映像編集のように小説を改稿する

最近、小説を書くことの本番は、「書いた後」の作業にある気がしてきています。

初稿を書くのももちろん時間がかかるのですが、個人的にも、実際その後の改稿・校正は更に時間がかかっています。

単に誤字脱字をチェックするだけではなく、大幅にシーンをカットしたり前後を入れ替えたり……どんどん迷路にはまっていき時間は過ぎ、〆切は迫ります。

最初から完成形がわかっていて、そこを目指して初稿を書ければいいのにとどれほど思うことか……!どうにかもうちょっと作業を短縮できないのか悩んでいたとき、映画編集の本に行き当たりました。

編集者たちは映像を「切って繋ぎあわせる」という具体的な作業よりも、そのための「道筋を見いだす」ために多くの時間を割いている
ウォルター・マーチ『映画の瞬き』
もし完成品がどのように編集されるのかを最初から「完璧に」知り尽くした上で同じ日数だけ通っていたとしたら、一日わずか一回半フィルムを繋いだだけだ  

まさに改稿をしているときの気持ち……!
最初から完成形が見えていれば、8万字なら8万字書くだけで終わるのに……!(実際にはその数倍書いたり消したりする)

著者は地獄の黙示録などの編集を行ったことで有名な、映画編集の大家です。

映画編集で重視されるポイント

著者は、理想的なカットのあり方を下記の6点にまとめています。

①感情 51%
②ストーリー 23%
③リズム 10%
④視線 7%
⑤スクリーンの二次元性 5%
⑥三次元空間の継続性 4%

①感情が最重要、というのも、小説に共通できる観点かと思います。(ジャンルにもよるでしょうが)

著者は、6つのルールのうち番号の若いものは何より重要視し、リストの下から犠牲にしていくべきだといいます。

極論すれば、リズムやストーリーの破綻を気にするよりも、感情を最重視して伝えるようにすべき、それがうまくいっていれば他の瑕疵はあんまり気にならない、ということです。

もちろん感情がきちんと表現され、ストーリーが独創的で、リズムがよく、論理的に整合性がとれていて……というのが理想ではあります。

しかし、優先順位はある、ということです。

確かにのめり込んで映画を見たり、小説を読んだりしているときには「この人物は部屋のどの辺りに立っていたっけ……?」みたいなことはあまり気にならないかもしれません。(本格ミステリでなければ……)

編集をする前に頭を切り替えるには

ベストなのは、クランクアップしたら、編集作業に入る前にスタッフに一度別れを告げて、二週間ぐらい(海でも山でも火星でもどこでもいいから)雲隠れして、余分な情報を絞り出してしまうことだろう。

自分で書いたものを冷静な視点で改稿するためには、どうしても時間を置く必要があります。

二週間くらい海に行きたいところですが、とはいっても、それほど時間がないことも多いはずです。
本の中では、撮影後アルプスに登り、生命の危機に関わる状況に自分を置くことで、今まで撮っていた映画から頭を切り替える監督のことが紹介されています。

時間がないならとにかく、今までの頭の中身を一度放り出せるような、何かをすること。

アルプスに登れるかどうかはちょっとわかりませんが……。

編集をスピードアップさせるには

映画編集はとても時間のかかる作業です。

そもそも元はフィルムだったものを切って貼ってするわけですから、テキストファイルの切り貼りとは格段に違う労力がかかります。

そのためいかにスピードをアップするかは重要な問題です。デジタル編集の導入とそのスピードアップについても著者は語りますが、最終的には下記のような結論に至ります。

スピードに関して本当に大切なことは、「どれだけ速くできるか?」ではなく「急いでどこを通るのか?」である
私たちはとどのつまり、人間の魂が支配する世界に生きているのだ。何を表現したいのか、どうやって表現したいのかということが一番大切なのである。

スマホよりキーボードを使えばより速く打て、更に音声入力を使えばもっと入力自体は速くできます。

でもそうやって何を短縮しどこを目指すのか。

そこが見えていないと結局は適切な最終形を見出すこともできないのかもしれません。

引用はすべて下記書籍からです。


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