セクシー田中さん

セクシー田中さんというドラマがあり、観た事はないのだがまあひどい出来だったらしい。
脚本家と揉めた結果、原作者が自殺してしまい、今もまだ揉めているようなのだが、なんとなく興味が湧いたので途中まで読んでみた。

適当にあらすじを書くと「とりわけ不幸な訳ではないが、生きづらさを抱えた男女が『田中さん』というOL兼ベリーダンサーと出会った事で転機が訪れる」という内容になる。

この田中さんというのは、優秀だが大変地味な独身OLという設定であり、昔から洒落っ気もなく、日々PCと向き合う毎日を送っていたが、ある時鏡を見て、まるで老婆のようになっている自分に気付く。そして人から勧められたベリーダンスの世界へ飛び込んでいくのだ。
それまで自分にはたいして価値がないと思っていた田中だが、己が変わった事で知らず知らずのうちに他人にも影響を与えるようになっていく…というのが、この漫画の肝になるのだが…。

非常に気になったのが、この田中という人物はTOEIC900点越えかつ税理士の資格持ちらしい。

…お前なんでそんなハイスペックな40歳なのにただの経理部員なんだよ?
実はその会社外資か?
その割には同じ会社にいるはずの主人公の女があまりにも頭悪そうだな?
なんのために取ったんだ、資格。
暇つぶしか?
暇つぶしで取れるような資格じゃないだろ。
お前の人生設計どこへ行った??

…どう考えてもおかしい。
これほどのハイスペックならば、当然上位の大学を卒業しているはずであるし、そうでなかったとしてもかなり上昇志向の強いバリキャリになっているはずだ。
なんとなく受けてみたらTOEIC900点とか、思いつきで税理士資格を取得するはずもなく、会社から「経理部は全員税理士資格必須な?」などと無茶振りされるとも思えない。
でありながら、とりわけ仕事に情熱はないがひたすら厳格に実直にこなし、家と会社を往復するだけの地味で倹約に勤しむのが趣味…という人物になってしまったのは何故なのか?

あるいはこうだ。
地味で倹約に勤しんでいる普通のOL…と見せかけて実は株クラであり、大学卒業後まもなく投資を開始。
制度初期からNISAも確定拠出年金もフル活用。
40歳になる頃には富裕層となっており、実のところ資産運用だけで生きていけるのだが、社会性が不足しているため、世の中との接点を失う事を恐れてOLを続けている…という人物像の方が妥当なように思える。

しかしある時、田中は気付くのだ。
どれだけ資産があろうとも、どれだけキャリアを積み重ねようとも、自分は取り返しのつかない何かを失って今に至るのではないか…?

こうしてセクシー田中さんが爆誕するのだ。


…とまあ、このようにこの設定だともっと違う話になるだろうという違和感が拭えなかった。

多分、作者に会社勤めの経験がないかほんの触りぐらいにしかなく、とりあえず田中が優秀な会社員であるという事を強調したいがためにうっかりスーパーエリートのような設定にしてしまったのだろう。
しかしこのような設定で「都会の片隅に生きる名もなき誰か」のような話作りをしてしまうのはちょっと非現実ではないだろうか。


なお、別にディスっている訳ではなく「都会に住む人々の、ありきたりだがどこかしんどい毎日とそこからの脱却」をうまく描き出している良い漫画だと思う。
未完に終わったのが残念だ。

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