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2019年 上半期ベスト50:ジャズ・アルバム by Mitsutaka Nagira

Rolling Stone Japanから2019年の上半期ベスト企画をやるので書いてくれと言われたので、せっかく僕がやるならジャズだけで選んだ方が面白いかなと思ったのと、10枚を選ぶためにかなり多めのリストを作って考えたんだけど、それもシェアしたほうがいいかなと思ってこれをさくっと書きました。よかったら参考にしてみてください。

■2019年 上半期ベスト50:ジャズ・アルバム

1~10はRolling Stone Japanに掲載しています。下のリンクからどうぞ。

以下、20~50まで。

11. Fabian Almazan – This Land Aboounds with Life
12. Dexter Story – Bahir
13. Caroline Davis – Alula
14. Steve Haines and the Third Floor Orchestra
15. Joel Hierrezuelo - Zapateo Suite
16. Jeff Ballard – Fairgrounds
17. Avishai Cohen – Arvoles
18. Ryan Keberle & Catharsis - The Hope I Hold
19. Snarky Puppy - Immigrance
20. Mark Guiliana - BEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!

21. Angelique Kidjo – Celia
22. Camila Meza – Amber
23. Kassa Overall - Go Get Ice Cream And Listen To Jazz
24. スガダイロー – 公爵月へ行く
25. Joel Ross - KingMaker
26. Pedro Martins - Vox
27. Lauren Desberg – Out For Delivery
28. Theo Croker - Star People Nation
29. Bill Frisell Thomas Morgan - Epistrophy
30. Anton Eger - Æ

31. Abase – Invocation
32. Comet is Coming - Trust in The Lifeforce of The Deep Mystery
33. Alicia Olatuja - Intuition:Songs from The Minds of Woman
34. Mats Eilertsen - And Then Comes The Night
35. Norah Jones - Begin Again
36. Sara Gazarek - Distant Storm
37. Ensemble Supersonus – Resonances
38. Yotam Silberstein - Future Memories
39. Linda May Han Oh – Adventure
40. Ari Hoenig Trio - Conner's days

41. Mark de Clive-Lowe – Heritage
42. Ryan Porter - Force for Good
43. Terazza Big Band – One Day Wonder
44. Theon Cross - Fyah
45. Lage Lund - Terrible Animals
46. Remy Le Boeuf – Light as a Word
47. Romain Collin - Tiny Lights…
48. Alfredo Rodriguez &Pedrito Martinez - Duologue
49. Anna Webber - Clockwise
50. SF Jazz Collective - Music of Antonio Carlos jobim

■2019上半期 ライブ ベスト10

1/16 パット・メセニー、ジェイムス・フランシーズ、ネイト・スミス @ ブルーノート東京
2/9 タンク&ザ・バンガス @ グラウンドアップフェス
2/11 デヴィッド・クロスビー、ベッカ・スティーブンス @ グラウンドアップフェス
2/11 スナーキー・パピー、 @ グラウンドアップフェス
5/14 ケンドリック・スコット・オラクル @ ブルーノート東京
5/18 オムリ・モール @ 新宿ピットイン
5/27 ヴィジェイ・アイヤー・トリオ @ コットンクラブ
5/28 ウィントン・マルサリス @ 新宿文化センター
6/1 ブラッド・メルドー・トリオ @ 東京国際フォーラム
6/13 クリスチャン・スコット @ ビルボード

上半期も良いライブ目白押しでした。
個人的にはオムリ・モールがやっていたジャズ×モロッコ音楽にめちゃくちゃ感動したのと、スナーキー・パピー主催のフェスの音楽好きの天国感に癒されたのと。

■総評:カリビアン/ジャズ・ヴォーカル/ノンサッチ×ニュー・アムステルダム

ジャズに関しては大きなトレンドみたいなものはあるようでない状態が続いていて、皆さん自由にハイブリッドな音楽を作っているので、正直言うと大っぴらに「これが来てる」「次はこれが来る」とか書くようなものはないのだけど、ここ数年の流れだと、カリビアン・ジャズが面白くなってる勢いが変わらずなのは、特筆すべきポイントと言えるかなと。

