【みんな同じで、みんな悪い】


皆さま、
本日もご搭乗誠にありがとうございます。


この飛行機はトンチンカン航空、逆方向行きでございます。


お乗り間違いございませんようチケットをいま一度お確かめください。


✈️


私には一人の弟がいます。


彼は幼少期からひどいアマノジャクでした。


風呂に入れと言うと入らない。
ご飯を食べろと言うと食べない。
寝ろと言うと寝ない。



そこで母は考えました。



「風呂入るなよー!」
「ご飯だけは食うなよー!」
「寝たら許さんけんねー!」



こうして弟は逆の行いをしてくれたそうです。


私は弟ほどナンセンスな天邪鬼ではありませんが
やはり変わっています。

人と同じことをするのが嫌いなのです。


山口県を代表する詩人、金子みすずさん。

「みんな違って、みんないい」という素晴らしい言葉があります。


しかし天邪鬼な私は裏を返し、


「みんな同じで、みんな悪い」


と思うことがあります。


私が経験した「みんな同じでみんな悪い」の一つ。


それは…

"何も考えず前例踏襲すること" 


✈️



あれはCAを辞めた後のことでした。

明治時代から時が止まったままの会社に入社した日。
最初に私の教育係が教えてくれたのは…


毎朝早く出社して同じフロアの20人全員に
お茶を出すようにとのこと。
しかも全員のコップを覚えろとのこと。
さらにそれをやるのは女の仕事とのこと。


私は驚きすぎて頭からひっくり返って
全身骨折しそうになりそうな所を
なんとかバク転して着地しました。


その日のうちに退職しても良かったのですが
結局3年半勤め上げました。


この会社の女性たちはこれまで
誰も異論を唱えてこなかったのでしょう。


ただ言われた通りやる。
嫌でもやる。
今までみんながやってきたからやる。
そして次の世代まで持ち越す。


これがもし私の弟なら…。
やれと言われる限り一生お茶を出さないでしょう。

しかし私はワンランク上の天邪鬼です。
ひとまず言われた通りお茶出しを真面目にやり続けました。


…そうして半年ほど経った頃。

「お茶を出すのが遅い」

教育係の女性から指摘されました。
「みんなそう言ってますよ」と。


よしきた! チャンス!

私はそう思いました。



私はその足で代表者の元へ直談判に行きました。
(彼もよそから来た方で、変わってると言われていました。)


「実は…
 私はお茶を出すのが遅いと
 みんなに言われているそうなのです…。
 女なのにお茶もまともに出せない私は
 辞職した方がいいのでしょうか…。」



代表者の方はあんぐり口を開けました。


このご時世に
女だからとか、お茶出し文化があるのかと…。

そうして彼は動いてくれました。
全フロアにウォーターサーバーを導入してくれたのです。

おかげでお茶出しは全面廃止となりました。


しかし…。

安心するのはまだ早かったのです。
信じられないのはその後の出来事でした。


お茶出しが全面廃止となった後のある日、
私は給湯室で他の女子社員達と話していました。


「お茶出し無くなって良かったです〜」


私が言うと、
みんな、だんまり…。


あれ?
なんか変なこと言ったか?と焦りました。


すると、
一人の方が言いました。



「私…お茶出し好きだったんだけどなぁ」



ん…?
幻聴でしょうか?


そして…。

なんと、次々に

「私も。」
「私も!」
「私も!!」


血の気が引きました。
そんな、バカな…。

額から脇から、冷や汗が止まりません。
もう私の体がウォーターサーバーです。


やはり私はおかしいのです。


耳元ではついに
金子みすゞ詩集の朗読が聞こえ始めました。


🫧 🫧 🫧

私もと言うと、私もと言う…

こだまでしょうか?

いいえ、誰でも…

🫧 🫧 🫧

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