ソランジュの『A Seat at the Table 』はボーカルが素晴らしくて、聴き込むほどに良くなる傑作だった

Solangeの『A Seat at the Table 』を聴き直してみたら、このアルバムはソランジュの歌がすごいんじゃないかと気付いた。

起伏と抑揚、そして感情を抑えた歌がじわじわ来る。ミニー・リパートンの「Lovin You」の歌唱をキュートさを残したまま感情部分をダークに反転させたようなハイトーンボーカルが時折聴こえてくるんだけど、それに痺れまくった。これ、名唱だと思う。

ダイナミズムが極力省かれた歌はレイドバックしているわけでもないからソウルフルでもジャジーでもなくて、むしろニック・ドレイクやホセ・ゴンザレスみたいなきっちりしてて冷たくて質感だけど、ソランジェ自身がもともと持っているゴスペルやソウル由来の声や節回しで、どうしてもR&Bが滲み出てしまっているのがいい。

それは、ソウルとも違うがジャズでもないし、フォークでもないニューソウル以後のヴォーカリストたちとも通じるところはあるかもしれない。前述のミニー・リパートンでもないし、シリータでもないし、リンダ・ルイスでもないし、ジョセリン・ブラウンでもないし、デニース・ウィリアムスでもない、オリジナルなところにある気はしている。もちろんエリカ・バドゥらをはじめとしたネオソウル系とは全く違う。エイドリアナ・エヴァンズとかアリーヤとかもなんかしっくりこないし。そもそもディーバ的なフロントにある「歌」として捉えること自体違うのかもしれない。

サウンド的には空間たっぷりでスカスカなトラックが印象的。インディーロック的だったり、アンビエントR&B的なすっきりしたトラックも多いけど、絶妙にドロッとした(ざっくりいうとネオソウル的な)ところも少し入っていて、洗練と同時に、プリミティブな黒人霊歌的に聞こえてきたりもして、その対比も含めて、逆にスピリチュアルものを強く感じることも多かった。こういうブラックネスの入れ方の塩梅がプロデューサーのラファエル・サディークの上手さなのだろうか。こういうサウンドってありそうで意外とない。

わかりやすいR&Bじゃないから、USブラックミュージックというよりは、もう少しオルタナティブっていうか、折衷感がUKぽいかなとか思ってたけど、かなり音を間引いてスッカスカにした生演奏でも、微妙にレイドバックしてたり、オールドスクールな黒さみたいなものが新しさの中に絶妙に織り込まれているあたりを考えるとUKにはないUSのR&B的なディープさだと思った。USのブラックミュージックの大樹の枝に咲いた花って感じがする。

歌に話を戻すと、ここでのソランジュの歌って、ケンドリック・ラマーの「Complexion」や、コモンの「Letter To Free」みたいな曲で聴けるようなメッセージを穏やかな語り口に込めたスタイルを、もっと柔らかくメロウなサウンドの中で、歌をもっともっとシンプルに、もっともっとミニマムに、ある種ストイックに突き詰めたって感じもある。でも、抑えている感じの不自然さがなくて、どこまでもスムースで、感情が聴こえてくるのがとんでもなくすごいと思う。

このライブ動画を見ると、ソランジェはライブだと生バンド。ドラムが生演奏ヒップホップ的な乾いた音のスネアじゃなくて、ドコドコ重いタムが太鼓的に鳴っているのも印象的で、これってニューオーリンズとかのトラディショナルなリズムの雰囲気なのかなと思ったり。プレ・モダンが同居してるようでもある。この辺も実は巧妙に考えられているのではないかと思えてならない。

とりあえず、もうしばらく聴き直してみたい。

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ちなみにこのアルバムのポリティカルなメッセージについてはこちらをどうぞ
WIRED.jp編集長 若林恵さんの素晴らしいテキスト

『Pitchfork』のみならず、音楽メディアとして信頼性の高い『NPR Music』もまた、年間ベストリストで、ソランジュの作品をビヨンセの上位に置いた(ビヨンセが2位、ソランジュが1位:“Best 50 Albums Of 2016”)。ソランジュの声は、2016年という、もしかしたら時代の大きな潮目になるかもしれない年を、より強く象徴していると、少なくとも上記の2メディアは考えたのだろう。以後、「プロテストミュージック」は、ソランジュのこの作品をひとつの基準として語られていくことになるのかもしれない。

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※福原美穂さんからツイッターで面白いやり取りをしたので貼っておきます





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柳樂光隆

柳樂光隆の音楽評論

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