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国際金融制度改革の必要性12 ー 為替レート/まとめ

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為替レートの決まり方

ここで、銀行に持ち込んだ時など、為替レートがどこで定まるのかという、外国為替にとっての根源的な問題に行き着くことになる。為替レートの定まり方には、大きく言って以下の三つがありそう。一つ目は、中央銀行が受け入れられる為替レートとその量を決める管理相場制度、次いで需給残高から為替レートを自動で決めそのレートで成立した取引を中央銀行が全て引き受ける変動相場制、そしてケインズのバンコール的な国際決済通貨を挟んで需給の調整を行う中間決済通貨制だ。デリバティブがなければ変動相場制が一番リアルタイムで需給を反映して調整が行われると言うことで現実適応的であると言えるが、果たしてリアルタイム決済にそこまでコストを掛けて取り組む価値があるのか、という問題はある。瞬間的に変わる需給をいちいち織り込んでその都度相場を計算するよりも、どうせ最終的に中央銀行引き受けになるのならば、中央銀行が日々引き受けレートを定める方が遙かに取引コストが下がる。取引主体にとってもいつもレートに張り付いて有利なレートを見極める、という無駄を省くことができ、より生産的な活動に資源を集約することができる。

実需に基づいた2国間レート

ここで、通貨取引とは、究極的には二国間の関係性であり、つまり中央銀行が二つ絡んで始めて通貨取引が発生することになる。そこで、その中央銀行間でのレートの調整というのがいかになされるべきかという問題が発生する。距離的に十分離れていれば、その中間点においてレートを変更する、ということも可能であろうが、貿易取引が比較的活発な近距離の取引では、どちらの中央銀行のレートが優先されるのか、というのが大きな問題となる。それにはやはり中央銀行ごとのレート決定協議、あるいはメカニズムが必要となる。その煩雑さを避ける為に国際決済通貨という考え方が出てくるわけだが、私個人としては、実需取引については、国際決済通貨という段階を踏むよりも、直接通貨取引の柔軟性を増す、というやり方が望ましいのではないかと考える。というのは、レートの設定というのは通貨主権の基本となるものであり、それを国際決済通貨というブラックボックスに委ねてしまえば、それはおそらく需給の複雑な計算に基づいて自動的に設定されるものだと思われ、そうなると微妙な二国間の関係性といったものが、大きな取引を持つ他国の関係性に引きずられて、結局ドルのような基軸通貨の影響がはるかに強く残ることになるからだ。二国間の取引ならば、例えば特定の途上国に対して中央銀行があえて途上国側に有利なレート設定をすることで実質的な援助に結びつけることができる。つまりエネルギーのような輸入品を主とする国とのレートと、輸出品を主とする国とのレートが違うように設定されて、交易条件の一括改善ではなく部分的な改善を積み上げることが容易になるのでは、と考えるのだ。これは輸出国側にとってもメリットがある。つまり、需要国に対して需要国通貨高輸出国通貨安で取引することで、需要国は安く需要を満たすことができ、供給国も値引きを少なく輸出することができるようになるからだ。国内産業と競合しないものに関しては、柔軟なレート設定によって交易を促進することができるようになり、需要国たる途上国側がより強い選択権を確保できることになる。

実需の裏付けのない為替

ここで、実需を伴わない本支店間の資金移動や、個人の自由なお金の使い方を一体どうやって国際的に担保するのか、という問題が発生する。本支店間の資金移動に実需の基礎となる証憑はできないし、一方で個人が例えば海外旅行をする際に、実需の度ごとに為替を通すというのは、もちろんクレジットカードなどを使えば良いのだが、全ての店が全てのカードに対応すると言うことは不可能であり、どこかで事前の為替が必要となる。ここで国際決済通貨的なものが必要になるのかも知れない。実需を伴わない為替の根本的問題は必要もないのに通貨を売るという空売りの仕組にあるわけで、それを空売りではなく国際決済通貨的な物の購入代金とし、そしてその各国通貨による購入代金が積み上げられて、その残高が信用算定基準となってレートが定まる、というものだ。つまり、実需外の通貨売りを空売りではなく信用の積み上げであると定義するのだ。その過程は、まず自国通貨で国際決済通貨を買い、今度はその国際決済通貨によって他国の通貨を買うこととし、レートは国際決済通貨代金として積み上げられた各国通貨の残高によって決まる、というものだ。残高が多いほど信用力が高いことになり、国際決済通貨に対するレートは高くなる。ただし、このレートは実需に基づく中央銀行間で定められる二国間レートとは完全に独立で、信用力が上がったからと言って輸出が不利になるという事はない。これによって途上国から先進国への資金の回収は、実需取引レートとは独立してその国の信用力向上となり、実需外取引が実需取引に影響することがなくなる。資本移動の自由化によって永続的に通貨安の従属的地位に甘んじることがなくなるのではないかと期待される。

