいけないような状況にはしたくなかったのです。今のところ、私はダイスとカードによって動くAIを想定しています。ダイスとカードは馴染みがあってわかりやすいですからね。カードに仕込まれた手順と、デッキに含まれるカードの適切な比率がコツです。

プレイヤーに対して適切な難易度の安定した障害を提示すること自体、なかなか難しいことです。しかし、より難しいのは切迫感を演出し、仮想敵に対する希望と恐怖の波を作り出すことです。私はゲーム体験を平板なものにしたくはありませんし(どんどん磨り潰されるような気持ちになるだけでしょう)、一定のペースで難易度が上がっていくようなものにもしたくありません。そうではなくて、私は、良い物語がそうであるように、緊張感を上下させてゲームに引きこむようにしたいのです。

しかし私は、そうするための銀の弾丸を持っているわけではありません。今まで既存のゲームを拡張する際には、運良く自分の以前の作品を改善することができました。しかし新しいゲームをデザインする際には、他の誰もと同じように、毎回白紙を見つめて、席に着き、プレイし、経験し、新しいことを試し、改良するのです。

Q: 禁断の砂漠では、砂嵐メーターが上昇する、砂タイルがすべて使われる、誰かの水がなくなる、と負け方が複数あります。その結果、プレイヤーは様々な方面から身を守らなければなりません。こうした「脅威のベクトル」の数がいくつあるのが適切なのか、どうやって決めたのでしょうか?多すぎたり少なすぎたりするとどうなってしまうのでしょうか。

ああ、単純なゲームであれば脅威のベクトルは1つで十分だと思いますよ。複数の脅威を使うことで45分のプレイ時間を通してプレイヤーがより集中するようになるので、私の今までのゲームには適切だったのです。脅威の数が少なすぎれば、ゲームは単純で平板に感じられるでしょう。多すぎると、プレイヤーの処理能力をオーバーしたり、混乱させたりしてしまう危険性が出てきます。

これに関連したことですが、ゲームの終了条件は、時に難しいゲームデザイン上の問題を解決してくれることがあります。例えば、パンデミックでは、私はトークンやカードを使い切った時にどうすればいいか悩んでいました。単純な「そうした場合、プレイヤーは敗北する」というルールを導入することでこの問題は解決しました。これはゲーム中に起こりうることでもあるので、緊張感を上昇させる良い方法でもありました。

デザインの問題に対する答えでもありますが、これら以外の敗北条件を加えた(そして取りやめた)こともあります。例えば、禁断の砂漠では、一時「飛行船の部品が砂嵐の真ん中に現れた場合敗北する」というルールがありました。テストプレイの結果、こうした負け方をするとプレイヤーは常になにかズルをされたように感じることがわかったため、私はこのルールをすぐに取り除きました。あの時点ではそれが状況をわかりやすく表現する方法だったのですが。

Q: 禁断の砂漠では、それぞれのプレイヤーに固有の能力だけではなく、固有の弱点が設定されていますね。つまり、一部のキャラクターは水の量が少なくなっているということですが。こうした弱点を設定した理由はなんですか?固有の弱点は固有の能力と同じように機能するのですか?

一部の能力は、他の能力よりも少し強力だったので、水の量を調整してバランスを取ったのです。キャラクターの個性を強くする役にも立ちました。エンジニアであれば、毎ターンたくさんの砂を除去できて非常に強力だと感じるでしょう。一方でプレイヤーは自分のアキレスの踵を理解していなければいけません。砂嵐カードが一巡する間に水不足で死んでしまうことも起こりうるのです。

禁断の砂漠におけるキャラクター固有の能力は、(小さな)固有の弱点よりもはるかにプレイヤーの行動に影響を及ぼします。水の量を見て特定のキャラクターを選ぶプレイヤーに遭遇したことはほとんどありません。多くのプレイヤーはキャラクターの能力に注目しています。

より大きな固有の弱点については、今後のゲームで検討すると面白いポイントかもしれません。私は大抵、(初めて見た)プレイヤーにバランスが壊れているのではないかと思うくらいに固有の能力を素晴らしいものにしようとしています。その上で、強力な能力に相応しい難易度になるようにゲームを難しくして、それぞれの役職がどれも魅力的に見えるようにしています。もしかしたら次のゲームでは、固有の弱点を加えることで能力を更に強力にできるかもしれませんね。

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