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GRAPEVINEを“科学”する-vol.1 フェーズ分け-

今回は、GRAPEVINEの作品をフェーズ分けしていこうと思う。

バンド結成は1993年。その4年後、1997年にメジャーデビュー。キャリアとしては、今年で22年目になるベテランバンドだ。これまでリリースしてきた主な作品は以下の通り。

1997/09/19  1stミニアルバム『覚醒』
1998/05/20  1stアルバム『退屈の花』
1999/05/01  2ndアルバム『Lifetime』
2000/03/15  3rdアルバム『Here』
2001/08/01  4thアルバム『Circulator』
2002/11/20  5thアルバム『another sky』
2003/09/18  compilation『OUTCAST~B-SIDES+RARITIES~』
2003/12/03  6thアルバム『イデアの水槽』
2004/11/17  2ndミニアルバム『Everyman,everywhere』
2005/08/24  7thアルバム『déraciné』
2007/03/07  8thアルバム『From a smalltown』
2008/06/18  9thアルバム『Sing』
2009/07/15  10thアルバム『TWANGS』
2011/01/19  11thアルバム『真昼のストレンジランド』
2012/02/15  3rdミニアルバム『MISOGI EP』
2013/04/24  12thアルバム『愚かな者の語ること』
2015/01/28  13thアルバム『Burning tree』
2016/02/03  14thアルバム『BABEL,BABEL』
2017/09/06  15thアルバム『ROADSIDE PROPHET』
2019/02/06  16thアルバム『ALL THE LIGHT』

ベストアルバム、ライブアライブ、コラボアルバムも発売しているが、今回の「GRAPEVINEを“科学”する」という主旨に沿って、関連のありそうな作品だけに絞った。

フルアルバム16枚、ミニアルバム3枚。これだけ長く活動していれば、作品はもちろん、いくつかのフェーズに分かれる。

“初期”は言わずもがな、バンド最高位となるオリコン初登場3位を獲得した2ndアルバム『Lifetime』前後だろう。「初期が好きでした」という声に遭遇したことがないファンはいないはずだ。そして、田中さん自身、会報でこう言っていたそうだ。

私はこの会報の実物を持っていないのだが、ネットで検索してみると2008年発行らしい(間違っていたらごめんなさい)。ちなみに2008年は『Sing』が発売された年。この時期にはすでに、中期以降に入っているということになるのだが、GRAPEVINEの中期はいつからなのだろう? それ以降は?

わかりやすいヒットとブレイクがあったため、“初期”はなんとなく共通認識がある。しかし、それ以降は明確な答えがない。ネットで調べてみると、個人でブログを書いている方が、

初期:『覚醒』~『Here』
中期:『Circulator』~『Sing』
後期:『TWANGS』~

と書いていた。すごくわかる。『Here』からグラデーションし、『Circulator』で色濃くなった混沌と危うさ。メロディアスでアンビエントな『Sing』から一変、エッジ―でアグレッシブになった『TWANGS』。バンドの側面から見たとき、この分け方は非常によくわかる。

一方で、田中さんの歌詞から見たときは、また別の分け方になってくるのではないかと思う。私が思う分け方はこれだ。

第1フェーズ
テーマ:他者との関係の構築

作 品:『覚醒』~『イデアの水槽』

第2フェーズ
テーマ:自己と内省

作 品:『Everyman,everywhere』~『TWANGS』

第3フェーズ
テーマ:諦念と肯定、人生

作 品:『真昼のストレンジランド』~『ROADSIDE PROPHET』

この分け方をしたときに、ヒントとしたのは歌詞と、田中さん自身の年表だ。そこで一番重要になってくるのは、息子さんが生まれた時期なのではないかと思う。

他者(ここでは主に女性、恋人)との関係を歌ってきた第1フェーズを経て、田中さんは第2フェーズに入る。ここでは名曲”少年”を筆頭に、子どもの視点――もっと言うと、田中さんが息子さんに自分の幼少期を投影し、子ども目線に返って薄暗い未来を見やるような歌詞が紡がれている。

実際、田中さんはインタビューでこのように語っている。

「特に(子どもが)男の子だと、自分も2度生き直してるような気分になるみたいに言われるじゃないですか。(中略)その子どもを通してね、自分の育ってきた環境だったり幼少期のことを見つめ直したりするようなことも多いです」
――『ROCKIN’ON JAPAN』(Vol.448)より
「子どもを通して、自分の少年時代とかをよく思うんです。(中略)非常に言葉にしにくい悲しい気分というのがちょっと出てる」
――『音楽と人』(2015年2月号)より
(個人的な歌詞を書いたことについて)「自分に子どもができたってところもあるかもしれないですね。自分の俯瞰を助けてくれますから」
――スペシャル・ブック『風の跡』より

