ジャズミュージシャンが奏でる新たなヒップホップ - コモン<Black America Again>とロバート・グラスパーのピアニズム

何度聴いてもグッとくる。

《政治的な強いメッセージがあるから》ではなくて《音楽がすごく強いし、切実でヒリヒリしていて、同時に非常に美しいから》だと思う。音自体がコンシャスなんだよ。そこでやっぱりロバート・グラスパーのピアノがすごいなと。

その場で最も適切なフィーリングを当たり前のように奏でるって実はとんでもなくスゲーことだよなと思うし、ここに(=今、2016年のアメリカに)必要なピアノは過去のレコードからは抜いてこれないよなとも思う。今の感情は、昔の公民権運動のころの音源ではなく、今を生きている誰かが新たに奏でるしかない。それを奏でられるのはグラスパーだったということだろう。

ヒップホップにとって生演奏の重要性が増したのは、そういうことも関係があるんじゃないかと思う。グラスパーが必要とされるのは、彼の歌伴のような、歌の、曲の感情に寄り添うことが出来るピアノがあるからだろう。ジャズでもあり、ゴスペルでもあり、同時にヒップホップの上もの的なフロウをするアコースティックのピアノ。シンプルで、流麗だけど、重みがあるこの感じしかないよなって思う。このフィーリングだからこそ、コモンのラップやカリーム・リギンスのビートと合わさるとここまでグッとくるんだと思う。ここでのグラスパーのピアノは自身のアルバム『Black Radio 2』で聴かせてくれたゴスペル的なフィーリングをたたえた<I Stand Alone Feat. Common & Patrick Stump><Jesus Children Feat. Lalah Hathaway & Malcolm-Jamal Warner>等よりもはるかに研ぎ澄まされた演奏をしている。裏方でもサイドマンでもバックバンドでもなく、珍しくラップやビートと拮抗するようなグラスパーの重厚な演奏がこの曲の鍵だ。

さらに言うと、ここでのグラスパーのピアノはかなり特殊だ。
わざとピアノ全体に響かせてピアノ自体を揺らすように音を奏でて、その残響を反響させたままペダルは踏まずに響かせる。しかも、コードを奏でる際にも、それぞれの指で違う音量で奏でるだけでなく、同時ではなくわざとズラして鍵盤を押している。それぞれの音は響きあわず混じり合わない。ぶつかり合ったまま次の音がまたぶつかる。ノイズだらけ、ダーティーな音だらけのピアノは、普段のグラスパーとも違うし、言うまでもなく、ピアニストとしては常識的ではない演奏だろう。ただ、そのズレた音やピアノがビリビリと揺れる感触が切迫感を生み、それがカリーム・リギンスによるハイハットがガシャっと崩れたような瞬間を切り取ったビートや、軋むような低音が鳴っているストリングス、そして、怒りにも似た感情を前面に出したコモンのラップと組み合わさることで、この緊迫感が生まれている。この曲がここまで説得力を持っているのは、楽曲が求める音色、フレーズ、テクスチャー、そして、エモーションを極めて的確に、と同時に、圧倒的なテンションを込めて演奏しているからだ。ヒップホップ的なループ感を維持しながら、わずかな変化を加えていくっていうグラスパーらしいヒップホップを身体化したような作法はもちろんここでも健在だ。これ、名演じゃないかな。そして、この的確さや柔軟性こそがグラスパーのピアニズムだ。

そこで僕が思うのは、ここまでシンプル且つエモーショナルに弾けるのはやっぱりジャズミュージシャンだからこそ、だとも思うのだ。

ずっと追いかけていて、最近ようやく見えてくることもある。こんなに長くグラスパーを追っていても、なかなか飽きさせてくれない。まさか、このタイミングで、《ジャズミュージシャンがその生演奏でヒップホップに貢献した名演》を聴かせてくれるとは思わなかった。これ、グラスパー屈指の演奏だと思う。

なぁ、グラスパー。コモンの名曲の次は、何をやるんだ?グラスパーはまだまだ僕をワクワクさせてくれそうだ。


※このコモンやグラスパー、カリーム・リギンスによるホワイトハウスでのライブも必見。
最後のほうの<Little Chicago Boy>と<Letter To Free>がアルバムでも重要な曲で、この包容力はこの年齢になって立場も役割も変わってきたコモンが辿り着いた表現なんだなと思う。連帯するために抱きしめる感じ。公民権運動の頃にはそういう(若いのに妙に)成熟したシリアスだけど、同時に温かくて柔らかい表現がソウルやジャズにあった気がする。今、コモンがそんな役をも引き受けている感じがあって、世界に向けて語りかけるような音楽になってるのもいい。怒りだけでなく、こういう曲があるからこそメッセージが強く太くなる。 

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柳樂光隆

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