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「ゆめごこちの森」 #虹のくじら


ゆめよゆめ
ゆめはいつ見てもいい
ゆめは大きくなくていい
叶わなくてもいい
ゆめよゆめ
ゆめは見ているだけでいい
みているあいだに 育つもの
みているあいだに 気づくこと
ゆめよゆめ
ゆめは言わなくていい
そっと抱き 抱かれるもの
ゆめなんてないわ と 彼女は言った
でもほんとうはある
彼女にもある
ほんとうにちいさな 他愛もないゆめ
あのひとと会いたいな
まだ見ぬあのひとと巡り会いたいな
あのひとにほめられたいな
ほめられるくらいきれいになりたいな
ピアノがもうすこしうまくなりたいな
ひろい部屋にすみたいな
海辺で暮らしたいな
弟みたいに父さん母さんのあいだで寝たいな
それもゆめ ゆめよゆめ
彼女はゆめを そっと胸にしまってきた
ひとは、たくさんのちいさな夢をしまいこんで
おとなになる
ゆめよゆめ おもいだして
しまいこんだゆめに抱かれて あすにいくの
そしていつか すきなひとに 話そう
ちいさいゆめを すこしづつ 話そう
しまいこんだゆめが きっと
宝石のようにかがやきはじめるから



『虹のくじら(美術出版社)』に収録されている内容です。

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