たもかけ~将くんと駆くんのとある日のデート~

「お疲れ様でーす」
「あ、田中さん、お疲れ様です」
今日も、佐藤ちゃんと一緒のシフトだ。佐藤ちゃんはしっかりしているから、いるととても安心する。あと、僕の相談にもいっぱい乗ってくれるし……とってもいい子なんだ。
「あ、そういえばこの間猫ちゃんパンケーキ食べたんですけど……まあ食べたのは私じゃないけど、田中さん行ったことあります? 猫ちゃんパンケーキのお店」
「あ、聞いたことある~ 由実が行きたいって言ってたところだー」
「そこにめちゃくちゃぶりっこの店員さんがいて、なんか黒髪ツインテールでヒラヒラフリフリした服着てて、顔は可愛いけど性格は悪そうな人だったんですけど……」
「……なんか、そういう人知ってる気がするなぁ……」
性格悪そう、かどうかは置いといて、前に……駆くんにキスをしていた、女の子の事を思い出す。高橋さん……だったかな。駆くんにフラれてめちゃくちゃ泣いてたって言ってたけど、大丈夫かな……。な、なんて心配しなくてもいいよね! 僕の恋人の唇を奪ったわけだし! うん!
「え、そうなんですか」
「うん。まあ、ちょっと……色々あって。」
「へぇ……ま、あえて色々は聞かないですけど、でも、猫ちゃんパンケーキ田中さん好きそうだなって思ったから、良かったら彼氏さんと行ってみたらどうですか?」
え、それって、デートってこと?!
はわわわ……駆くんとデートでパンケーキ食べる……あわわわ……
「田中さん?」
「はっ! な、なんでもない! そ、そうだね、行ってみようかな~」
でも、高橋さんが働いてるなら、あんまり行きたくないよーな……気がしないでもない。でも、猫ちゃんパンケーキは興味ある。駆くんに相談してみよーっと……。

バイトが終わり、家の最寄り駅までつくと、駆くんが駆け寄ってくる。
「将さん!」
「駆くん~!」
「今日もお疲れ様です。 さ、帰りましょうか。」
そう言って、僕の手を握る駆くん。……こういうこと、さらっとやるからかっこいいんだよなぁ、駆くん。ぼ、僕もこういうことかっこよくやりたい!ん、だ、け、ど……イマイチうまくいかないんだよねぇ……
「あ、ね、ねえ駆くん。猫ちゃんパンケーキって知ってる?」
「ええ、知ってますよ。でも、あの店は駄目です」
「なんで?」
「高橋のバイト先なので。」
あ、やっぱり駄目なんだ……思わずしょんぼりしてしまう。高橋さんは確かに気になるけど、猫ちゃんパンケーキ食べたかったな……。
「……あ、すみません、僕の勝手な事情で即断ってしまって。猫ちゃんパンケーキ食べられる店、ちょっと遠いですけど他にもあるので、そっちに行きましょうか。」
「! う、うん!」
「じゃあ、家に帰ったら予定を立てましょう」
「うん! うわぁ~楽しみだなぁ~」
僕はドキドキワクワクしながら、駆くんと手を繋いで家に帰った。

それから数日後……。
駆くんといつもよりちょっと長く電車に乗って、猫ちゃんパンケーキが食べられるというお店に向かった。
道中も、やっぱり駆くんは僕の手を握っていて……僕の心臓は爆発寸前だった。
「着きましたよ」
駆くんが指さしたのは、どこの国の言葉なのかよく分からない表記の名前のお店。外観は白とピンクを基調とした可愛らしいもので、男二人で入るのはちょっと勇気がいる。
「ぼ、僕たちが入って大丈夫かなあ~?」
「大丈夫ですよ。 行きましょう。」
駆くんに手を引かれるまま、僕は店の中に入った。

店内は可愛らしいオルゴール曲が鳴っていて、女性客がたくさんいた。明らかに、僕たちは浮いていたと思う。でも、駆くんはまったく物おじせずに、店員さんに話しかけて、席に案内してもらった。
メニューを見てみると、猫ちゃんパンケーキ以外にも、ワンワンワッフルとか、普通のチョコレートパフェとか色々あった。全部、可愛い。とにかく可愛い。由実が行きたがるのも分かる気がする。多分由実の目当てはこのひよこちゃんケーキだ。
「あわわ……猫ちゃんパンケーキ可愛いねぇ、駆くん」
「そうですね、将さん」
「……どうしたの? なんか楽しそうだね」
「そりゃ、楽しいですよ。恋人とデートしてるんだから」
「! あわわわ……」
そうだ、これはデートなのだ。
猫ちゃんパンケーキの魅力に負けて(?)若干忘れかけていたが、デートなのだ。
顔がぶあああっと熱くなる。
「ふふふ、顔が真っ赤です、将さん」
「うう……」
頭を抱えた僕を見て、駆くんが目を細めて優しく笑う。
嗚呼、その笑顔、好きだなぁ
「ご注文はお決まりですか?」
そこに、店員さんがやってくる
「あ、は、はいっ! えーと、えーと、ね、猫ちゃんパンケーキ一つ……とカフェモカで……」
「僕は、ブラックコーヒーと、ワンワンワッフルを一つ。あと、お持ち帰りでひよこちゃんケーキを一つお願いします」
「承りました。少々お待ちください」
店員さんが去っていって、僕は駆くんに尋ねる
「も、もしかして、由実のためにケーキ頼んでくれた……?」
「はい。 きっと、羨ましがるだろうから」
「ありがとう~~~絶対喜ぶよ!」
「それなら良かった」
そこからは、女性客の若干の奇異の目線が少し気になりつつも、食べ物たちが運ばれて来るまで、楽しく会話をした。

猫ちゃんパンケーキは、思った以上に可愛かった。
猫ちゃんの形をしたパンケーキに、メイプルシロップとホイップクリームが添えられていて、チョコペンでにっこり笑った顔が描かれている。
「可愛い~~~~!」
「ふふふ、そうですね」
「ど、どこから食べるか迷っちゃうな……頬っぺたからかな……」
僕はナイフとフォークをパンケーキの上で暫く泳がせて、それからようやく、端っこを少しだけ切り取って口に運ぶ。
ふわっと広がる、適度な甘さがとても美味しい。
「美味しい~~~~!!!」
「それはよかったです。」
「駆くんも食べる?」
「いいんですか?」
「いいよ~ あーん」
「……。」
駆くんがぴたっと固まる。
「ど、どうしたの?」
「い、いえ、あまりにもナチュラルに「あーん」をされてしまったので、ちょっと……さすがの僕も油断してました……。」
「油断?」
「将さんが可愛いってことです」
「!」
僕たちは、お互い顔を真っ赤にしながら、目を合わせて、笑い合った。

パンケーキを堪能して、大満足した僕たちは、由実へのお土産ひよこちゃんケーキをぐちゃぐちゃにしないように気を付けながら持って、帰路についた。
「美味しかったねぇ~」
「そうですね」
「……あ、あの、駆くん」
「はい、なんでしょう」
僕は勇気を振り絞って言う
「手、繋いでいい?」
「ふふふ、いいですよ」
そう言って笑う駆くんの笑顔が、やっぱり好きだ。
僕は駆くんの手を握って、歩く。
とってもとっても、幸せな時間だった。

後日、ひよこちゃんケーキを見た由実が
「最高~~~~~!!!!」
と叫んだのは、また別の話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?