一月 ①

一日 凍てつく寒さだった。新年が開ける瞬間、わたしたちはテムズ川のほとりで花火を見上げていた。いや、あれはあくまで 'fireworks' であってわたしたちの知る「花火」とは異なるものなのかもしれない。そもそも日本の花火は夏の風物詩で、今ははつはる。それはほんの15分程度で終わってしまうのだけれど、二度目の可能性が不在の今、こうしてロンドンで新年を祝う機会は貴重で、わたしは確かに嬉しかった。イベントが終わった後は地区ごとに誘導されてそれぞれの方法で帰路に着く。わたしとおとちゃんはそのまま始発が動き始めるのを待ってケンブリッジに向かう予定だったので、地下鉄の駅に向かう人の流れに乗って歩いた。とはいえこれだけの人数が一駅に収まるはずもなく、次の駅、次の次の駅とどんどん歩いて行った先でようやっと建物の中に入る。Kings Cross 駅に向かい、24時間空いているスペースでとにかく暇を潰して電車を待つ。二人で好きな動画を永遠に見て過ごしたものの最後は力尽きてテーブルに突っ伏して眠ったりもした。そうこうしているうちに朝が来て、電車が来て、乗り込み、ようやく安心してぐっすりと眠るとあっという間にケンブリッジだった。ケンブリッジでは兄と合流して街を案内してもらって、三人でごはんを食べた。マンチェスターよりはヨークに似た、こじんまりとした古い街並みをしていた。初めて英国を訪れて向かえば今とは違った印象を受けたかもしれないけれど、違う都市とはいえ、もう半年以上この国で過ごした身には、そう新しく見えることもなくて少しさみしい気持ちになった。知ることは同時に何かを失うことでもある。相変わらず夜が更けるのが早いので、暗くなる前に解散して、スーパーで朝食を購入して宿に向かう。Airbnb で予約した部屋は落ち着いた雰囲気の広い部屋で、前日の疲労が抜けないわたしたちはリビングのソファで力尽きる。夜になって目を覚まして、順番にシャワーを浴びて寝室に向かい、鍵を閉めてベッドに入り込む。大きなダブルベッドにふかふかの布団が準備されていて、女の子二人には十二分に快適な寝床だった。そのあとのことはほとんど覚えていない。ほんの数分で眠りに落ちた。

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「手記」

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