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書評:『100年のジャズを聴く』 - 現代ジャズを好きな人が過去のジャズを聴くきっかけになるだろうし、50〜60年代のジャズファンが最新のジャズを聴くガイドにもなるだろう。(吉田ヨウヘイ)

 僕は高校生のときに何かのきっかけでセロニアス・モンクが好きになり、でも他のジャズはよくわからず、長い期間モンクだけが好きだった。その後、23〜24歳頃からモンク以外のジャズも好きになり、この本の著者である後藤さんや村井さんの本を読んで歴史や名盤を勉強し、ジャズの廃盤レコード屋でバイトしたりもした。そしてバイト中に先輩から教えてもらったビジェイ・アイヤーの新譜を聴き、「最近のジャズは凄い」「何となくモンクと似ている感じがして好きだ」と思ってるところでもう一人の著者の柳樂さんと知り合い、いろいろ教えてもらったり、『JAZZ THE NEW CHAPTER』(以下JTNC)の執筆に加えてもらったりした。

 だから自分の中でジャズは、重複はあるもののざっくりと《モンクとモンクっぽいジャズ》《一般的に歴史上重要と紹介されるジャズ》《最近のジャズ》に分かれている。特にモンク、エリック・ドルフィー、ブッカー・リトル、ジミー・ジュフリー、ボブ・ブルックマイヤーなんかを線で繋ぐことは自分と趣味の近い親しい友人だけが分かる括りだと思って大事にしてきたし、最近のジャズにその要素が感じられたりするのを密かに喜んだりしていた。

 だが、僕が勝手に感じていたそんな優越感はただの勝手な思い込みだったと本書を読んで痛感させられた。1章で後藤さんや村井さんの口から、「ジャズ全然聴かないのにモンクだけ好きな人って結構いる」「モンクが好きっていうと本物っぽい」「モンクとドルフィーは近いとこある」といった発言がどんどん飛び出す。自分が感じていたことなど、ジャズを長年真剣に聴いてきた人には当たり前のことだったのだ。そして、「ジャズファン以外をも虜にするモンクのポップネス」を受け継いでいるのが、JTNCで紹介される最新のジャズが他ジャンルも巻き込むかつてない勢いを持っている理由である、ということが分かりやすく語られる。

 本書の特徴は、時系列で歴史を紹介せず、2017年現在に最も有効な100年間の歴史を振り返る視座を本気で探っていることだ。序章で現代ジャズのライブについて触れ、1章でモンクについて話し、といった大きな流れと、章中の細かな話題の両方で、現在と過去を頻繁に行き来する。その視点の目まぐるしい変更に付いて行くのが大変かというと全くそんなことはなく、Apple Musicなどのストリーミングサービスのプレイリストでいろいろな音楽を並行して聴いているかのように、スッと体に入ってくる。

 本書は、現代ジャズを好きな人が過去のジャズを聴くきっかけになるだろうし、50〜60年代のジャズファンが最新のジャズを聴くガイドにもなるだろう。それだけでなく、本書をきっかけに全世代のジャズファンが同じ感覚を共有し、仲良く話すようなことが起き得るのではないかと感じた。長年ジャズを真剣に聴いて来た人は過去と現代のジャズとの共通点を探り当てる耳を持っているし、ジャズというジャンルはほかの音楽では持ち得ないそうしたポテンシャルを持っている。このようなことが、本書を読んで改めて分かった。(吉田ヨウヘイ)

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吉田ヨウヘイ
2012年4月に自身がリーダーを務める吉田ヨウヘイgroupを結成。1stアルバム『From Now On』を2013年に、2ndアルバム『Smart Citizen』を2014年に、3rdアルバム『paradise lost, it begins』を2015年にリリース。吉田のジャンルを超えた幅広い音楽知識が反映されたハイレヴェルな楽曲と、管楽器を含む編成を駆使した個性的なアンサンブルでデビュー時から高い評価を受け、日本の音楽シーンでも独特のポジションを築いている。2017年11月に4thアルバムにいして最高傑作『ar』をリリースしたばかり。各所で絶賛されている。⇒ Link:公式サイト

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