アメリカ~カリブ~アフリカを接続するような音楽が増えていて、しかも、徐々に研究や試行錯誤が深まっている感じがするのと、現代のジャズとの接続が巧みになってきて、カリブのリズムや旋律が入っていても、いかにもな「ラテンジャズ」みたいなものではなくなっている印象。この領域の進展はなかなかに目覚ましいものがあります。去年もこの辺は面白かったのだけど、あれはまだ兆しだったんだなと言う感じで、今年出ているものはそのレベルではなく、ワクワクしてます。アンジェリーク・キジョーはそこをバシッと繋いだ感じがある。

あとは女性ヴォーカリストの作品に良作が多かったんだけど、そこも方向性はバラバラで傾向がなく、それぞれが自身のキャリアや人生を反映させながら自由にやっていて、ジャズ・ヴォーカリストの多様化が止まらないのも面白いところ。ただ、ジャズじゃないですよねって話じゃなくて、根底にジャズがあるのがここの面白いところで、ジャズの形をしていない音楽を作る際にも、もしくは、ジャズ的な要素をかなり薄めた音楽を作る際にも、むしろそういった音楽だからこそジャズを歌ってきたことが大きな意味を持つ、みたいな作品も少なくなく、ますます関心が増してきています。

あとは、カリブ~アフリカとも通じるトピックだけど、自身のルーツを反映させる作品も多く、そこもどんどん深まっているなと。中でも面白かったのは日本をテーマに作ったマーク・ド・クライブロウ。彼は母親が日本人で、初めてここまで日本を意識して作品を作ったとか。そういったことを彼が考えるようになったことはきっと社会情勢とも無関係ではなく、そういう視点でジャズを見てみるのも面白いんじゃないかなと。アリシア・オラトゥージャが彼女が尊敬する偉大な女性シンガーをテーマに作ったアルバムに関しても、そんなことを考えながら聴いていました。

最後にもう一つトピックを。
ブラッド・メルドーなどをリリースしているノンサッチが、ダーシー・ジェイムス・アーギューなどをリリースしているニュー・アムステルダムと提携したとのニュースがあって、それはかなり大きいことかなと。ニュー・アムステルダムはJTNCでも紹介した「インディー・クラシカル」のムーブメントの重要な拠点であり、近年ではポール・サイモンとのコラボでも知られるy musicなどが在籍していたレーベルです。一方で、ダーシーをはじめ、ジョン・ホーレンベックなど、かなり先鋭的なジャズ・アンサンブルをリリースしていたりもします。以前、JTNCとして日本仕様CDをリリースしたこともあり、日本でも一部では熱狂的なファンがいるレーベルです。

Jazz The New Chapterでも再三書いてますが、クラシックとジャズの関係性は昔からあるもののマリア・シュナイダー以降のラージ・アンサンブルの流れやフレッド・ハーシュ~ブラッド・メルドーらによるバッハなどの再考などを通じて、近年またクラシックとの関係が深まり始めていて、そういったところにこの提携が作用する予感があります。

例えば、ブラッド・メルドー、パンチ・ブラザーズ、メルドーの新譜にも参加していたSSWのガブリエル・カハネなどなど、クラシックとも関わりのあるミュージシャンたちがどんどん接近して、ジャズやクラシックやフォークやブルーグラス、カントリーなどが溶け込んだ音楽を生み出していますが、この流れを加速させる起爆剤になるかなと。既にニュー・アムステルダム絡みのアーティストがノンサッチ経由で作品を発表していますが、こういった流れが、スフィアン・スティーブンスやブライス・デスナー、ビョーク周辺とも絡んでいきそうなことも含めて、下半期は多くの方に注目してほしいと思っています。


※最後までお読みいただきありがとうございました。
この後、テキストは何も書いてませんが、
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