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『100年のジャズを聴く - 後藤雅洋 × 村井康司 × 柳樂光隆』という本のこと

『100年のジャズを聴く - 後藤雅洋 × 村井康司 × 柳樂光隆』という本を作りました。

この本は、70代の後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる店主)さん、50代の村井康司(音楽評論家)さん、そして、30代の柳樂という3世代でジャズを語った本です。

経緯としては近年はジャズの新譜に関心を持っている後藤さんから


「『Jazz The New Chapter』を読んでいるような若いリスナーと、後藤雅洋の本を読んでいるような昔からジャズを聴いてるリスナーとを繋ぐような本を作りたい。」


という提案があり、そういう前向きで意義のある内容ならと引き受けたものです。

僕としては、そのために過去のジャズをたくさん聴き直しながら、色々と準備をして、60代以上の年配のリスナーにも伝わるように現代のジャズと20世紀のジャズとの繋がりを説明しながら、今のジャズのどういうところにフォーカスして聴けばいいのか、どういうアーティストを参照しながら聴けばいいのかについて話しています。新しいジャズよりも過去のジャズの話をたくさんしているのと、これまでの日本のジャズ評論におけるジャズ史からは抜け落ちてる《80-00年代のジャズ》のことも説明しながら、80年代以前のジャズと現在のジャズとの交通を整理しながら、理解につながるような道筋を作るような話もしています。どんな話をしているのかに関しては、50年代から70年代までのジャズの名盤だけではなく、スティーブ・コールマンやウィントン・マルサリス、ブラッド・メルドーやロバート・グラスパーなど「表紙に載っているアルバムジャケットを見ていただければ」という感じです。

この本で《過去を参照しながら今のジャズを語る》ということのひとつの例みたいなものが示せていたらいいなと思いますし、(まだ語り足りないことは山ほどあるとはいえ)《ジャズのことが語りやすくなるための手掛かりやヒント》はたくさん散りばめたつもりなので、今後、多くの人が思い思いにジャズを語ってくれるようになればと思います。

そのために、普段の僕の原稿では当たり前のように使っているロックやヒップホップやエレクトロニックミュージックなど、他ジャンルの話は基本的には封印して、他ジャンルのアーティスト名や用語を極力抑えて、モダンジャズの言葉だけで話すようにしているのも特徴です。基本的には、ジャズの土俵の上で、相手(後藤さん)に合わせて話しているという形になります。総合格闘技の選手がボクシングのルールで寝技も蹴りも使わずに戦っているとでも言えばいいですかね。つまり、徹底的に説明役に徹しているとも言えます。若いリスナーと年配のリスナーを繋ぐような話をするためにベストの方法を考えた結果にこのやり方を選びました。新しいところの話は、これまでに出た『Jazz The New Chapter』や、これから出るであろう5冊目に書くと思うので、許してください。とはいえ、JTNC読者の皆様にとってもこの鼎談を読むと、現代のジャズへの更に理解が立体的になるはずですので、興味のある方はぜひに。

ちなみにいわゆるモダンジャズから、現代ジャズまでのジャズの歴史100年分を網羅した鼎談の話の筋を理解しつつ、若者から年配の読者までに気を配りながら、読みやすく編集するというのは、非常に困難な仕事かつこの本におけるもっとも重要な仕事でした。ここでは、その仕事を若手のライター/編集者の本間翔吾さんと細田成嗣さん(ともに20代)の若手2人にやってもらいました。多数のジャズミュージシャンの名前が飛び交い、時代も地域も行ったり来たりするこのハイコンテクストな鼎談を見事にわかりやすくまとめてくれていますし、4回に分けて行った鼎談の間では的確な舵取りや助言もしてくれました(し、ディスクレビューも執筆してくれました)。彼ら無くしてはこの本は作れなかったと思います。

つまりこの本は《70代、50代、30代が語り、それを20代が編集した本》というなかなか他になさそうなものになっています。ジャズという音楽の面白さは、この本でも話しているように時代を超えても何らかの連続性があり、リスナーにもそれが割と簡単に共有されることだと思いますが、本の作り方という意味でも、そういうジャズのあり方を示すことができたのかもしれないなと思っています。

僕としては、今後、この本のことがたくさん語られて、ジャズのめぐる言説が活性化することを願っています。

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左から後藤雅洋、柳樂、村井康司。撮影 Chiyori


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