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GRAPEVINEを“科学”する-vol.3 第1フェーズ:他者との関係の構築-

だいぶ期間が開いてしまいましたが、田中さんの歌詞を分析していきます。テキストマイニングツールの説明については、こちらの回をご覧ください。

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第1フェーズ
テーマ:他者との関係の構築
作 品:『覚醒』(1997)~『イデアの水槽』(2003)

【ワードクラウド】

「君」「わかる」が中央に大きく表示されている。この2つのワードは全体のデータで見たときと同じ位置にある。

じゃあ、「君」のことが「わかる」のかと言えばそうではない。「わかる」は、主語によってこのように分かれる特徴がある。

・僕は「わからない」
・君は「わかっている(ように見える)」
・2人は「(まだ)わからない」

それが特徴的なのが“Lifework”だ。

ずっと探しつづけた
言葉はもうありがたくねえなあ
リスクは見えるが どうしたいのかなど
わかるものか見つかるものか
(中略)
あてのない宇宙 たった二人さ
できるだけ仲良くしなきゃ
わかった様な顔 わからない心の中
――” Lifework”より

この先いろいろあるであろう2人の未来は「わかるものか」。君は「わかった様な」顔をしているけれど、そんな君の心の中を僕は「わからない」。

僕は基本的に、君のこと、君との関係、君との行く先は「わからない」のである。

その「君」に共起されるキーワードはこちらだ。

君は嫌になる程「遠い」し(遠くの君へ)、僕は君を「待つ」し(君を待つ間)、君は「何処」かで僕を見つめているような気がする(愁眠)。常に隣に寄り添う理解者ではなく、僕にとっては「わからない」、それゆえに焦がれる存在。それが「君」なのだ。

そして、「見る」「見える」という動詞もあるが、結局、僕は「君」のことがわからないので、助けてあげることも慰めてあげることも、手を引いてあげることもできない。また、そういった選択肢を選び取れるだけの自信がないため、《光にさらされてゆくこの世界の中 君を見ていられた》(光について)など、ただ「見る」ことしかできない。

“光について”は《僕らはまだここにあるさ》と終わるが、この文の主語は「僕ら」ではなく実は「僕」で、「僕は、僕らはまだここにあると信じている」ということだから、結局僕は2人のことについてもわからずじまいなのである。

【単語出現頻度】
●名詞

「君」と「僕」、「二人」の関係性を歌っているので、それらが多いのは予想通り。ほかの単語について見てみよう。

「夢」は、基本的には「君」との時間や関係だ。そこには、良いことが現実化することを願う一方で、不確かさ、儚さ、そして現実離れした甘美さのようなものさえある。

君の事を想って そして叶わぬだと知ってしまった
「もういいよ」と独りごちた
――“覚醒”より

みたいな でもない様な日を過ごしてく
無駄に身を重ねたって 残ってく物むなしさなんて
君はずっといつかの空の色 見とれてた
――“そら”より

ただ、それが睡眠時に見る夢になると、切迫した現実性のようなものが出てくるようだ。

柔らかな手を放されて泣く
生まれたこの気持はどこに埋めよう
――“here”より

「空」は、時間の経過を表す。特に、「君」と「僕」に関する時間だ。

瞼の裏の鮮やかな色
ふと見ました 季節がかわる
――“それでも”より

歩き回って 探していたが
見つけたものは いつものだったんだ
――“会いにいく”より

「愛」は、基本的には現時点ではわからないもの、手に入っていないものだ。

優しくなれたらを誓おう
――“Lifework”より

本当はこういう事を見ていたんだな
おおよそ
いっぱいのを信じていたんだ ねえ
――“その日、三十度以上”より

「愛」は、《救うはずない》(永遠の隙間)ものだったり、《バカにしていられた》(スロウ)ものだったりもするが、自分にとって確証があったり、コントローラブルなものではない。

