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【雑感日記】 「おかしな日本語」(16)

 今日は文字ではなくて音の話です。かれこれ30年くらい前から日本語(標準語)で気になるイントネーションの移行が始まっています。イントネーションの表現は文字では難しいのでひらがなとカタカナを使って説明します。以後例の中でカタカナは高いイントネーション。ひらがなはカタカナに対してイントネーションが下がるということにしましょう。

 この表記でいくつか例をあげます。
桜[さクラ]  紅葉[モみじ] パパイア[ぱパいあ]
アマゾン[アまぞん] 東京[とウキョウ]

 このくらいまでが文字でのイントネーション表記の限界なのでしょうが、簡潔でかつオンラインで誰もが見られるとなればこの程度でいいかと思います。このイントネーションがここ30年ほどで変化をしています。たとえば、

バイク[バいく]→[ばイク]
雨戸 [あマど]→[あマド]
かなり[カなり]→[かナリ]

 とくに「かなり」は間違ったイントネーションがCMで用いられていて聞いているだけでも不快です。このイントネーション変化はまだどの言葉にも見られるというわけではありませんが、その数は徐々に増えているように思えます。もちろんイントネーションの変化は地域的な方言によって千差万別でもあるのですが、標準語の中でこのような変化が見られていることが問題です。

 日本語はただでさえ音数が少ないので「同音異義語」が発生する可能性が他の言語よりも多く、それを漢字表記やイントネーションの違いで表現し分けています。ところがこの根幹になるイントネーションが変化するというのは言葉の意味に関わる問題でもあります。今のところは変化語の音が他の意味を持つ言葉と重なってはいませんが、イントネーションの後退化はその速度が遅いために世代単位で言葉が異なる原因でもあります。

 その一方でこんな例もあります。
彼女[カのじょ]はどんな時もよく笑う女の子。
彼女[かノジョ]はどんな時もよく笑う女の子。

 上の文章は意味合いとしては「この女の人は」という意味ですが、下の文章だと「自分の彼女」はという意味に変わります。「自分の」という言葉を省略した代わりに「彼女」のイントネーションを変えています。まだまだ一般的ではないとも思えますがこのようにイントネーションを使い分けている例もあります。ただしこれは「彼女」に限り、女性の立場だと「彼」ではなくて「彼氏」になり、その場合のイントネーションは[かレシ]と言います。

 もう一つ最近こんな表現が一般的になってます。正直言って無礼な口の利き方だと思うので自分は絶対に使いません。

今日雨とか降るんじゃね[ふルンジャネ](↑)。
この店に来たらまずは豚丼じゃね[ぶタドンジャネ](↑)
明日で良くない[よクナイ](↑)
(3つとも最後は上がり調子)

帯広豚丼

 今の例文の上の文章はアクセント表記をすると上でも書いてあるように「降るんじゃね」は[ふルンジャネ]と表記できます。つまりですね、語末の上がり調子が増えていることに加え「〜ですよね」と同意を求める疑問文に独特な表現が用いられてきたことがわかります。言語ですから常に変化する事は致し方ないとしてもこれは端から聞いていたり、自分に用いられたらとても不愉快に感じるという人もいると思います。間違いなく退化の方向へと変化している現れでもあります。ちょっとこんな言葉遣いに抵抗を感じない人はマズいと思った方がいいと思います。その言葉遣いでは世の中渡れません。

 親しい者同士という限定された場での使用であればそれはそれで心的距離が狭くなった親しい表現のひとつとして受け取れる事でしょうが、目上の人や面識のあまりない人に用いれば確実に失礼な表現です。たとえ言語の変化は容認すべきと考えても、失礼な表現へと向かうのは言語の退化です。先ほどの例文を正しい用法に直すと

今日は雨が降るかもね。
この店に来たらまずは豚丼ですね。(豚丼だね)
明日で良くない[ヨくナい] または 明日でいいよね

 こうなってしまうと却ってかしこまって嫌だと思う人はその感覚がすでに狂い始めている予兆であることを知りましょう。しかしこの用法はイントネーションの移行という特徴以外に、わざわざ肯定表現を否定表現に直した上でイントネーションを変えるのか、変な文法が現れたと思っている。これは寧ろ言語学的な方言、それも年代的要素の強い方言だと思います。いずれにしても退化した表現でしょう。

 以上、アクセントの移行とそれに伴う表現の変化について最近耳につくものを紹介しました。何でもかんでも「餃子」と同じアクセント配列の言葉を特に語末に用いてませんか。今一度チェックしてもいいかと思います■

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