このような発言から、子どもの誕生がGRAPEVINEのフェーズを分けるのは間違いない。では、子どもはいつ誕生したのか。

プライベートの部分なので、詳細は明かされていないようだ。なので、推測してみる。

田中さんには少なくとも、長女・長男がいるようだ。長女は、雑誌『ecocolo』(2007年9月号)内の企画に、田中さんと一緒に出たことがある。

長女はこのとき、7~10歳くらいなのではないかと思う。2007年時点で7~10歳であれば、1997~2000年ごろに誕生したということになる。作品的にはデビュー作『覚醒』~『Here』。

デビュー前に息子が生まれたとは少し考えづらいので、順番的には、長女→長男だと考えられる。なので、長男が誕生したのは2000年代前半が濃厚だ。

一方で、田中さんが『ROCKIN’ON JAPAN』(Vol.179)の2万字インタビューで、こんなことを語っている。

「小学校に行くために幼稚園の山のほうから(大阪市)中央区へ引っ越してきて。小学校に行き出すんですけど、とある事情で母親がいなくなるんですね。兄貴と二人暮らしっていうのがしばらく続くんですよ」

この時点で、田中さんの父親は蒸発している。そのため田中さんは、当時17~18歳のお兄さんと、本当に2人だけで暮らした時期があった。まるで映画『誰も知らない』のように。

「(兄貴は)高校には行かず、母親もいなくなってしまったために、日雇いのバイトとかで俺を食わすんですよ、とりあえず」

田中さんが、息子さんに当時の自分を重ねるとするならば、息子さんが幼児~学童期になったあたりが自然だろう。となると、それは2000年代半ば~後半になる。

この時期に発売されたのが『Everyman,everywhere』『déraciné』『From a smalltown』といった作品だ。それぞれ“スイマー”、“少年”、“smalltown,superhero”といった特徴的な作品が収録されており、田中さんはスペシャル・ブック『風の跡』のなかで以下のように語っている。

(スイマーについて)「主人公は男の子(中略)長男が生まれてしばらくして、それを見て『よし、水泳部でいこう!』となんとなく思ったんです………(照)」
(少年について)「これはすごく………僕なので。ちょっと個人的すぎるかなと思って書いてましたよ。これを書いたんで、この先こういうテイストのものをあまり書けなくなってしまいましたね。ここまで書いてしまったんで……その後“smalltown,superhero”はできてるんですけど、あれはもうちょっとソフトというか」

『Everyman,everywhere』から本格的に始まった第2フェーズ。そこから“抜けた”感覚があるのは『真昼のストレンジランド』なのではないか。

その前作は、GRAPEVINE史上もっともロックだともいえる盤『TWANGS』だが、バンドの圧倒的なグルーヴとサウンドの奥にはこんな世界観が埋められている。

手にまだ振動が残ってる
これ以上の寂しさが歌えるか
ただ力が
俺に力があれば
――”TWANGS”より

“自己”を超越することは、とても骨の折れる戦いだ。それをせずに生きていけないのに、その戦いのなかで深みにはまり、命を落としてしまう人も、私はいると思う。

『TWANGS』全体の世界観には、そんな戦いの果ての、ほの暗さと疲労のようなものが滲んでいる。《時計の針に勝てる気がしたのに》勝てなかったきみの睫毛(小宇宙)、《この手に残る/あの魔法があれば》と願うが、何も残っていない空っぽの手(TWANGS)……。疾走感あるロックサウンドで分厚くコーティングされているので非常にわかりづらいが、世界観としては、「つらい」「悲しい」という自意識としての感情ではなく、魂それ自体が疲弊しているような印象だ。

そこから『真昼のストレンジランド』である。

でかい当たりを掴んでしまった
世界を変えてしまうかもしれない

無い知恵しぼった挙句に言った
雨なんて降るはずがない

――”真昼の子供たち”より

言葉も音も抜けきっている。田中さんの歌声も優しい。まだ《かもしれない》ものばかりで、《無い知恵しぼった》末じゃないと《雨なんて降るはずがない》と言えないけれど、ポップで、キラキラしている。

ここからGRAPEVINEは第3フェーズに入る。そこでは、田中さんは人生や諦念と向き合っていくが、そこには、疲弊感や危うさはなく、カラッとしていて、真摯に生きることを歌っている。

長くなったが、以上がGRAPEVINEのフェーズ分けと、その理由である。

次からは、テキストマイニングツールなども使い、それぞれの時期を詳しく見ていこうと思う。とは言え、第2フェーズについては今回結構書いてしまったかもしれないが……。

また、田中さんの生い立ちについてもいずれまとめたいと思う。最近久々に2万字インタビューを読み返して、新たな発見などもあったためだ。

とは言え、実は私は初期からのファンではない(私は1988年生まれなので、名盤『Lifetime』が発売されたときはまだ11歳だった。GRAPEVINEを好きになったのは高校時代、『déraciné』のタイミングだった)。そのため、初期の情報は少なく、私より詳しい人は本当にたくさんいると思う。

なので、抜けも多いと思いますが、そこは大目に見てください。引き続きよろしくお願いいたします。

P.S. 2000年ごろに娘さんが生まれたとしたら、今頃20歳前後になっているということか……。息子さんは高校生くらい? そんな大きなお子さんがいるとは思えない、田中パパ……。

#GRAPEVINE