ミシェル・ンデゲオチェロによるカヴァー集『Ventriloquism』に収録されているジャネット・ジャクソンの「Funny How Time Flies (When You're Having Fun)」のこと

ミシェル・ンデゲオチェロの『Ventriloquism』のリリースに合わせて、ミシェル・ンデゲオチェロとはどんな音楽家なのかってことを自分なりに考えました。

プリンスや80年代のマイルス・デイヴィス/マーカス・ミラーとの関係をイメージしつつ聴くといいかなと。ジャズと同時代のポップ・フィールドのブラックミュージック、生演奏とシンセやリズムマシーンの間で新しいものを生み出そうとしていたマイルスやマーカスと、そこに影響を与えていたプリンス、みたいな文脈の延長でミシェルのことを考えてみました。

それはそうと『Ventriloquism』でミシェルはジャネット・ジャクソンの1986年の名曲「Funny How Time Flies (When You're Having Fun)」をカヴァーしています。

この曲はフュージョン系のベーシストのスタンリー・クラークが1988年の『If This Bass Could Only Talk』でカヴァーしていたり、

最近ではテラス・マーティンが自身のプロジェクトのポリーシーズでもカヴァーしている。

ジャム&ルイスによる80年代の名曲だが、立て続けにカヴァーされるのには驚いた。とはいえ、プリンス周辺のミネアポリスのサウンドが再評価されている今聴くとちょうどいいサウンドだし、例えば、プリンスと繋がりがあったし、ジャム&ルイスの影響を公言しているキングのサウンドにはまさにこの曲が持っている心地よさが取り入れられている。それはシンセによる温かみのあるふわふわしたサウンドだけでなく、たっぷりと空気を含んだ吐息とともに歌われるその声を柔らかく重ねて揺らす感じもこの曲でのジャネット・ジャクソンの歌の質感と重なる。

とはいえ、そんな心地よくやわらかい楽曲をミシェルは全く違うやり方でカヴァーしてみせる。ヒリヒリとしたエレキギターやきらっとした冷たいピアノ、唸るように震えるストリングスの低音、そして、自身の低音ヴォイスで、ビターでノイジーにカヴァーしている。メロディーを除いて、原曲のサウンドとは全く違うが、作り変えているというよりは、同じものを全てを反転させたような編曲のようにも感じられる。全く違うものになっているはずなのに原曲を強烈に尊重しているのがわかる。

そういえば、このアルバム全体が、ダークで重く、グルーミーだ。キラキラと輝いていた80年代のサウンドの中から、その陰の部分を炙り出すような、その楽曲の中に潜んでいたもう一つの側面を曝け出すようなものなのかもしれない。そして、今、歌い直すのなら、その質感こそがリアルである、とミシェルは判断したのかもしれない。

ミシェル・ンデゲオチェロという丁寧で誠実で真摯な音楽家のすごさはこういうところに凝縮されているような気がする。

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ミシェル・ンデゲオチェロによるカヴァー集『Ventriloquism』に収録されているジャネット・ジャクソンの「Funny How Time Flies (When You're Having Fun)」のこと

柳樂光隆

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柳樂光隆

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