通貨主権確保のメリット

こうして各国の通貨主権を確保することで、複雑な為替オプションがなくなり、単純に、自然災害のような突発事故によって一時的に通貨が下がっているが、長期的な見通しは十分という国に対して、長期的な直接投資を行うことは合理的選択となる。それぞれの輸出国が自らの製品を有利に売り込む為の為替レートの設定がなされるようになり、それによって通貨が下がっている間に競って直接投資の条件を固める、という動きになりそう。

国の下の地域の自主圏はいかに?

さて、これによって国ごとの自主権はかなり確保されるようになるが、地域の自主権との関わりはどうなるか、ということがある。現状ではなかなか現実感はないが、個人的には地域ごとにそれぞれが通商自主権を持つことで、外交の分権化が多少なりとも実現できたら国家間紛争リスクを減らすことができるのではないかと考えている。つまり、中央銀行が為替を取り扱う際の輸出や輸入の決済証に、当該地域の認証が必要となるという仕組を導入するのだ。地域が輸出入の相手先に関して認めないという権利を確保することで、紛争や人権、あるいは環境と言ったことに関して地域が交易の拒否権を持つようにすれば、国による経済制裁に比べてはるかにマイルドな形の牽制を、地域のリスク、負担によって行うことができるようになる。もっとも、商品ごとにすべて相手国管理を行うというのは実務的には現状非常な困難を伴うので、ブロックチェーンのような技術によってサプライチェーンが管理、可視化されるようになってはじめて実現可能となるのかも知れない。

地域政治体制の強化

いずれにしても、このような形で地域の自主権が高まることで、当然その責任も増し、必然的に地域の政治体制の強化が求められるようになる。そのような外交的な判断を地域住民が直接行うようになるというのは、大きな権限の委譲であり、それを柔軟、迅速に行うことができるようにする体制が求められ、それは必然的にその他の政治テーマについても同じように適用されることになる。それによって地域政治というのが、国政を向く、というよりも、地域住民を向く、と言うことになり、より政治が身近に、直接民主制に近いものになるし、それにあった制度作りを進める必要が出てくるだろう。

通貨の信用担保

最後にもう一つ、変動相場でも固定相場でもない時に、通貨の最終的な信用が一体何によって担保されるのか、という問題がある。基本的には通貨というものは、まさに社会、というか人々の相互の信頼関係によって成り立っている、つまり通貨を受け取って、それが他の人に同じ価値で流通させることができる、という信頼があってこそ成り立つものである。それを国家が強制通用力として保証していることから、国の通貨主権というものが確立されるわけだが、何を根拠に強制通用力を適用させることができるのか、という問題がある。最終的に貴金属に交換できるわけでもないとしたら、一体何がその国家の強制力を正当化するのか、という問題だ。国が生きてゆく為の共同体であるとすれば、飢饉などの突発事態が起きたとしても、少なくとも1度の収穫期を迎える1年以上は生きてゆけるだけの食料、水、そしてできればエネルギーを確保する、という危機管理の面が一つある。そしてもう一方では、そもそも事後的に何かとの交換を担保するのではなく、先に全員に通貨を配ってしまえば、それを使う以上、他者からのそれも受け入れる義務がある、という理屈は当然通るだろう。いやなら使わなければ良いのだから。この事前信用供与によって強制通用を自発通用に変える事ができるようになる。

まとめにかえて

私は、同時多発テロの4機の飛行機墜落から得られる教訓として上記の点を導き出したいが、それにも増してこの記憶に残る大事件について、20年の記念の年にもっと議論が深まることを期待したい。そして奇しくもニクソンショックから50年にも当たる今年、特に金融・為替について活発に議論がなされ、ニクソンショックでゆがんでしまった国際金融体制を少しでも正常化するような動きが生まれる事を望みたい。

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