10分でわかるジャズの名門ブルーノートの歴史 - Introduction for 『ALL GOD'S CHILDREN GOT PIANO』

僕が監修・選曲・解説を手掛けたブルーノート・レコーズのコンピレーション『ALL GOD'S CHILDREN GOT PIANO』がリリースされました。ブルーノートの来年80年を迎える永い歴史の中から現代ジャズを楽しんでいるリスナーのために、現代から1940年代までの音源を並べて、21世紀にふさわしいジャズピアノの聴き方を提案するものです。



そのリリースに合わせて、ブルーノートについてあれこれ書いてみようと思いました。まずはブルーノートの歴史を一気におさらいしてみましょう!ということで、約80年分の要点をかいつまんでみました。コンピレーションのイントロダクションとして、またブルーノート入門としてどうぞ。

ブルーノートというレーベルはあまりに偉大だ。

ジャズの名門であるこのレーベルのカタログにはジャズ史における革新が山のように詰まっていて、ブルーノートだけを聴いていれば、USのジャズの歴史の大筋が見えてしまうと言ってもいいだろう。アルバート・アモンズ、シドニー・ベシェやセロニアス・モンク、バド・パウエルに、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーンに、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、オーネット・コールマン…と、あげればきりがない。そこには歴史的名曲名演が大量にあり、何度も何度も参照され、次の世代のミュージシャンに影響を与え続けている。

なぜ、そんなレーベルになることができたのか。それはこのレーベルが常に「新しさ」にたいして寛容であるだけでなく、新たな音楽を生み出すアーティストがもつ未知の可能性を支持し続けてきたことの一点に尽きる。

もともとブルーノートは40年代にクラリネット奏者シドニー・ベシェのようなスウィングジャズや、アルバート・アモンズのようなブギウギ、ストライドピアノのジェイムス・P・ジョンソンなど、当時のトレンドであり、先端だったモダンジャズ以前のスタイルのジャズをリリースすることから、レーベルをスタートさせた。

それが50年代になると当時はまだ先鋭的な表現だったはずのビバップを積極的に録音しはじめ、一気に舵を切った。バド・パウエルセロニアス・モンクと契約したことはその象徴的な出来事と言えるだろう。つまりモダンジャズの始まりを強烈に後押ししたレーベルのひとつだったと言えるだろう。

その後も、マイルス・デイビスジョン・コルトレーンソニー・ロリンズと言ったモダンジャズの巨人が録音を残しているのは言うまでもないが、アート・ブレイキーホレス・シルバーによるファンキージャズやハードバップを録音しながら、同時期にはパーカッション奏者サブーによる本格的なラテンアルバムを残していたり、幅広い作品を作っていたのはこの頃から。リー・モーガンデクスター・ゴードンといった時代を彩った巨人たちの名演を記録しただけでなく、ソニー・クラークハンク・モブレージャッキー・マクリーンらに作品を残す機会を与え、それらが歴史的名盤とまでは言えなくとも、ジャズファンが心から愛するモノとなっているのもブルーノートが唯一無二のレーベルとなっている所以だ。

モードジャズの時代にはマイルス・デイビスのバンドで活躍していたハービー・ハンコックウェイン・ショータートニー・ウィリアムス等を中心とした新主流派と呼ばれる現在のコンテンポラリージャズの原型を築いた名作群を発表している。アンドリュー・ヒルエリック・ドルフィージョー・ヘンダーソンフレディー・ハバードマッコイ・タイナーラリー・ヤングの作品は今も若きジャズミュージシャンたちにインスピレーションを与え続けている。

そして意外に思われるかもしれないが、ドン・チェリーセシル・テイラーオーネット・コールマンらのフリージャズに分類される異才をも数多く手がけている。ブルーノートは当時のアヴァンギャルドだった表現をも積極的に支持していた。

さらには、ニューソウル以降の時代にはマイゼル・ブラザーズを迎え、ドナルド・バードボビー・ハンフリーに同時代のソウルやファンクとも共鳴する新しい感覚のブラックミュージックを、同時にアール・クルールー・ロウルズが芽吹き始めたばかりのフュージョンをリリースしている。

ブルーノートはブラジル音楽とジャズの融合に取り組んでいたウェイン・ショーターデューク・ピアソンに録音の場を与え、ブラジルの才人モアシール・サントスの作品をリリースすることで、アメリカへ新たなブラジル音楽を紹介することにも貢献しているのも見落とせないポイントだ。

一時、休止していたブルーノートだが、80年代に華々しく復活し、ミシェル・ペトルチアーニを世界的なスターに押し上げ、チャールス・ロイドの復帰を実現させるなどして、ジャズシーンをも盛り上げた。

あまり言及されないが、90年代以降のブルーノートも重要だ。グレッグ・オスビーなどMベース周辺のアーティストをフックアップし、ウィントン・マルサリステレンス・ブランチャードを招き入れ、ストレートアヘッドなスタイルの若手マーカス・プリンタップなどとも契約した。その中でMベース周辺のアンダーグラウンドなシンガーだったカサンドラ・ウィルソンをスターに押し上げるなど、名門レーベルの冠を活かし、音楽シーンの中で特殊な地位を気付いたのは90年代以降のことだろう。

