食べない男

その男はカウンターに1人座っていた。黒いリュックを背負ったまま、黒いウィンドパーカーにグレーのスウェット、黒のスニーカーに黒の帽子。眉間にシワをよせ、険しい表情で座っていた。テーブルには12個セットの餃子と水、手には携帯電話を持ち、耳に当てていた。が、話している気配はなかった。
「餃子以外を待ってるのかな?」と思い、最初はあまり気に留めていなかった。
私は餃子とレバニラ炒めを頼み、本を読みながら男を視界に入っていたので見えていたのだけど、一向に餃子を食べる気配がない。小皿に醤油や酢を入れてもいない。
店員がきて、「何か他に注文がありましたでしょうか」と聞いた。「いえ」とだけ答え、店員を一蹴すると、また周りを見渡したり、店員を見たり、水を飲んだりして、餃子は食べない。
この男はなんなんだろう?
爆弾魔?無差別殺人犯?自殺志願者?
店員のストーカーだろうか、
それとも下手なミステリーショッパー?(店舗を調査する人)
そうこうしているうちに、私の餃子とレバニラ炒めが到着した。私は食べるのが速いが、それでも15分はかかっただろう。その間も男は餃子を食べようとはしなかった。
動くときはあたりを見渡したり、水を注いだりするときだけだ。
いよいよ怪しい...でも彼がやっているのは、「まあまあ混み合う昼時の店内で、頼んだ餃子を食べずにいる」だけなのだ。
店員も訝しげに見ているに違いないが、他に注文は?と聞く以外に、できることもないのだろう。
警察に届けた方がよいか?とも考えたが、餃子を頼んだのに、ずっと食べてないんです。って... 怪しいといえば怪しいけど、怪しいのは私になりそうな事案である。

結局何もせずに店を出た。

あの食べない男は、なんだったのだろう...

#エッセイ #日記

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野中エミ

日記

日記。
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