●動詞

「わかる」や「見る」は前述、「ゆく」は以前書いたこちらの記事を参照してほしい。「流れる」は、時間、日、雲など、「君」との日々の経過を指すものが多い。

●形容詞

「遠い」のは前述の通り「君」、あるいは「君」との時間の経過を表す「空」など。

まだ紹介していないが、第2フェーズと比較してみると、第1フェーズ特有の形容詞が浮かび上がる。それは「若い」「悪い」だ。

「若い」は、「君」(と僕)の青さ、「悪い」は、若さゆえの開き直りのようなものを表す。

また君はそっと暮らすのさ
あまりに若くあまりに身勝手
永遠の隙間だって 二つと無い
愛は救うはずない 独りきり味わうんだ
――“永遠の隙間”より

みっともないよね
買被らせて悪かった
――”鳥”より

これらのワードの関係性を表すのがこちらの図だ。

【共起キーワード】

第1フェーズは、総じて「君」と「僕」のことを歌っている。しかし、その関係性は安定しているものではない。「僕」は「君」を信頼しきっているわけではなく、わからなくて、見ているだけしかできなくて、それゆえ、恋人なのに「遠い」「待つ」対象なのだ。

実際に、『音楽と人』2001年9月号ではこのように語っている。

《君》っていう存在もね、すごく他人行儀というか。あからさまに《君》の存在をまだ信じ切れてない

最初彼女と付き合いだしたときは、結局は手放しで信じれてなかったわけですよ。だから“遠くの君へ”が生まれたり“Lifework”が生まれたり(中略)間違いなく力強いものを手に入れた気はしてるんだが、「これに乗っかっていいのか?」みたいな気持ちもありつつ

当時の田中さんのこのような姿勢には、少年期の母親のあり方が大きく関わっているように思う。

少年期に母親が失踪し、発達心理学でいう「安全基地(Secure Base)」を確保できなかったと考えられる田中さん(「安全基地」についてはまた別記事で詳しく書く)。安全基地を持たずに育つと、その後の人間関係などに影響が出る場合があり、田中さんはそのうちのひとつ「回避型愛着タイプ」だと考えられる。

回避愛着型には、このような特徴がある。

① 情動的な強い感情を抑えるのが得意
② クールでドライな印象を与えることも多いが、そうすることで傷つくことから自分を守っている
③ 相手との絆を何としても守ろうとする意志や力に乏しい

「君」という他人行儀な表現はまさに①だし、「君」との愛に乗っかっていいのかどうか量ってしまうのは②の自己防衛だし、そのような状態で他者と深い関係を構築したことがないため、信じ切れず③のような姿勢になってしまうのだろう。

ただ、そんな不安定な関係性を経て、『Here』の手ごたえについては、こう語っている。

「あ、なるほどね。ジョン・レノンもこういうことを唄ってたのかも……」みたいなことにやっと気づいたというか

信じてみたり、信じるのが怖くなったり、自分を守ったり、それでも遠くから思ったりするというトライアルを経て、他者との関係を構築していった――それが第1フェーズの田中さんの歌詞の世界観なのではないか。

となると、第1フェーズは『Here』までじゃないの?という声も聞こえてきそうだが、『Circulator』の“Our Song”や“I found the girl”、『another sky』の“それでも”、“アザナーワールド”や“ふたり”、『イデアの水槽』の“ぼくらなら”や“会いにいく”には、まだ「君」との関係性が描かれ続けている。

その上で、第2フェーズへのイントロを匂わせている異色の楽曲が、『イデアの水槽』収録の“SEA”なのではないかと思う。

「君」と「わかる」の関係性を説いた冒頭のパートでは、一人称「僕」は、基本的には「わからない」と書いた。しかし、SEAの主人公は「わかっている」。ただ、それは「君」のことではない。

果てはないと
あてはないと
笑ってるの?
泣いているの?
わかってる

この主人公は、《誰にも触れられず》《誰にも触れさせず》にいる、《果てはない》《あてはない》恐ろしく不気味な《ガラスに仕切られた世界》が内包するものを、《きつく目蓋を/閉ざして》いながらも「わかっている」。この不可抗力の記憶のようなものこそ、のちの“少年”につながる世界観であり、幼き日のほの暗い思い出なのではないか――。

田中さんの歌詞の世界観は、第2フェーズへと入っていく。そこでのテーマは「自己と内省」だ。

#GRAPEVINE #田中和将

「スキ」ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。
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sayu.

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