00年ごろにはメデスキ・マーティン&ウッドソウライブといったバンドと契約し、メジャーシーンに引き上げたことで、ジャムバンドのムーブメントを盛り上げるのに大きな役割を果たしたし、ノラ・ジョーンズを発掘し、スターにしたことでノラのフォロワー的な(ジャジーで)オーガニックなシンガーソングライターが次々にデビューする流れも作った。

そんなことをやりつつも、、ジョーイ・カルデラッツォケヴィン・ヘイズジョー・ロヴァーノといった現代ジャズの重要人物もリリースしていて、ジャズにも真摯に取り組み続けていたのがブルーノートだ。意外かもしれないが、リー・コニッツのリーダー作の中でブラッド・メルドーもブルーノートでレコーディングをしているのがこのレーベルの侮れないところ。ステフォン・ハリスジェイソン・モランと契約したのもそんな流れからだろう。

そして、ビートメイカーのマッドリブなどのヒップホップとも手を組み、ジャズ以外の世界をも積極的に巻き込んでいったのもあまりに大きな出来事だろう。伝統ある名門レーベルの柔軟かつ大胆な姿勢はジャズシーン全体への大きな刺激となった。その頃の企画盤の中ではDJクラッシュ竹村延和Jディラザ・ルーツにもリミックスを任せたりもしていて、その的確な舵取りには恐れ入る。そんなことの延長に今のジャズとヒップホップの関係の隆盛があるのは間違いない。

そして、2010年代以降、ロック界の大物プロデューサーでもあるドン・ウォズが社長に就任し、ロバート・グラスパーデリック・ホッジクリス・デイヴらと共にヒップホップやインディーロック、エレクトロニックミュージックなども取り込んだ新たな時代のジャズを模索しているのは周知の事実だろう。リオネル・ルエケケンドリック・スコットなど時代を代表する名手をどんどん引き入れながら、ウェイン・ショーターチャールス・ロイドDRロニー・スミスなど大ベテランに新たな名盤を生み出させるなど、ブルーノートは再び黄金期を迎えている。

つまり、ブルーノートとは歴史と伝統を守ってきたのではなく、蠢き始めた新たな音楽を常に支持することで歴史を作りだし、それがいちいち伝統になっていき、振り返ってみるとジャズ史における本流が揃うカタログが出来上がっていたという奇跡のようなレーベルなのだ。

また、その豊潤なカタログは何度も掘り起こされ、再評価され、新たな意味を纏ったりもしている。例えば、80年代にUKで起こった《ジャズで踊る》ムーブメントでは、ルー・ドナルドソンケニー・ドーハムホレス・シルヴァーなどがダンスミュージックとして再発見された。

90年代以降、ヒップホップの登場により、過去のレコードに封じ込められていた音をサンプリングして、過去の音楽をリサイクルして新たな音楽を作る手法が一気に広まった。そこではソウルやファンクやジャズのレコードに入っていたドラムブレイクや印象的なフレーズがサンプリングされたが、そこでもブルーノートは大きな役割を果たした。ドナルド・バードボビー・ハッチャーソン、Drロニ―・スミスロニー・フォスターなどのサウンドはヒップホップ時代の新たな名盤として、これまでとは違う形での評価を得た。ブルーノートが生み出した音源たちは幾多のヒップホップの楽曲にサンプリングされたり、引用され、またDJによってダンスミュージックとして再解釈され、クラブシーンでも高い評価を得た。

そうなったのも50~60年代にジミー・スミスフレディー・ローチDrロニー・スミスなどのオルガンジャズや、グラント・グリーンのようなギタリスト、前述のような70~80年代のニューソウルやファンク、フュージョンに呼応した作品群など、ブルーノートが同時代のアフロアメリカンの音楽の潮流に寄り添っていたからだろう。ブルーノートというレーベルは先を読むだけでなく、同時代への目配せも含め、何から何まで非の打ちどころのないレーベルだったのだ。だからこそ、このレーベルにはいつの時代にも可能性が埋まっているのだ。

そして、そのヒップホップ以降の再解釈はロバート・グラスパーらの世代には所与のものとしてインプットされる状況が出来上がっていた。彼らはJディラのサンプリングソースとしてのドナルド・バードから、トライブ・コールド・クエストのサンプリングソースとしてのロニー・フォスターから、彼らはブルーノートに触れたりしている。そんなヒップホップ以降のジャズのキーマンたちの多くが今、ブルーノートに所属している。

そうやって、常に過去と現在が繋がり、影響関係が循環し続けているのがブルーノートの最大の強さなのだ。そして、ロバート・グラスパーらの世代のジャズがまた新しい循環を作り、未来のブルーノートの血肉になるはずだ。

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柳樂光隆

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柳樂光隆

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