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5年度 予備試験 刑法再現

第1 設問1

1 甲が山小屋の出入口扉を外側からロープで縛った行為に監禁罪(刑法220条。以下、法名を略す)が成立するか。

2 「監禁」とは、人が一定の区画された場所から脱出することを不可能ないし著しく困難にすることをいう。窓も出入口扉以外の出口がない山小屋の出入口を外側からロープできつく縛る行為は、Xが山小屋という一定の区画された場所から脱出することを困難にするから「監禁」に当たるとも思える。

しかし、甲が5時5分に出入口扉を縛ってから6時に解くまでの間、Xは熟睡しており、自身が監禁されているという意識がない。この場合でも「監禁」にあたるか。

3(1)監禁罪の保護法益は人の身体の移動の自由である。この自由をどう解するかで被害者に監禁の意識が必要かが異なる。

(2)人の身体の移動の自由を、人が現実に移動しようと思った時に移動する自由と解する考えがある(現実的自由説)。この考えに立った場合、被害者に監禁の意識は必要である。

(3)人の身体の移動の自由を、人が移動しようと思えば移動できる自由と解する考えがある(可能的自由説)。この考えにたったっ場合、被害者に監禁の意識は不要である。

(4)現実的移動説は、監禁されているという意識を持ちえない心神喪失者や赤子に対して監禁罪が成立しなくなる点で妥当でない。そこで、可能的自由説が妥当と考える。

(5)したがって、甲の行為は「監禁」にあたる。

4 甲は、小屋周辺を下見する間にXが逃げないように上記行為を行っているから、故意(38条1項)が認められる。

5 よって、甲の行為に監禁罪が成立する。

第2 設問2

1(1)甲の、Xの首を両手で強く締めた行為に殺人罪(199条)が成立するか。

(2)人の首という人体の枢要部を両手で強く締める行為は人の窒息死の結果を惹起する危険がある行為だから殺人罪の実行行為にあたる。そして、Xは死亡している。

(3)ア もっとも、Xが死亡したのは甲の首絞め行為による窒息死ではなく、その後に甲がXを崖下に落としたことによる転落死である。この場合にも甲の首絞め行為とXの死の結果に因果関係が認められるか。いわゆる遅すぎた構成要件の実現が問題となる。

イ 因果関係は行為の危険を結果に帰属できるかという問題だから、条件関係を前提に行為の危険が結果に現実化したと認められる場合に因果関係が認められると解する。高いと結果の間に介在事情がある場合は、その介在事情の異常性を考慮する。

ウ 甲がXの首を締めて意識を失わせなければ、甲がXを容易に崖下に落とすこともできなかったから、条件関係は認められる。また、人の首を両手で強く締める行為はそれ自体人の死の結果を招く危険性を有する。殺した人間を転落死に見せかけるために崖下に落とす行為はそれほど異常とはいえない。したがって、甲の行為の危険がXのしの結果に現実化したといえ、因果関係が認められる。

(4)ア 甲は、Xを死亡させることの認識・認容がある。しかし、甲は首絞めでXを殺そうと思っていたのに実際には崖下に落としたことで死亡させている。因果関係の錯誤があり、故意が阻却されないか。

イ 因果関係は構成要件要素にすぎないから、認識した因果経過と実際の因果経過がどちらも法的因果関係の枠内にあれば故意は阻却されないと解する。

ウ 人の首を絞めて窒息死させる行為と人を崖下に落として転落死させる行為はどちらも殺人罪の法的因果関係の枠内にある。したがって、故意は阻却されない。

(5)従って、甲の行為に殺人罪が成立する。

2(1)甲の、Xを死体遺棄の目的で崖下に落とした行為に死体遺棄罪(190条)が成立しないか。

(2)Xはこの時点で生きているため、「死体」に当たらない。また、殺人罪と死体遺棄罪の保護法益は人の生命と死者への敬虔感情で異なるから、法定的符合説における故意の重なり合いが認められない。そのため、甲の行為に死体遺棄罪は成立しない。

(3)もっとも、甲はXが死んだと軽信しているから、甲の行為に重過失致死罪(210条)が成立する。

3(1)甲の、眠っているXのポケットから携帯電話を取り出して殺害場所から6キロメートル離れた場所に捨てた行為に窃盗罪(235条)もしくは器物損壊罪(261条)が成立するか。

(2)窃盗罪と器物損壊罪の区別は不法領得の意思の有無による。甲は、携帯電話のGPS機能によって甲の死体が発見されるのをおそれて携帯を投棄しており、携帯電話それ自体から経済的効用を得る意図がないから利用処分意思が認められない。それゆえ、甲に窃盗罪は成立しえない。

(3)携帯電話はXの所有物であり、「他人の財物」にあたる。甲は、GPS機能付きの携帯電話を投棄することで所有者Xの位置情報を分からなくしているから物の効用を害したといえ「損壊」したといえる。

(4)甲には故意がある。

(5)したがって、甲の行為には器物損壊罪が成立する。

4(1)甲の、Xの財布から3万円を抜き取って自分のズボンのポケットに入れた行為について窃盗罪が成立するか。

(2)3万円はXの所有物であり、「他人の財物」にあたる。また、甲は3万円をXの意思に反して占有を自己に移転させているから「窃取」したといえる。

(3)ア しかし、甲はこの時点でXが死亡していると勘違いしているから、占有離脱物横領罪(254条)の故意しか認められないのではないか。

イ 死者に占有は認められないのが原則である。しかし、殺人犯との関係では、殺害と窃取の時間的場所的接着性を考慮して、死者の生前の占有が保護されると解する。

ウ 甲は、Xの殺害現場のすぐ、そこで3万円を窃取しているから時間的場所的接着性が認められ窃盗罪の故意が認められる。

(4)したがって、甲の行為に窃盗罪が成立する。

5 以上より、甲の行為に①殺人罪②重過失致死材③窃盗罪④器物損壊罪が成立し、①②は包括一罪、その他は併合罪(45条)となる。

以上

自己評価…B
〇満遍なく論点に触れられた。特に、遅すぎた構成要件の実現はきちんとかけた。
‪✕‬構成要件を冒頭に示さなかったのはよくなかった。窃盗罪の論じ方がよくわからなかった。

大きなミスはないと思うが、みんなこれくらい書いてくるだろうしAは無理だろう。

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