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旧約聖書物語 17

ゼカリアが見た幻
絶望のどん底に落ちた民に
神が救いの手を差し伸べるという預言。
美しいユダヤ人の娘が
ペルシャの王に見初められ
王妃となって
ユダヤ人の危機を救う
エステルの物語。

谷口江里也 構成訳
ギュスターヴ・ドレ 画
©️Elia Taniguchi

目次
1 ゼカリヤの見た幻 (ゼカリヤ書)
2 ゼカリヤの見た幻 その2 (ゼカリヤ書)
3 ゼカリヤの見た幻 その3 (ゼカリヤ書)
4 王妃ワシュテイの退位 (エステル記)
5 王妃となるエステル (エステル記)
6 王妃となるエステル その2 (エステル記)
7 ハマンの謀略とエステルの直訴 (エステル記)
8 ハマンの謀略とエステルの直訴 その2 (エステル記)
9 栄誉を賜わるモルデカイ (エステル記)
10 ハマンの失脚 (エステル記)


1 ゼカリヤの見た幻 

  (ゼカリヤ書)

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さて、ペルシャの王がキュロスから
カンピュセス、ダレイオスへと代わり
ペルシャはエジプトから
メソポタミアに至る広大な
世界を支配する一大帝国となった。
そのダイレオス王の治世第2年8月に
祭司イドの孫で、ベレクヤの息子の
預言者ゼカリヤに神が臨んだ。

民に伝えよ。
私に還れ、そうすれば私も
民のもとに還る

そして同じ年の11月24日
再びベレクヤの子ゼカリヤに
神が臨んだ。
これはその時彼が見た幻である。

まずその夜私が視たものは
窪地の天人花の中に立つ
赤毛の馬に乗った一人の男。
その後ろには、赤毛や、葦毛や
白い毛の馬たちがいた。
私が、主よ、これは何ですかと聞くと
識らせてやろう、と天使の声がした。
すると、天人花の中にいた男が
これらは主が遣わした
地を見回る者たち、と言い
応えて馬たちが
見たところ、地に住まう人間たちは全て
安らぎを享受しています、と言った。
そこで天使が、万軍の主よ、そんな中で
一人哀しむユダの街エルサレムを
一体いつまで慈悲を施さずに
捨て置くのですか
もう、七十年が過ぎました
と問いかけると、主は
優しく天使に言葉を返し
それを天使が私に伝えた。
主は言う、私の憐みの目を
エルサレムに注ごう。
そこに私の家が築かれ
私の街に再び幸福が満ちる、と。
主は再びシオンを慰め
エルサレムを撰ぶ。
私がさらに目を凝らして見ると
今度は四本の角が視えた。
これは何ですか、と尋ねる私に
天使が答えた。

神が示した幻視の意味を天使がゼカリアに伝える形式のゼカリア書は、絶望のどん底に突き落とされたユダヤ人たちに対して、やがて神が再び民のことを顧みる日が来ると示す書で、イザヤ書やエゼキエル書と同じく、後の新約聖書のヨハネの黙示録にも通じる幻想性に満ちています。こうした幻想的な表現の面白さは、それを読む者、あるいは語り聞かされる人のイメージを喚起して、そこにさまざまな連想や意味性や謎を付与することです。もともとこの神は、あらゆることを言葉で語る神であり、善悪や、神の民として守るべき律法や、それを犯した罪に対する罰や守った時の加護や、絶望や希望など、あらゆることを言葉で語ります。しかしすでに民が国を失い、ちりじりになり、オリエント全域が大国ペルシャの支配下に置かれた状況の中では、旧約聖書の前半でしばしば語られたような単純な善悪を表す言葉は、もはや民の心に届かなくなっていたのかもしれません。

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